読書記録2007

最近、一度読んだ本でも忘れていることが出てきて年を感じます。ひどいときは、新しく読む本だと思って、面白く読み進めていくうちに、何だか知っている気がしはじめて、読み終わる頃に、そういえば昔読んだことがあったと思い出すこともありました。 「常に新鮮な喜びが味わえてうらやましいこと」などと言われる状態です。そこで、新しく読んだ本を忘備録としてここに書いておくことにしました(平成14年3月開始)。「新しく読んだ」というだけで、別に新刊の本とは限りません。


「朝廷をとりまく人びと」 高埜利彦編、吉川弘文館 平成19年12月読了
 「身分的周縁と近世社会」というシリーズの第8巻で著者のお一人からお送り頂いたのを読みました。7人の著者が1章ずつ書いているのですが、その記述の仕方、方法論などが見事に統一されていて驚きました。身分的周縁に関する研究会の成果をまとめたシリーズのようですが、よほど研究会できちんとした議論がなされたのでしょうね。

「楽譜のしくみ」 西原弦志著、音楽之友社 平成19年12月読了
 下の本を読んだついでに、もう一冊楽譜の本を読んでみました。音程の数え方が一筋縄ではいかない説明の後に、さらりと「そういうおもしろいことも起こるのです」とまとめられると、不合理な点を面白いと思えるようではないといけないのかも、と思い始めます。僕には無理ですが。

「音律と音階の科学 ドレミ・・・はどのようにして生まれたか」 小方厚著、講談社ブルーバックス 平成19年11月読了
 この本を読んでわかるのは、音律や音階がいかに不合理か、ということですね。しかも、その不合理さの一部は、1オクターブの定義そのものから来ているようですから、何をやっても解決することはなく、できることは妥協点を探すことだけのようです。その妥協点が平均律なのでしょう。それでも、長三度、完全五度といった名称は過去にとらわれなければ解決できる不合理のように思います。

「黒体と量子猫 1,2」 ジェニファー・ウーレット著、ハヤカワ文庫 平成19年11月読了
 これは期待はずれでした。アメリカの物理学会会員向けの月刊誌に連載されていたコラムをまとめたものだそうですが、著者は物理学の素人で、物理的な説明はわかりづらいし、比喩も適切でないものが多いように感じられます。今月読んだファインマンやアクゼルのようにはいきませんね。

「軍犬と世界の痛み」 マイクル・ムアコック著、ハヤカワ文庫 平成19年11月読了
 ムアコックの永遠の戦士フォン・ベックが主人公のファンタジーです。いわゆるヒロイック・ファンタジーの系列でありながら、ヒーローがきわめて常識人で、敵をばったばったとなぎ倒すシーンは皆無、というのが特徴でしょうか。エルリックやエレコーゼのシリーズに比べてより「小説的」という印象を受けます。

「相対論がもたらした時空の奇妙な幾何学 アインシュタインと膨張する宇宙」 アミール・D・アクゼル 著、ハヤカワ文庫 平成19年11月読了
 相対性理論の成立過程を宇宙論に対する影響を中心に取り上げた本です。この著者の科学本は、科学者の人間関係に踏み込むのが特徴で、アインシュタインをめぐるさまざまな動きが興味深く読めます。

「光と物質の不思議な理論 私の量子電磁力学」 R. P. ファインマン著、岩波現代文庫 平成19年11月読了
 ファインマンのエッセーを読んで、「この人の書いた教科書でなら物理学がわかるかも知れない」と思って「ファインマン物理学全5巻」を買い込んで、結局挫折した人も多いでしょう。この本は、素人向けの講演会の記録で、光と物質の相互作用に関する量子力学的な解釈が極めて平易に説明されています。特に第1章は見事で、科学的な正確性を失わないでいかに平易に説明するか、のお手本と言ってもよいでしょう。ここらあたりまでだったら挫折しなくてすみそうです。

「剣の中の竜」 マイクル・ムアコック著、ハヤカワ文庫 平成19年10月読了
 エレコーゼ・サガの2巻目です。エルリック・サガと同じ著者によるヒロイックファンタジーですが、主人公が剣を振るうシーンがほとんどないことが印象に残ります。第一級のファンタジーであるという評価にはなりませんが、一筋縄ではいかないファンタジーであることは確かでしょう。

