エンジニアから見た植物のしくみ

軽部征夫、花方信孝著、講談社ブルーバックス、1997年、202頁、720円

たまたま古本を検索していたら見つけたので、もう四半世紀前の本ですが読んでみました。結論から言うと、僕の『植物の形には意味がある』が植物生理学者の立場から植物のエンジニアリングを考えた本であるとすれば、こちらは、工学者の立場から植物の形態と機能を考えた本です。内容的には、共通点も多く、本来は、この本を読んでから『植物の形には意味がある』を書くべきだったかもしれません。一方で立場の違いは明確で、植物生理学の知識からすれば、「それは違うでしょ」という部分もたくさんあります。例えば、幹の模様の理由はわからないと切り捨てられていますが、細胞分裂をする形成層が幹の表面でなく少し内側にあることを考えれば、その意味は明瞭です。複葉の意味を取り違えていた李、光を感知して地上部になるか根になるかが決まると考えるなど、突っ込みどころは満載です。アントシアンを持つ意義を、光をたくさん吸収して温度を上げるためというところなどは、どこからそんなことを考えたのだろうと疑問になります。とは言っても、僕の本は、逆に工学者から見たら、物理的におかしな記述がたくさんあるのかもしれませんから、まあ、人のことは言えません。面白いのは、植物の防御システムに比較的スペースが割かれていて、かつ、その部分はきちんとしていることです。このあたりは、研究テーマとして取り扱っていたのかもしれません。いずれにしても、植物について、従来とは異なる視点を導入して考えることは、非常に有益ですし、この本は、その点については十分に成功していると言えるでしょう。

書き下ろし 2023年2月