光合成の質問2018年

このページには、寄せられた質問への回答が新しい順に掲載されています。特定の知りたい情報がある場合は、光合成の「よくある質問」(FAQ)のページに分野別に質問を整理してありますので、そちらをご覧下さい。


Q:こんにちは。大学一年のものです。純粋な疑問なのですが、光合成回路が植物によってCAMだったりC4だったりすると思うのですが、ゲノム解析などの育種技術を利用することで、例えばC4植物をCAM植物と同じ光合成回路を持つようにすることは可能なのでしょうか。(2018.4.30)

A:植物の光合成は、大きく分けてC3、C4、CAMに分けられ、C4とCAMでは特殊な光合成経路が働いています。なので、おそらく、質問は、育種によって「C3植物を、C4植物やCAM植物と同じ光合成回路を持つようにする」ことができるのか、ということなのだと思います。結論から言うと、将来的にはできるのではないかと思います。自然界には、C3の光合成とC4の光合成、あるいはC3の光合成とCAM光合成を、生育条件によって切り替えることができる植物が存在します。ただし、そのような切り替えがもともとできな植物について、人間ができるように改変することに成功した例はまだありません。研究は進められていますが、回路を変更するためには、複数の酵素と、複数の代謝産物輸送体を変える必要があるので、なかなか難しいのです。もうしばらく時間がかかるように思います。(2018.4.30)


Q:二つ質問があります。
 一つ目は温室効果ガスがらみの質問です。今や、世界の人口が70億人を超え、そして肉を食べるので牛の数も非常に多い時代です。人間も牛も日々酸素を吸収しCO2を排出する呼吸をしています。人間、牛など動物がどんどん増えたとしても、CO2の量が増える訳ではなくプラスマイナスゼロの世界が維持されるのでしょうか?何故なら、CO2は食物連鎖の過程で、光合成による有機物を食べた動物が体に固定したものという理解です。また牛が出すメタンガスのケースは、光合成と呼吸のプラスマイナスゼロの関係と異なり、牛の数が増えることによりプラスの温室効果ガスの排出となりうるのでしょうか?
 二つ目はケヤキについて植物の形には意味があるという観点からの質問です。ケヤキは、新緑時・紅葉時など空に向かいフィボナッチ数列に従ったような枝配置で放射状にのびる姿がとても美しく感じています。ところが、台風などで枝が折れたり、あるいは人為的な剪定がなされた結果、カットされた部分から出る枝葉は、以前の葉よりでかく、全体にバランスが変わり別物のように感じています。葉がでかくなるのは、ケヤキにとってどのような理由が考えられますでしょうか?またそれを避けるため、剪定の仕方はどうあるべきなのでしょうか?どうぞ宜しくお願いいたします。(2018.4.26)

A:まず、一つ目ですが、温室効果ガスが大きな問題となっているのは、人間が肺から吐き出す二酸化炭素のせいではありません。人間は呼吸によってエネルギーを得て、その過程で二酸化炭素を放出しますが、実際には、その数十倍のエネルギーを快適な生活のために使っています。つまり、呼吸による二酸化炭素の放出は、人間が冷暖房や輸送などのために化石燃料を使用して放出している二酸化炭素に比べると、ごくわずかな割合を占めているにすぎないのです。そのことを踏まえた上であれば、呼吸についてはプラスマイナスゼロ、メタンの生成が多くなればプラスという理解は大筋は正しいと思います。
 二つ目ですが、まず、観察結果を一般化することが正しいかどうかという問題があります。切られた部分から出る葉が大きいと「感じる」場合でも、それが本当に切られたせいなのかどうかを確認するのは、たいていの場合案外大変です。ですが、ここでは、それが正しいと考えてみることにします。一般的に、葉の量は、その枝の太さ(断面積)に比例し、枝の太さは加法的に決まる、すなわち2本の枝が合流すると、合わさった枝の断面積は、2本の枝のそれぞれの枝の断面積の合計になるというパイプモデルがいろいろな植物で成り立つとされています(「植物の形には意味がある」をご覧ください)。その場合、切られた枝の部分には、葉をつける大きな余力が生じることになりますから、その分、大きな葉をつけることができるということがあるかもしれません。その場合、選定の仕方では解決しそうもありませんから、大きな枝をバッサリ切るのは避ける、といった解決策しかなさそうです。(2018.4.26)


