クマゼミから温暖化を考える
沼田英治著、岩波ジュニア新書、2016年、175頁、820円
タイトルは『クマゼミから温暖化を考える』ですが、実際には『クマゼミから温暖化の考え方を考える』とでもしたい内容です。セミの生態や温暖化の実態もきちんと紹介されていますが、乱暴な言い方をすれば「物事を上っ面から見ていい加減な主張をするな」ということが一番重要なメッセージかもしれません。「大阪の気温は最近上昇している」というのは事実ですし、「大阪ではアブラゼミが減ってクマゼミが増えた」というのも事実です。そこには明確な相関関係がありますが、そこで思考停止して「クマゼミが増えた原因は気温の上昇にある」と結論してしまえば、科学にはなりません。そこで立ち止まって、何を示したら相関関係だけではなく因果関係を示すことができるのか、と考えて実験を計画し、それによって真の原因を探っていくプロセスが、この本では丁寧に描かれます。「考え方を考える」本であると思う所以です。実際に研究をしてみると、冬場の温度が上がったことによって越冬時の生存率が上がるという最初の考え方は、見事に裏切られます。学生を見ていると、最初の仮説が否定されるとがっかりする人の割合が案外高いのものです。実際には、単純に思いついた最初の仮説などは否定されて、思いもけなかった生物の実態が立ち現れるところにこそ生物学の面白みがあると信じているのですが、この本はまさにその実例になっているように思います。研究によってある結論を導き出すのには、何が必要なのかを高校生から大学生あたりに考えてもらうのにうってつけの本でしょう。とは言え、大阪で盛んに鳴くのがクマゼミになった理由であれば、それほど目くじらを立てる人もいないでしょうけれども、地球温暖化となると、その結論には経済的な利益が大きくかかわってきますから、物事は単純ではありません。社会的な影響の大きな研究にはそれなりの難しさがあることも、この本は教えてくれます。