地球環境と生態系 ー陸域生態系の科学

武田博清、占部城太郎編、共立出版、2006年、282頁、4,000円

本書はプロジェクト研究の成果を踏まえて、プロジェクト参加者が執筆したものとのことであるが、基本事項がおさえられていて、単なる研究成果の紹介ではなく、きちんとした教科書として読むことができる。むしろ、表紙のデザイン、装丁、活字の組み方などは、いかにも昔ながらの教科書という感じを漂わせており、若い学生がそのような教科書然としたところを敬遠するのではと心配になるぐらいである。湖沼・河川を含む陸域の生態系の炭素の収支・フローがさまざまな異なるレベルで解説されており、中でも環境を考える単位として流域に注目している点は、近年の研究の方向を示しているのであろう。おそらく生態学の学問としての特徴なのだと思うが、第1章の光合成の部分は例外として、さまざまな自然現象について、個々の細かい中身は全くのブラックボックスのまま議論が進められる。生理学者から見ると、是非とも、そのブラックボックスの中のメカニズムを知りたいと思わせる興味深い現象がたくさんあり、本書は、生理学者にとっても示唆に富む本だと言える。本書で紹介されているさまざまな事例は、その環境に依存して大きく異なり、貧栄養の湖と富栄養の湖では炭素は異なる動きを示し、熱帯林の解析結果は亜寒帯林に適用できるとは限らない。題名にもある「地球環境」という観点から考えた場合、そのような異所性・異方性をどのように処理するか、という点が問題になるだろう。本書では、研究例の数を増やして、より細かいメッシュに分割して全体を足し合わせる方向が想定されているようであるが、少ないパラメータによって経験的に一次生産などを推定する筑後モデルのような方法論とどのようにかみ合うのかなど、地球規模での見積にいたる過程についてももう少し触れてもよかったのではないかと思う。

生物科学ニュース 2007年12月号(No.432) p.5