読書記録2020

最近、一度読んだ本でも忘れていることが出てきて年を感じます。ひどいときは、新しく読む本だと思って、面白く読み進めていくうちに、何だか知っている気がしはじめて、読み終わる頃に、そういえば昔読んだことがあったと思い出すこともありました。「常に新鮮な喜びが味わえてうらやましいこと」などと言われる状態です。そこで、新しく読んだ本を忘備録としてここに書いておくことにしました(平成14年3月開始)。「新しく読んだ」というだけで、別に新刊の本とは限りません。


「藻類 生命進化と地球環境を支えてきた奇妙な生き物」 ルース・カッシンガー著、井上勲訳、築地書館 令和2年10月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「したたかな植物たち(秋冬編)」 多田多恵子著、 ちくま文庫 令和2年10月読了
 SCCガーデナーズ・コレクションから出版された「したたかな植物たち—あの手この手のマル秘大作戦」を文庫2冊に編集しなおしたものの後半のものです。文庫にするとさすがに写真は小さくなりますが、ハンディなのでそれなりに利点もあります。昨年、前半部分を読んだときにはあまり気が付かなかったのですが、文庫にするにあたって、新しい知見がずいぶん追加されているようです。分類体系の変化などについてもきちんとアップデートされているのに感心しました。

「科学哲学へのいざない」 佐藤直樹著、青土社 令和2年9月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「皇太子の窓」 E.G.ヴァイニング著、文春文庫 令和2年7月読了
 現上皇の皇太子時代に英語の個人教授をしたヴァイニング夫人の回想録です。1952年に出版されたものですが、歌会始の傍聴の記録などもあり、予想していたよりも格段に面白く読めました。著者のバランスの取れた感覚が文章から浮かび上がってきます。ただし、歌会始の披講諸役を十把ひとからげに「講師」と訳している誤訳は残念。

「無から生まれた世界の秘密」 P.アトキンス著、東京化学同人 令和2年7月読了
 訳者の渡辺正先生から昨年末に頂いていた本を、今頃ようやく読了。宇宙の成り立ちをやさしく解説する中で、相対性理論や量子力学、熱力学の大雑把な概念を把握できるという意味で、なかなかの好著だと思います。ただ、所々で、もう少し丁寧な説明が欲しかったと感じるところがありました。これだけの内容を180ページに納めているので、難しいことはわかりますが。

「短歌を詠む科学者たち」 松村由利子著、春秋社 令和2年6月読了
 歌会始の選者の永田和宏さんは京大教授、細胞生物学会の会長でしたが、同じように科学者でありながら歌を詠んだ斎藤茂吉や湯川秀樹など6名の研究者の研究生活と短歌を解説した本です。二刀流の人々ですね。科学と文学のどちらにも理解がないと書けない本だと思いますが、少なくとも僕のレベルからすると、どちらについてもきちんと記述されていて感心しました。

「『指輪物語』の世界」 ユリイカ4月臨時増刊号(2002年) 令和2年5月読了
 厳密に言うと本ではないけれども、一冊丸ごと一つのテーマなので。18年前の雑誌を古本屋で見つけて買っておいたのをようやく読み終わる。映画公開時の雰囲気が思い出されます。海外著者の古い論考なども入っていて面白いですね。人によってこれほど受け取り方に差があるものかと感じました。

「クマゼミから温暖化を考える」 沼田英治著、岩波ジュニア新書 令和2年5月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「光と色彩の科学」 齋藤勝裕著、講談社ブルーバックス 令和2年5月読了
 光合成に関する記述がほとんど見られないことが不思議なくらい、心理学から物理学、視覚のメカニズムまで、きわめて幅広く光に関するエピソードを網羅しています。僕も講義の中でかなり幅広く光の科学を取り上げていますが、それよりだいぶ役者が上の感じでした。

「ママは何でも知っている」 ジェイムズ・ヤッフェ著、ハヤカワ文庫 令和2年4月読了
 いわゆる安楽椅子探偵ものです。警察官の息子が持ち込む謎を母親が解き明かすという設定で楽しく読めましたが、黒後家蜘蛛の会や、ミス・マープルと比べると、推理の切れはやや鈍いような。

「母宮貞明皇后とその時代」 工藤美代子著、中公文庫 令和2年3月読了
 披講に関する記事を連載で書いているのですが、そのために貞明皇后について調べる一環として読んでみました。どうしても貞明皇后は、昭和史の中で昭和天皇とのかかわりが中心に語られて、その和歌への思いなどは隅に追いやられてしまう印象が強く、それが残念ではありますが、その人となりはある程度伝わってきます。

「見える光、見えない光」 朝永振一郎著、平凡社 令和2年2月読了
 朝永振一郎のエッセイ集です。寺田寅彦のエッセイもそうですが、日常の描写の中に科学者の目が感じられるのがよいですね。ただ、これも寺田寅彦と同じですが、時々日常の鬱屈が顔を出すのも印象的です。少なくとも部分的には既に読んだことがある気がするのですが、この本を読んだのかどうかは思い出せませんでした。

「テストは何を測るのか」 光永悠彦著、日経新書 令和2年1月読了
 さすがに、42年前の本だけだと、講義の際に困りそうなので、もう一冊テスト理論の本を勉強。こちらは、3年前の本で、テスト理論の統計的な側面は進歩してきており、定量的な解析が可能になってきたことがわかります。一方で、大規模テストにおける限界を超える妙策があるわけではないこともまたわかります。

「テストで能力がわかるか」 池田央著、日経新書 令和2年1月読了
 大学院向けの講義の中でテスト理論を1回だけ教えることになって、その予習。今から42年前の本ですが、おそらく物事の本質は何一つ変わっていないことがわかります。非常にわかりやすい説明が印象的です。