しくみと原理で解き明かす 植物生理学
佐藤直樹著、裳華房、2014年、188頁、2,700円
植物生理学と銘打たれた教科書は、2008年の暮れから2009年前半にかけて「植物生理学概論」(培風館)、「ベーシックマスター植物生理学」(オーム社)、「植物生理学」(化学同人)と立て続けに3冊が出たが、それから5年たって、新しい教科書が出版された。この5年間で「何が新しく付け加わっただろう」と読み始めたが、最初に気付いたこの教科書の特徴は「何を省いたか」であった。先の3冊が分担執筆の教科書であったのに対して、これは単著である。この新しい教科書では、全体を俯瞰するためにおかれたのであろう第1章において「植物と生命の共通理解」と題して、植物のさまざまな営みと、それにかかわる疑問が提示され、それにより全体の焦点が絞られる。そして、それに引き続く本文は、いわば、これらの問題に対する著者からの回答である。教科書として広い範囲をきちんとカバーする姿勢は見せつつも、図を多く使い、著者の信念が感じられるメリハリの利いた記述になっている。その典型的な例は、気孔の開閉だろう。気孔開閉の調節に関する記述は、本文の中にはわずかに7行であり、細かいメカニズムは言葉によらず、図の中で説明される。このほか、植物生理学の分野において、この5年間で情報量が最も増えた項目の一つである植物ホルモンの受容を起点とするシグナル伝達系の理解についても、細かくメカニズムを列挙するのではなく、大きな図を使って全体像を把握させるようにしている。文章量だけからいえばかなりコンパクトな教科書と言ってよいだろう。図に書かれていることを重複して文章中に書かずに省いているから、この教科書においては、図とそのリジェンドもきちんと読むことが重要である。では、省いた部分の代わりにどこに重点が置かれているか、というと、やはり副題の「しくみと原理で解き明かす」という部分であろう。特に、各章末におかれた「問題」と「課題」にその方針が反映されているように感じる。通常の復習問題とは違ってなかなか手ごわい問題もあり、自分で考えることが重要だ、というメッセージにもなっている。最後の2章に「テーマ学習」と銘打って、葉緑体や、環境、エネルギー、ゲノムといった周辺領域についてやや踏み込んだ解説をしているのもその方針の延長なのだろう。書店で平積みにされていたら映えそうな、鮮やかな「植物色」の表紙の本なので、一度手にとって見られることを推薦したい。