手作りの装置による低温蛍光スペクトル測定

低温クロロフィル蛍光スペクトルは、光化学系の情報を得るために使いやすい手法です。現在では、市販の分光光度計を用いて測定することになると思いますが、以前は、研究室で分光器と光電子増倍管とパソコンを組み合わせて手作りの装置により測定を行っていました。以下のプロトコールはその装置による測定方法です。現在、このような方法で測定することはあまりないと思いますが、測定の原理を理解するうえで参考になる点もあると思いますので、ここに残しておきます。低温蛍光スペクトルの原理については、低温クロロフィル蛍光スペクトル測定をご覧ください。

装置:手作りの液体窒素温度における蛍光スペクトル測定装置、PC、魔法瓶容器、液体窒素

測定手順:

  1. 蛍光スペクトル測定装置の左側のPCを立ち上げ、正面のマイクロアンメーター(微小電流計)の電源を入れておく。また、励起光光源のフィルターが適切なものであるかどうかをチェックする(フィルターに関しては下のその他の注意点を参照)。
  2. 液体試料の場合は、クロロフィル濃度を 5μg/mlに調整し、100μl を真鍮の試料ホルダーに入れ、泡が入らないように石英ガラスの光ガイドを差し込む。葉の場合は、黒いビニールテープに葉を貼り付け、それを石英ガラスの光ガイドに直接貼り付ける。
  3. 試料部分を黒い布で覆い、10分間暗順応させる(測定時のステート状態を常に一定の状態にするため)。ステート遷移の測定に関しては次の項を参照すること。
  4. 液体窒素を魔法瓶に注ぎ、試料を石英ガラスの光ガイドごと液体窒素に浸し、凍らせ、魔法瓶を上から黒い布で覆い、外部からの光を遮断する。
  5. 奥の高電圧電源をオンにする。葉の測定では550 V程度、希薄試料の場合は700 V程度。外部の光を遮断せずに、高電圧電源をオンにすると光電子増倍管が壊れる可能性があるので注意する。
  6. 励起光をあてない状態でマイクロアンメーターの針の位置を確認する。蛍光が強いと針が左に振れるようになっているので、マイクロアンメーターの0点調整つまみを使って右側から1/5ぐらいのところになるようにするのがよい。ただし、あまり右側ぎりぎりだと、針自体は振り切れていなくとも実際の出力が振り切れていることがある。
  7. 温度が十分に下がるまで(約30秒)おいた後、励起光光源ををオンにする。
  8. モノクロメーターをmanualにし、650 nm から750 nmぐらいの間を動かしてみて、電流計の針が動くこと、また振り切れないことを確認する。針が振り切れたり、ほとんど動かない場合は、マイクロアンメーターのレンジを適宜調整する。場合によっては、高電圧電源の電圧を調整してもよい。高電圧電源の電圧とマイクロアンメーターのレンジは必ず記録すること。波長を動かす際に、モノクロメータの波長範囲を短波長(600 nm以下)にすると光電子増倍管が壊れる可能性があるので注意すること。
  9. 次に波長を645 nmに設定する。この状態で約2~3分待つ(シグナルを安定させるため)。
  10. 分光器のScanning speedをFlu at 77Kにし、進行方向をNormalにし、パソコンのFluorescence folderの下の方にあるデータ取り込みプログラムFl_input.exeを起動する。
  11. モノクロメーターの波長送りをオンにし、波長が650 nmに到達した瞬間にPCのスペースキーを押す。
  12. 波長が770 nmを超えたら、モノクロメーターの波長送りをオフにする。この際に、波長が770 nmに来た瞬間に、プログラムの方でファイル名入力画面になることを確認することが望ましい。たまに、タイミングがずれていることがあり、その場合には、蛍光ピークの位置が見かけ上ずれてしまう。
  13. 高電圧電源のスイッチを切り、励起光をオフにし、最後に試料を液体窒素から取りだし、室温に放置する。
  14. Fl_input.exeの画面で測定ファイル名を打ち込むと、そのファイル名でデータがセーブされる。

バックグラウンドの補正

上記の測定では単にマイクロアンメーターの出力をAD変換して手作りのプログラムで取り込んでいるだけなので、蛍光が0の点がどこかもわからない。また、蛍光が大きいほどマイナスに大きくなる数値がファイルに書き込まれる。そこで、暗所で一度測定を行ない、そこからデータを引き算し、波長と蛍光強度を対応させた形でファイルに書き込むプログラムFL_convB.exeを用意してある。

  1. 励起光がオフの状態で上記の測定を繰り返す。
  2. Fl_input.exeの画面で暗所の測定ファイル名を打ち込み、バックグラウンドのファイルを作る。
  3. Fluorescence folderのFl_convB.exeを開き、測定ファイル名を打ち込み、次に暗所の測定ファイル名を打ち込み、最後に保存ファイ名を打ち込む。この操作によって、暗所のベースラインが引き算され、データが波長と蛍光強度が対応した形に変換された数値が保存ファイルに保存される。

暗所での測定をベースラインにする代わりに、水を試料として励起光をつけて測定したデータをバックグラウンドとして取ることも可能である。この方が、迷光などがある場合は、より正確なスペクトルが得られる。しかし、試料を取り替えて測定する必要があるので、通常は、試料をそのままで暗所で測定したものをバックグラウンドとしてる。バックグラウンドは、高電圧電源の電圧、マイクロアンメーターのレンジ、マイクロアンメーターの0点調整つまみを動かしていない場合には、複数の測定に共通して使うことができる。レンジなどを変えた場合は取り直す必要がある。

その他の注意点

  1. 励起光としては、通常Corningのバンドパスフィルター(CS 4-96)を通した幅の広い青色光を用いる。クロロフィル励起の場合は、これに日本真空工学のダイクロイックフィルター(DFブルー)をさらに通す。フィコビリン励起の場合は、東芝のカットオフフィルター(Y-46)に日本真空工学のダイクロイックフィルター(DFシアン)を重ねて通した黄色光を使う。
  2. くれぐれも光電子増倍管に強い光を入れないこと。光が入る可能性がある時(サンプル交換など)には、必ず高電圧電源がオフになっていることを確かめること。光電子増倍管は1本30万円ぐらいする。