植物の形には意味がある
ベレ出版、2016年、293頁、1,600円/角川ソフィア文庫、2022年、248頁、960円
2016年4月22日に出版された本です。これまで光合成を解説した一般向けの本を2冊出してきました。一冊は2008年に出した「光合成とはなにか」(講談社ブルーバックス)、もう一冊はその4年後の2012年に出した「トコトンやさしい光合成の本」(日刊工業新聞社)です。そして、それからさらに4年たち、今度は光合成の枠を飛び出して植物の形について考えてみました。
植物の形は、種類によってさまざまです。葉の形一つとっても、ヤツデのように人の手のひらのような形をつける植物もありますし、イネのように細長い葉をつける植物もあります。でも、その「意味」は何か、考えたことがありますか?植物の形は多様ですから、その多様性に目を奪われて、意味など考えず、理屈抜きで「生物は多様性の宝庫です」と言って済ませる場合もあるのですが、それは科学的な態度とは言えないでしょう。生物学も科学の一分野である以上、いくら多様であっても理屈で説明することは可能なはずです。以下の目次を見ていただくとわかるように、この本では、植物の形の意味を植物の機能からとことん考えてみます。しかも、書き手は光合成の専門家ではあっても、植物形態学の専門家ではありません。その考えは、時には妄想の粋に達しますが、これは受験の参考書ではないので構わないと割り切りました。植物の形をめぐる論理と妄想の世界を楽しんでいただければと思います。
なお、せっかくの植物の形の本なので、今回は本文中の写真に加えて、カラー口絵を8ページ使っていろいろな植物の写真を載せました。僕の撮った写真だけでは足りないので、多くの方々のご協力を仰ぎました。この場を借りて御礼申し上げます。
その後、オリジナル版の出版から6年以上がたち、2022年12月25日にこの本が角川ソフィア文庫から、文庫としても出版されました。カラー口絵などは残念ながら載せることができませんでしたが、少しだけ文章にも手を入れコンパクトな本にまとまりました。値段も多少お手ごろになりますし、新たな選択肢として考えていただければと思います。オリジナル版では2020年7月に1万部を超えていましたが、文庫版も2024年8月には1万部を超しました。順調に受け入れられているようです。
科学道100冊
本書は、2017年に、本を通して科学の面白さなどを届ける理化学研究所の「科学道100冊」プロジェクトの中の一冊に選定されました。
受験生の方に
上に「受験の参考書ではない」と書きましたが、この本の文章はこれまでに、埼玉大学理学部の小論文(2017)、東京都立国立高等学校の小論文(2017)、福岡教育大学付属中学校の国語(2017)、聖セシリア女子中学校の国語(2018)、甲南女子中学校の国語(2018)、広島経済大学の推薦入学試験(2020)、明治大学付属中野高校の国語(2021)、近畿大学泉州高等学校の国語(2022)、文徳高等学校の国語(2024)、成城学園中学校の国語(2024)、京都先端科学大学付属高等学校の国語(2024)、岡山商科大学付属高等学校の国語(2024)の題材として取り上げられています。読んでおくと、実は受験勉強になるかもしれません……。
目次
- 第1章 葉はなぜ平たいのか
- 第2章 葉の断面の形を考えてみよう
- 第3章 葉の厚みの多様性を考える
- 第4章 葉の大きさと形の意味
- 第5章 茎はなぜ長細いのか
- 第6章 根はなぜもじゃもじゃなのか
- 第7章 花の色と形の多様性
- 第8章 果実の形は何が決めるのか
- 第9章 草の形・木の形を決める要因
- 第10章 生物と環境のかかわり
1 さまざまな葉の形
2 2つの「なぜ」
3 葉の平たい目的
4 平たくない葉の目的
1 葉の表と裏の違い
2 ものの色についてのやや長い寄り道
3 葉緑体に光を届けるために
4 葉緑体に二酸化炭素を届けるために
1 極端な環境の植物の葉を考えてみよう
2 光の明るさと葉の厚み
3 二酸化炭素の拡散と葉の厚み
4 蒸散と葉の厚み
5 部分的な厚みの違い
コラム 葉脈のパターン
1 葉の大きさが違うと何が起こるだろうか?
2 再び二酸化炭素の取り込みについて
コラム 対流の役割
3 さまざまな形の葉の利点
コラム 葉の形が決まる仕組み
1 茎の存在意義は何だろう?
2 茎の高さは何によって決まるのか?
コラム 樹皮の模様
3 茎の断面の形は何によって決まるのか?
4 茎の太さは何によって決まるのか?
コラム 導管の中のミクロな形
1 根の存在意義と形
コラム コケの「根」
2 根の枝分かれと根毛
コラム 草の根と木の根
3 微生物と根の関係
コラム 微生物との共生も楽あれば苦あり
4 窒素固定をめぐる共生
コラム 根粒菌をめぐるセキュリティーシステム
5 根の多様性
1 花に普遍的な特徴は?
2 花粉の散布と花粉の形
3 昆虫との共進化
コラム 花の色と花粉の運び手
4 遺伝的な多様性の必要性
5 多様性のコスト
コラム キクの花の二種類の形
1 植物の移動
2 種子はなぜ硬いか
コラム 光と発芽
3 種子を移動させる方法
コラム ツクシの胞子
4 動物を利用した種子の移動
コラム 種子の中身
5 風を利用した種子の移動
コラム 埃のような種子はどうやって芽生えるか
6 水を利用した種子の移動
1 木の葉の向きと光を受ける効率
2 草の葉の向きと光合成の効率
コラム 自分と他者の区別
3 木の形を決めるもの
コラム 木の形のシミュレーション
1 専門家タイプと万能タイプ
2 多様な評価軸による評価
3 生物の多様性の源
出版経過
- 2016年 4月22日 初版 3,500部発行
- 2016年 6月11日 第二刷 1,500部発行
- 2016年12月17日 第三刷 1,000部発行
- 2017年 4月17日 第四刷 2,000部発行
- 2018年 9月 8日 第五刷 1,000部発行
- 2020年 7月26日 第六刷 1,000部発行
文庫版
- 2022年12月25日 初版 4,950部発行
- 2023年 3月10日 第二刷 210部発行
- 2023年 5月20日 第三刷 210部発行
- 2023年 5月25日 第四刷 210部発行
- 2023年 6月20日 第五刷 450部発行
- 2023年12月10日 第六刷 1,500部発行
- 2023年12月30日 第七刷 450部発行
- 2024年 4月 5日 第八刷 600部発行
- 2024年 8月30日 第九刷 2,000部発行
正誤表(オリジナル版)
- 口絵13とp.175の図6.10:「サキシマスオオノキ」は「サキシマスオウノキ」が正しい。
- P.106 6行目:「果たしているのるかも」は「果たしているのかも」の間違い。
- P.108 10行目:「低木」は「高木」が正しい。
- P.199 後ろから7行目:「自家受粉の」は「受粉を必要としない」が正しい。
- P.211 2-3行目:「生育」は「生息」の方が適切。(第二刷で修正)
- P.214 3行目: 「種子が」は「種皮が」の方が適切。(第二刷で修正)
- P.228 8行目:「多年性」は「多年生」が正しい。
- P.260 本文の8行目:「バッファローグラスの根の生え方をポットに植えると、」を「バッファローグラスをポットに植えて(図9・5)、根の生え方を観察すると、」に修正。これに対応して同じ文の文末は「抑えるのが観察されました。」を「抑えたのです。」に修正し、P.261の6行目の「(図9・5)」を削除する。(第二刷で修正)