Q:水の中の植物の光合成及び呼吸、増殖の仕方について質問です。アマモなどの海草、昆布、海苔、ワカメなどの海藻、植物プランクトンなどの海の植物も陸の植物と同様、光合成も呼吸もしていますよね。水の中の植物は、陸の植物の光合成、呼吸の仕方と具体的に何がどのように異なるのでしょうか? 例えば、水の中の植物にも気孔があって、そこからCO2を取り込み酸素を排出、呼吸の場合はその逆の動作をするのでしょうか?あるいは、酸素の少ない水の中にあって、呼吸の場合、どこからどうやって酸素を吸収するのでしょうか?水の中にどっぷりの植物に根は必要なのでしょうか?もし根があるならば、その働きは陸の植物のどうちがうのでしょうか?海藻は胞子により繁殖すると理解しますが、種子植物の海草の場合、受粉はどうやっているのでしょうか?最後に植物プランクトンについて、光合成、呼吸、繁殖の仕方を具体的にどうやっているのでしょうか?どうぞ宜しくお願い致します。(2018.3.23)

A:まず、光合成以外の部分についてですが、水草の受粉や繁殖の仕方については、「水草を科学する」という絶好の本がありますので、そちらをご覧いただくのがよいと思います。栄養塩の吸収については、「水環境の今と未来」が参考になると思います。基本的には、植物体全体に栄養塩の吸収能力が認められる一方、栄養塩の輸送には根から茎葉への極性が認められるとのことですから、根にも一定の役割があると考えられます。さて、本題の光合成に関しては、二酸化炭素の水に対する溶解度は高く、また無機炭素は炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムの形でも存在できるため、むしろ気中よりも水中の方が基質の面からは有利になります。ただし、水中では拡散速度が遅くなるため、葉を厚くすることは難しくなります。このあたりについては、「植物の形には意味がある」に詳しく書きました。酸素の取り込みに関しては、気中よりも水中の方が不利になるはずですが、光合成で酸素を発生している間は問題になりませんし、呼吸の最大速度は一般的に光合成の最大速度よりもかなり小さいので、周囲の水が循環している限り呼吸ができなることはないでしょう。いずれの場合も、水中の植物には気孔がほとんど認められず、ガス交換は植物体の表面全体で行われます。この点に関しても「植物の形には意味がある」をご覧ください。(2018.3.24)


Q:もし葉緑体が緑の光も吸収できたら葉緑体、またそれを持つ植物の色はどう見えるのでしょうか。(2018.2.19)

A:葉緑体は、元々赤や青の光を吸収できますので、緑の光も吸収できるようになれば、ほぼ黒くなる(=あまり光を反射しない)でしょう。ちなみに、葉緑体の薄い懸濁液は緑色の光をあまり吸収しませんが、葉は細胞の配置などをうまく使って緑色の光も70-80%程度吸収しています。なので、葉の場合も色はより黒っぽくなるはずですが、その差は葉緑体の場合に比べて小さいでしょう。(2018.2.19)


Q:いつも楽しく拝見させていただいております。PAMでETRを測定する時に、葉の表側から測定した場合と裏側から測定した場合を比較することで柵状組織と海綿状組織のそれぞれでの光合成の寄与がわかるのでしょうか?よろしくお願いいたします。(2018.2.17)

A:柵状組織と海綿状組織が大きく違うのかという情報は得られますが、寄与に関してわかるとは言えないでしょう。自然条件での葉においては、海綿状組織に入射する光は、葉の裏面からの光の他に、柵状組織を透過してきた光が加わりますので、単に裏から光をあてた時とは条件が異なると考えられます。(2018.2.17)


Q:自然界のメタンガスの生成過程について光合成や呼吸に関連づけて質問です。光合成により光・二酸化炭素・水から有機物が作られ、酸素が排出されますが、メタンガスはその有機物が完全に分解されるまでの過程の腐敗・発酵したものから発生するものなのでしょうか?例えば、牛は草を食べて成育し、酸素を吸って二酸化炭素を排出する呼吸をしますが、同時に牛のゲップからメタンガスが排出されると聞きます。また、永久凍土の下にも多量のメタンガスが埋蔵されていると理解します。メタンガスは地球温暖化の温室効果ガスとしては二酸化炭素よりも強力であると理解しています。これら一連の自然界のメタンガスの生成過程について教えて頂きたいと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。(2018.1.9)

A:ウシのげっぷの場合も含めて、メタンを生成しているのは主に微生物です。ウシ自身がメタンを合成しているわけではないのです。典型的なメタン生成細菌の場合は有機物を必要とせず、無機物のみからメタンを生成します。具体的には、二酸化炭素が水素によって還元されることによりメタンが生成します。つまり、化学合成の際の副産物としてメタンができるわけで、光合成と直接的に関係する反応ではありません。(2018.1.9)