異端の植物 水草を科学する
田中法生著、ベレ出版、2012年、315頁、1,836円
植物のほんの一部を占めるにすぎない水草だけにテーマを絞った本なので、マニアックな雰囲気を予想して読み始めました。対象に対する思い入れにあふれている、という点では確かにマニアックなのですが、全体を通してみると、むしろタイトルにある「科学する」という側面を強く感じます。冒頭で議論される「水草とは何か」という定義の問題、あるいは水草がどのように生育場所を広げていくかを突き止めていく過程を紹介した部分などは、水草研究の立派な教科書です。それを、レベルは落とさず、やさしい語り口でわかりやすく紹介してますから、楽しく読み進めていくうちに水草ファンになりそうです。最後の付録で、水槽や池での水草の栽培方法が紹介されているのも、「さて自分も一つはじめてみようかな」と思わせます。この本での水草の定義は「一度陸上に上がった植物が再び水の中を住みかにするようになったもの」なので、動物で言えば、クジラやイルカですね。クジラやイルカを理解するためには、陸上にとどまった他の動物との比較が重要であるとともに、魚との比較も重要でしょう。その点、本来の水中光合成生物である藻類との比較は少ないのですが、陸上の植物との比較はしっかりされていて、なるほどと思わせます。水の中で生きていくために花粉や種子を水を使って運ぶそのやり方、あるいは水草の生存における水位の変化の重要性など、知れば知るほど、環境こそが生物を形作っているのだということを実感します。マニアックではあるかもしれないけれども、特殊なケースに注目することによって逆に生物の普遍性を浮き彫りにしている本だと言えるでしょう。