植物生理学

三村徹郎、鶴見誠二編著、化学同人、2009年、209頁、3,200円

昨年暮れからこの春にかけて、培風館の「植物生理学概論」、オーム社の「ベーシックマスター植物生理学」そして、この化学同人の「植物生理学」と立て続けに植物生理学の教科書が発行された。「植物生理学概論」は、それまでの「植物生理学入門」の第4版にあたるということもあり、内容の統一性と完成度という点から一番印象に残る一方、「ベーシックマスター植物生理学」は、16人にのぼる著者がそれぞれの蘊蓄を傾けた感が面白かった。この「植物生理学」は、ちょうどその中間の路線となっている。難易度としても真ん中になるだろう。6人の著者によって分担された各章は、きちんと基礎を押さえたつくりになっている。なかでも、第2章は「植物と人類」と題され、遺伝子組換えの方法や組換え植物の現状について取り上げられているのが他書にはない特徴だろう。個人的には、光形態形成の章が短くまとまっていて楽しめた。この章では、よく高校の教科書に載っている歴史的実験の説明などをばっさり切ることによって、最近の研究の流れが理解しやすくなっている。逆に残念だったのは、代謝および光合成の章で、きちんとまとまってはいるものの、20年前でも同じ文章が書けたのではないかと思う。意見は分かれるところかも知れないが、このところ光合成の理解がもっとも進んだのは、光合成反応中心の結晶化に端を発する構造と機能の関係解明が一つ、そしてもう一つは、環境に対して光合成系がどのように制御されているかという環境応答の分野だろう。本書にも、環境応答という章があるものの、植物にもっとも重要な環境要因といってもよい光に対する環境応答の項目は存在せず、光環境応答はわずかに光形態形成の項で少し触れられているのみである。光合成や代謝についても、歴史的な記述はむしろ削って、新しい展開をどこかで扱って欲しかったところである。全15章の構成を眺めた時、全体としてはやや特徴に欠けるかもしれない。3冊の教科書を一度に読んでみてからのあと知恵ではあるが、各章に挿入されたコラムや章末の練習問題などで特徴を付けるか、章の配列をもっと統一的なストーリーの中に位置づけるか、といった工夫ができたらよかったと思う。

書き下ろし 2009年6月