読書記録2024
最近、一度読んだ本でも忘れていることが出てきて年を感じます。ひどいときは、新しく読む本だと思って、面白く読み進めていくうちに、何だか知っている気がしはじめて、読み終わる頃に、そういえば昔読んだことがあったと思い出すこともありました。「常に新鮮な喜びが味わえてうらやましいこと」などと言われる状態です。そこで、新しく読んだ本を忘備録としてここに書いておくことにしました(平成14年3月開始)。「新しく読んだ」というだけで、別に新刊の本とは限りません。
「短歌を楽しむ基礎知識」 上野誠編、角川選書 令和6年10月読了
いわゆる作歌の指導本ではなく、短歌の過去と現在を様々な側面から切り取った本です。内藤明さんが「歌を作る」という章を書いていますし、永田淳さんが「歌集の作り方」と「歌会の進め方」まで書いていますが、この本を読んで歌が作れるようになるわけではないでしょう。個人的に考えさせられたのは、月岡道晴さんの「戦争と短歌」。漢詩の位置づけとの関係などについてはなるほどと思いました。戦争の当事者にしか戦争は詠めないのか、という問いかけに対しては、著者は「無論そんなことはない」と断言しますが、実際に引かれている現代の短歌を読むと、当事者の戦争詠との間にはやはり大きなギャップがあるように思います。この章を読んで思い出したのは、サイパンを詠んだ平成17年の歌会始の皇后御歌です。当事者詠としか思えない痛切な調べに胸を打たれた記憶が今でもよみがえりますが、これはいわば対象に憑依するといってもよい極めて非凡な能力をお持ちの作者による例外だったのではないかと思います。
「自然のしくみがわかる地理学入門」 水野一晴著、角川ソフィア文庫 令和6年8月読了
下の本の前に書かれた本です。地形、気象、環境、生物分布などの様々な現象の違いが、実は地理的な同じ要因に由来していることが丁寧に記述されています。地理学の特性か、一部を除き現象に注目して説明されているのですが、僕だったら複数の現象を要因別にまとめて書いただろうな、と思います。
「人間の営みがわかる地理学入門」 水野一晴著、角川ソフィア文庫 令和6年8月読了
なかなか面白い知識がちりばめられているので読む価値はあると思うのですが、全体として寄せ集め的な感じがしてしまいます。地域別ではなく、農業とか、人種・民族・宗教とか、都市とか、章ごとにテーマを作って記述しているのは、少しでもストーリーを作ろうとする努力なのだと思うのですが、それでも全体としてみると羅列的な印象が残ります。これは、地理という学問の性質からどうしようもないのでしょうかね。
「生命と非生命のあいだ」 小林憲正著、講談社ブルーバックス 令和6年7月読了
書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。
「近衛忠煇人道に生きる」 近衛忠煇著、中央公論社 令和6年7月読了
日本赤十字社の社長を務めた近衛さんの自叙伝と言ってよいでしょう。「古参の宮内庁幹部」の感想として聞き手があとがきで紹介している「近衛さんは実力でやってきた人だとわかった」という発言は、逆から見れば、「これを読むまでは、家柄でお飾りのトップになっていたのかと思っていた」ということでしょう。古今伝授で有名な細川幽斎の流れをくむ肥後熊本藩主の家に生まれて五摂家筆頭の近衛家を継ぎ、三笠宮家の内親王と結婚という経歴を考えただけでも、「実力はなくとも」と考えがちになるのはわかる一方で、実力を兼ね備えていても当然よいわけですし、近衛さんの場合は実際に実力を持っていたことがこの本を読むとよくわかります。読んでいて面白いのは、人道支援に役立つと思えば、その家柄・ネームバリューを利用することも躊躇しない姿勢です。近衛さんにとって家柄とは、神棚に飾ってありがたがるものではなく、それなりの義務を伴うものであり、さらには必要に応じて道具として使うものだったのではないかと思います。
「赤と青のガウン」 彬子女王著、PHP文庫 令和6年6月読了
10年前に刊行された単行本がこの春に文庫化されたものです。400ページ近いのですが、あっという間に読んでしまいました。オックスフォード大学での生活とそれを取り巻く人々、そしてその時々の心の動きが生き生きと描写されています。皇族の海外生活という点もさることながら、文系の研究がどのようなものかという視点でも面白いですね。既に10万部に達したのも頷けます。僕の本は『光合成とはなにか』と『植物の形には意味がある』を合わせてようやく4万部。彬子さまと張り合ってもしょうがないのですが、大きな差が……。
「数式を使わない物理学入門」 猪木正文著、角川ソフィア文庫 令和6年5月読了
1963年、今から60年以上前に書かれた当時の現代物理学を紹介した本を文庫化したものです。素直な文章で説明されると、相対性理論でも量子力学でもよくわかった気になるのが不思議です。当然ながら、この60年間で物理学も進歩していますが、筑波大の物理の先生が監修をして必要な部分には注を付けてあるので、その点も安心です。生物学者としては、生命の起源に触れたところで、地球の原始大気が還元的であったという当時の理解による説明に注がついていないのが気になりましたが、専門以外の所なのでしょうがないでしょうね。
「カビの取扱説明書」 浜田信夫著、角川ソフィア文庫 令和6年4月読了
書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。
「植物が彩る切り絵・しかけ図鑑」 エレーヌ・ドゥルヴェール絵、ジュリエット・アインホーン文、檜垣裕美訳、矢守航監修、化学同人 令和6年4月読了
書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。
「光の物理」 エレーヌ・ドゥルヴェール絵、ジュリエット・アインホーン文、檜垣裕美訳、矢守航監修、化学同人 令和6年4月読了
光の透過、反射、散乱を原子の二次光から説明していく本です。微粒子による散乱が青色光で強い理由などがきちんと説明されていくのが面白いですね。「読了」と書きましたが、文章をすべて読んだという意味で、ロジックをすべて追いかけることはできませんでした。数式なども丁寧に展開されているので、大学生の頃に読めば自分で数式を追いかけられた気がしますが、この年になると……。