「これでナットク!植物の謎」 日本植物生理学会編、講談社ブルーバックス 平成19年10月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「地球環境と生態系 ー陸域生態系の科学」 武田清、占部城太郎編、共立出版 平成19年10月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「ローマ人の物語 終わりの始まり(上・中・下)」 塩野七生著、新潮文庫 平成19年9月読了
 ローマ帝国も、いよいよ哲人皇帝の時代から、ギボンの扱う「衰亡」の時代へとさしかかります。次々現れる軍人皇帝も小粒になって、英雄が国を作った時代から、ある程度の能力を持った人ならばチャンスさえあれば皇帝にもなれる時代に入ったように思われます。著者の相変わらずの語り口は、いつも気持ちがよいですね。

「黒曜石のなかの不死鳥」 マイクル・ムアコック著、ハヤカワ文庫 平成19年8月読了
 エレコーゼ・サガの1巻目です。エルリック・サガを買って読んだ続きで買ってみました。エルリックとは少し違った趣もあって悪くはないですが、やや平板な印象を受けました。

「バビロンまでは何マイル(上・下)」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著、東京創元社 平成19年8月読了
 これは「花の魔法、白のドラゴン」の前日譚です。ファンタジーではありますがもともと大人向けとして書かれたようで、上下2巻で読み応えがありますが、一気に読んでしまいました。登場人物が一癖二癖あって魅力的です。

「時の町の伝説」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著、徳間書店 平成19年7月読了
 これもなかなか面白いのですが、ややストーリーの展開に追われて、人物描写が平板になっている 感じがしました。

「星空から来た犬」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著、徳間書店 平成19年7月読了
 これは、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの最初期の作品で、後期の作品とはやや趣が違います。前半のSF調の 部分は、やや違和感がありましたが、後半になると深みがまして満足できました。

「花の魔法、白のドラゴン」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著、徳間書店 平成19年7月読了
 登場人物二人の視点から交互に語られます。舞台は、魔法が重要な役割を果たす並行宇宙の世界で、ちょっとエルリックサーガを思わせますね。 しかし、人物造形はダイアナ・ウィン・ジョーンズそのものです。

「ゲドを読む」 糸井重里プロデュース 平成19年7月読了
 岩波書店とスタジオジブリがタイアップして作った「文庫本型」フリーペーパーです。中身は、何人かの人の ゲド戦記に関する評論が主で、なかなか充実しています。中沢真一、川合隼雄の文章は、読み応えがありますし、 中村うさぎの文章もいいですね。清水真砂子の書いたものは、訳者の割には期待はずれでした。宮崎吾朗も、 言いたいことはわかるけど、ちょっと考え方が偏っているのではと思います。佐藤忠夫という人の書いたものは とてもゲド戦記を理解しているとは思えませんでした。

「マライアおばさん」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著、徳間書店 平成19年6月読了
 これもまた一級のファンタジーです。ストーリー展開は、さほど目を引きませんし、前半は展開がゆっくりでじりじりしますが、登場人物の個性がしっかりしていて、飽きさせません。

「七人の魔法使い」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著、徳間書店 平成19年6月読了
 この人のファンタジーはどれも独特の味があっていいですね。これは、ややどたばた調ですが、登場人物のとぼけた個性と、いつもながらのストーリーテリングが冴えています。

「ヒトはおかしな肉食動物」 高橋迪雄著、講談社 平成19年6月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「銀色の愛ふたたび」 タニス・リー著、ハヤカワ文庫 平成19年6月読了
 「銀色の恋人」から24年ぶりに出た続編です。これも、前作に比べるとロボットも人間も感情に深みがなくて、今ひとつという感じでした。

「アルテミス・ファウル オパールの策略」 オーエン・コルファー著、角川書店 平成19年5月読了
 妖精と現代社会を結びつけたファンタジーシリーズの第4巻です。面白く読めますが、やはり第1巻が一番よかったですね。

「銀色の恋人」 タニス・リー著、ハヤカワ文庫 平成19年5月読了
 これは、ファンタジーで有名なタニス・リーのロボットもののSFです。ロボットものといえば、アシモフでしょうけれども、この銀色の恋人もポジトロン脳のロボットの血を引いている感じがしました。ストーリーの展開が読めてしまうのがやや玉に瑕ですが、子どもの親離れの物語がサブテーマになっていて、なかなか面白く読めました。

