ベーシックマスター 植物生理学
塩井祐三・井上弘・近藤矩郎 共編、オーム社、2009年、373頁、3,800円
植物生理学の教科書にはいくつかありますが、この本の特徴は専門の異なる幅広い分野の研究者16名が集まって分担執筆をしている点でしょう。著者の数が多いと全体として記述がばらばらになってしまいがちですが、本書においては統一性が保たれています。文体にはそれぞれの著者の個性が反映されてはいますが、特に違和感なく読み進むことができます。また、専門家がその自分の研究分野を説明するとどうしても難しくなりがちですが、その点もうまくクリアされているように思います。強いて言うと、一部の章の間に内容の重複があることがやや気になりました。各章の最後には演習問題、参考図書、ウェブサイトの紹介が載せられており、大学の受験参考書のような雰囲気があります。基本的に自分で読んで勉強するための教科書といって良いでしょう。内容的には、植物の構造から始まり、遺伝子の発現制御まで幅広い分野が網羅されています。個人的に残念に思ったのは、せっかく光による制御について1章を割いているにもかかわらず、強光が阻害的に働くしくみの説明がないため、その意義が読み取れないところです。環境ストレス応答の章は別にあるのですが、そこでは、温度や乾燥ストレスに対する応答は詳しく解説されているものの、光ストレスについての記述は通り一遍なため、光による制御の章と結びつきません。チオレドキシンを介したレドックス制御などについてもほとんど記述が無く、もう少し植物にとっての光の意義が解説されていてもよかったように思います。その意味で、植物にとっての光の生態学的な意義を解説した「緑葉の生理生態学」の章は貴重です。もしこの章の分子的な側面を書いた章が加わっていれば、他では見られないユニークな教科書になったのではないかと思います。