トコトンやさしい光合成の本
日刊工業新聞社、2012年、160頁、1,470円
2012年12月25日に出版された本です。一般向けに光合成を解説した本としては、2008年に「光合成とはなにか」(講談社ブルーバックス)を出しました。「光合成とはなにか」は「高校生でもわかるレベルの本を」と言われて書いた本ですが、実際の高校生からの評価は「語り口は易しいのに内容は案外難しい」というものだったようです。これは、編集部から「光合成の教科書として基本的な事項は押さえてほしい」とも要望されていたため、ある程度難しい内容についても必要だと思う点についてはきちんと書くようにした結果だと思います。千円札でおつりがくる教科書が書けたという自負はありますが、出来れば別にもう少し易しいものを書きたいと思っていました。
そこで、今回の「トコトンやさしい光合成の本」の場合は、自分が面白いと思う点を気ままに書くことにしました。しかも、見開きの右ページに文章、左ページはまるまるイラストページという作りですから、図解も豊富です。名前の通り「トコトンやさしい」かどうかは皆様に判断していただくとして、少なくとも、今まで出た光合成の本の中では最も易しい部類の本になったのではないかと思います。
内容的には、以下の目次を見ていただければわかりますように、光合成の仕組みについてはさらっと説明するだけにして、むしろ光合成の周辺領域について広く紹介するようにしました。第2章の科学史的な紹介、第6章の地球環境の変遷、第7章の農業との関わり、第8章の人工光合成の紹介などがその例です。第9章などは、砂漠の緑化、果ては火星の緑化の話まで出てきます。そのような部分は、必ずしも自分の専門ではありませんから書くには勇気がいるのですが、そこは長年培った面の皮の厚さでカバーしました。というわけなので、読んでみて「これはおかしいのでは」という点がありましたら、気軽にご連絡ください。出版前から下に正誤表を用意して置いたのですが、出版1週間にして5つ修正点がありました。
最後に一つおまけです。光合成にとっては光の吸収は非常に大事な点で、光の「色」が重要な意味を持ちます。しかし、この本は2色刷りなので、残念ながらカラー写真を載せることができませんでした。そこで、「トコトンやさしい光合成の本のおまけ」に、本の中で使ったいくつかの写真のカラー版を載せておくことにしました。本と合わせてご覧いただければと思います。
目次
- 第1章 光合成をする生き物
- 第2章 光合成を見つけた人々
- 第3章 光を集める色素
- 第4章 光合成を理解するために
- 第5章 光合成の仕組み
- 第6章 光合成が作った地球
- 第7章 農業と光合成
- 第8章 人工光合成を目指して
- 第9章 光合成と私たちの未来
1.植物が覆う緑の地球、2.光合成をするのは植物だけではない、3.地球を変えたシアノバクテリア、4.葉緑体と藻類は何から生まれたか、5.緑藻・紅藻・褐藻色の名前のついた藻類、6.陸上の植物はなぜ根・茎・葉を持つか、7.花や実の光合成、8.光合成をやめた植物、9.寄生生活と光合成生活、10.ミトコンドリアと光合成
コラム:アブラムシは光合成をするか
11.アリストテレスの考え方、12.ファン・ヘルモントと柳の木の実験、13.プリーストリーの酸素の発見、14.酸素の発生と光の働き、15.光合成によって使われる光の色、16.植物による
二酸化炭素の吸収、17.ヨウ素デンプン反応
コラム:光合成の研究者
18.緑色の色素クロロフィル、19.クロロフィルの種類、20.オレンジ色の色素カロテノイド、21.緑色の光を吸収するフィコビリン、22.花にも葉にもあるアントシアン、23.植物の葉の斑入り、24.斑入りの葉に得はあるか
コラム:田んぼアート
25.光の不思議な性質、26.生命のエネルギー物質ATP、27.酸化と還元、28.独立して生きられる生物、29.エネルギーの保存則と自由エネルギー
コラム:呼吸と光合成「似ているけれども正反対の反応」
30.葉の中の緑色の粒、31.チラコイド膜の中身、32.光によっておこる反応、33.光によっておこるもう一つの反応、34.酸素発生の仕組み、35.有機物を作る反応、36.光合成で作られるもの、37.有機物を葉から送り出すには、38.二酸化炭素を取り込むために
コラム:100mの高さまで水を吸い上げる植物「ポンプではできない仕事」
39.地球創世記、40.酸素による大虐殺、41.ストロマトライト、42.酸素を呼吸する生物の出現、43.紫外線を吸収するオゾン層、44.鉄鉱石と石炭
コラム:森は二酸化炭素を吸収するか?
45.植物が生えられる場所、46.収量の高い作物、47.光合成の改良、48.植物工場とは、49.植物工場の実際
コラム:人工光と植物「光の色と植物の生長」
50.人工光合成とは、51.最初の人工光合成、52.有機物の人工光合成、53.組合せ型人工光合成、54.太陽電池と光合成の違い
コラム:光化学系の中身を真似る
55.森の恵み、56.有限の化石資源、57.地球温暖化、58.バイオマスエネルギー、59.セルロースを利用できるか、60.油脂を作る藻類、61.光合成生物による水素生産、62.砂漠を緑化できるか?、63.火星を緑化できるか?、64.宇宙へ
出版経過
- 2012年12月25日 初版4,500部 発行
正誤表
- 7ページ目次、左から3列目、「バイマスエネルギー」−>「バイオマスエネルギー」
- 17ページ、系統樹の右の方の「クロロラクニオン藻の仲間」−>「クロララクニオン藻の仲間」
- 26ページ上段15行目、「関わらず」−>「拘わらず」
- 27ページ、葉緑体の写真の提供者は箸本先生のはずが橋本となっていました。
- 69ページ、最上段右端の図の説明文、「有機物が水素から外れる」−>「有機物から水素が外れる」
- 124ページ上段1-2行目、「本田・藤島効果」−>「本多・藤嶋効果」
- 125ページ右側の図、酸化チタン電極のそばにH2が,白金電極のそばにO2が書かれているが、実際には逆。
- 132ページ中段17行目、「D-P+-A-」−>「D-P+-A-」
- 132ページ中段20行目、「D+-P-A-」ー>「D+-P-A-」