「植物が地球を変えた!」 葛西奈津子著、化学同人 平成19年4月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「タムール記 1−6」 デイヴィッド・エディングス著、ハヤカワ文庫 平成19年4月読了
 これは、1月にこの前編にあたるエレニア記を読んだので、10年ぶりに読み直してみました。10年前に読んだ時は、前編を読まずに入ったわりには違和感がありませんでした。それでも前編から通して読んでみると、なるほどという点もありますね。

「白き狼の息子」 マイクル・ムアコック著、ハヤカワ文庫 平成19年3月読了
 エルリックサーガの後期三部作の最終巻です。ホームクーンのシリーズとも接点を持つように書かれているのですが、これは読者サービスなのでしょうか。

「不確定性原理」 岩波文庫 平成19年3月読了
 ゲーデルの元の論文の訳に、詳細な解説を付けたものです。不確定性原理が生み出される過程を歴史的に跡づけた解説は非常にわかりやすく、ヒルベルトなどの数学者の人間性にまで踏み込んでいてすばらしいと思いました。

「マビノギオン」 原書房 平成19年3月読了
 有名なケルト神話ですが、実際には読んだことがありませんでした。アーサー王の物語などの元になったものですが、ストーリー展開がごつごつしていてあまりなめらかではありません。元々は口承文学だったのだと思うのですが、部分的に失われた部分が多いなどの理由があるのでしょうか。

「スクレイリングの樹」 マイクル・ムアコック著、ハヤカワ文庫 平成19年3月読了
 エルリック・サガの後期三部作の第二部です。元々のエルリック・サガの雰囲気を残してはいますが、何とも現代的になったなあ、というのが感想です。エルリック・サガの最初の短編は1961年に出版され、この「スクレイリングの樹」は2003年に出版されているわけですから、40年以上が経っていることになります。著者が変わった、というよりは時代が変わったのでしょう。

「日本の古代語を探る ー詩学への道」 西郷信綱著、集英社新書 平成19年2月読了
 古事記や日本書紀などに現れる「木」「旅」などという言葉に関する考察をまとめたものです。言葉を、単にある意味を示すものとして捉えるのではなく、その歴史的な過程を考えるという姿勢には、人を納得させるものがあります。

「中国の神話」 白川静著、中公文庫 平成19年2月読了
 まあ、よくもこれだけの知識をまとめたものだと感心します。中国の神話伝説は堯舜の話ぐらいしか思いつきませんが、おそらく最初は様々な国の様々な神話が対立融合してそのわずか一部が現在に伝えられている、ということがよく分かります。ただ、理系の人間としては、もう少し整理して記述できるのでは、と考えてしまいますが・・・。

「連歌とは何か」 綿抜豊昭著、講談社選書メチエ 平成19年1月読了
 内容的にはかなり詳しいところまで解説されているのですが、導入が非常にうまく、やさしくされているので、自然と読み進むことができます。全体として受ける印象は、遊びを忘れて規則と惰性が支配するようになった芸術は衰退するという点でしょうか。

「私の百人一首」 白洲正子著、新潮文庫 平成19年1月読了
 百人一首を一つずつ解説もしくは鑑賞した本というのはいくつもありますが、この著者のはどうかと思い、購入してみました。特に目新しいことが書いてあるわけではありませんが、著者の好みなどがうかがわれて面白いですね。

「ローマ人の物語 全ての道はローマに通ず 上・下」 塩野七生、新潮文庫 平成19年1月読了
 この巻は歴史というよりは、インフラの話です。道路と上下水道が主な話題ですが、やはり水道橋というのには感心します。紀元前に水を通すだけにあれだけの構築物を作るという発想はローマ人ならではでしょうか。

「エレニア記 1?6」 デイヴィッド・エディングス著、ハヤカワ文庫 平成19年1月読了
 エディングスのファンタジー「タムール記」の前編にあたる話なのですが、出版が別の会社からなされていたので、読み落としていました。この著者のファンタジーはさらさら読み流す感じで、深みはないのですが、会話に味があって楽しめます。

「ストームブリンガー」 マイクル・ムアコック著、ハヤカワ文庫 平成19年1月読了
 エルリック・サガの一冊で、ストーリー的には一番最後のお話になります。このころになるとエルリックもだいぶ血が通ってきた感じがします。