植物の体の中では何が起こっているのか
嶋田幸久、萱原正嗣著、ベレ出版、2015年、351頁、1,800円
大学以上向けの植物生理学の教科書は、最近、案外といろいろ選択肢があります。しかし、一般向けの書籍は、実はそれほど種類がありません。もちろん、植物生理学に関連した書籍ということであれば、日本植物生理学会が出している「植物まるかじり叢書」や「これでナットク!植物の謎」をはじめとしていくらでもあるのですが、一冊で植物生理学の内容を幅広く一般向けに紹介した本はあまり見かけません。そのような意味で、本書は貴重だと思います。内容的には、光合成、環境応答、植物ホルモン、生活環など、植物生理学の教科書で通常扱われる範囲のかなりの部分をカバーしています。文章も平易で、高校生ぐらいであれば問題なく読み進めることができるのではないかと思います。一方で、多くの植物生理学の教科書が分担執筆で書かれていることからわかるように、植物生理学の内容は多岐に渡り、個人ですべてをカバーするのはなかなか容易ではありません。個人で植物生理学全体をカバーする教科書を書いたのは、最近では、佐藤直樹さんの「しくみと原理で解き明かす植物生理学」があるぐらいでしょう。そのような観点からすると、この本の場合、環境応答や植物ホルモンの記述がしっかりしているのに対して、植物の系統や光合成に関する記述にやや問題が残るのが残念なところです。ただ、これは近年の専門化して多岐にわたる植物生理学の現状を考えると、いたし方のないことなのかもしれません。