植物生理学概論
桜井英博、柴岡弘郎、芦原坦、高橋陽介著、培風館、2008年、229頁、3,300円
本書は従来「植物生理学入門」として2001年に三訂版が出ていたものを、さらなる改訂を期に改題したものである。この本の大きな特長は何よりもその簡潔な記述である。比較的コンパクトな中に植物生理学の各分野がほぼ網羅されているだけでなく、生化学や形態学の基礎知識まで解説されている。生化学の基礎知識をわずか16ページでさらっと解説した第2章などはその手際に感心させられる。一方で、スペースあたりの情報量が多いため、学部学生が自分で読んで学習するにはやや難しいかもしれない。講義で説明しながら教科書として使う、もしくは大学院で研究を始めるに当たって植物生理学を復習する、といった目的にちょうどよいレベルだろう。通常の教科書では省かれることの多い阻害剤についての記述がきちんとしている点や、クロロフィル蛍光の測定方法が補遺として載せられている点などは、研究を始める学生への配慮のように感じられた。全体の構成を見ても、項目の配列が体系立っており、なにか特定の項目についての記述を探している場合にも見つけやすいように配慮されている。個人的には物質の移動の章が面白かった。他の章に比べて原理的な説明が詳しく、「なぜだろう」という疑問から出発する学問の本来の姿を示しているように思われた。最後の「生活環の制御」の部分は、形態形成の分子機構や植物ホルモンの項と、記述にやや重複が多いのが気になった。むしろ生活環の制御の記述の中で形態形成の分子機構や植物ホルモンを扱うという手もあったように思う。第3版から比較すると、研究の歴史的な部分が少し削られ、分子遺伝学的に新たに得られた知識が大幅に追加されている。7年間の研究の進歩がきちんと追いかけられており、植物生理学全般の教科書として極めて質が高い。