読書記録2023
最近、一度読んだ本でも忘れていることが出てきて年を感じます。ひどいときは、新しく読む本だと思って、面白く読み進めていくうちに、何だか知っている気がしはじめて、読み終わる頃に、そういえば昔読んだことがあったと思い出すこともありました。「常に新鮮な喜びが味わえてうらやましいこと」などと言われる状態です。そこで、新しく読んだ本を忘備録としてここに書いておくことにしました(平成14年3月開始)。「新しく読んだ」というだけで、別に新刊の本とは限りません。
「侍従長の回想」 藤田尚徳著、講談社学術文庫 令和5年12月読了
ちょうど終戦の前後の短い期間だけ侍従長を務めた著者の回顧録です。昭和天皇が「重臣」たちの意見を聞いていく場面では、同じ状況に置かれ、敗戦必至という判断はほぼ同じでありながら、異なる視点から時には矛盾する情報が提供される様子が淡々と描かれます。
「英語の歴史から考える英文法の「なぜ」2」 浅尾幸次郎著、大修館書店 令和5年12月読了
下の本の続編です。こちらでは、俗語や黒人英語など、規範的な文法では説明できない英語を中心に解説しています。余計な屈折を落として単純化していく力と、(その当時の)規範を保とうとする力に、いわゆるピジン語の影響が加わって、英語がさまざまに変化していく様子が語られます。
「英語の歴史から考える英文法の「なぜ」」 浅尾幸次郎著、大修館書店 令和5年10月読了
古英語、中英語、近代英語、現代英語と変化していきた歴史から、英語の文法のわかりにくい点を読み解いていくストーリーは面白く読めました。特に定冠詞のtheに、束ねて輪郭を与える機能があるという説明は、目からうろこでした。
「女官」 山川三千子著、講談社学術文庫 令和5年10月読了
明治天皇つながりでもう一冊読みました。副題は「明治宮中出仕の記」で明治の末期に数年間女官を務めた久世家のお嬢さんの回顧記です。いわゆる奥の様子がよくわかって面白いですね。著者は自分なりの価値判断を持っていた人のようです。
「明治天皇の一日 皇室システムの伝統と現在」 米窪明美著、新潮選書 令和5年9月読了
明治天皇の生活から当時の宮中の考え方を探る本です。昔の人の行動の背景をアナクロニズムに陥らずに解釈するのは案外難しいものですが、そこをうまく切り抜けています。侍従職出仕だった祖父の園池公致が何度も登場するので驚きました。しかも、仕事中に居眠りをして山縣有朋に起こされるなど、とほほなエピソード満載です。
「解説 徒然草」 橋本武著、ちくま学芸文庫 令和5年8月読了
徒然草の代表的な段について、原文に、現代語訳、注、解説をつけたもので、面白く読めました。高校の頃は古文が大の苦手でしたが、その後、何かの機会につけて読んでいると、それほど苦にならなくなります。外国語もそうですが、言語は慣れですね。
「平賀源内を歩く」 奥村正二著、岩波書店 令和5年4月読了
平賀源内がどのような仕事をしたのかを丁寧にたどった本です。副題には「江戸の科学を訪ねて」とありますが、「科学」ではなく「技術」とした方がしっくりきます。平賀源内の多くの仕事は、西欧からもたらされた新しい技術がどのような仕組みの上で成り立っているのかを理解して、その技術を模倣することにあったことがわかります。当時の日本にとって、それが必要不可欠なことであったのでしょう。
「歌ものがたり」 高崎正風口述、東京社 令和5年3月読了
御歌所長をつとめた高崎正風の話を編集したもので、高崎正風が亡くなった直後に出版されました。明治天皇と和歌をめぐる様々なエピソードが紹介されます。高崎正風が島津斉彬の家督の騒動に連座して大島に流されていたことなどは初めて知りました。
「エンジニアから見た植物のしくみ」 軽部征夫、花方信孝著、講談社ブルーバックス 令和5年2月読了
書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。
「禅語の茶掛を読む辞典」 沖本克己、角田恵理子著、講談社学術文庫 令和5年1月読了
あいうえお順に並べた禅語の解説と、その禅語を掛け軸などに仕立てたものの実例を示しての紹介です。禅と書道が一度に楽しめますが、そもそもそれらを楽しいと感じる人がどれだけいるかは難しいかもしれません。
「アシモフ選集数学編2量の世界」 アイザック・アシモフ著、共立出版
令和5年1月読了
「量の世界」となっていますが、「単位の世界」とした方がより内容を反映しています。前半は、ヤードポンド法などとメートル法の比較などが中心なので、日本人にとっては羅列的で退屈かもしれませんが、後半になって、速度やエネルギーなども含めた単位の次元の話に入ってくると、突然、レベルアップします。前半を削って、後半をもっと丁寧に説明するとよい本になったでしょう。