MultiColor PAMによるクロロフィル蛍光測定

2022.9.29最終更新

クロロフィル蛍光測定の一般論については、光合成とクロロフィル蛍光をご覧ください。以下のプロトコールは、Walz社のMultiColor PAMを用いて、多様な光合成生物のクロロフィル蛍光を測定するためのプロトコールです。

MultiColor PAMの特徴

MultiColor PAM

MultiColor PAMは、パルス変調クロロフィル蛍光測定のための装置ですが、測定光と励起光に5種類の光源を使うことができる点が特徴です。陸上植物では、アンテナとして主にクロロフィルaとクロロフィルbが働きます。光化学系Iに結合したクロロフィルaの一部の吸収は、大きく長波長にずれていますが、その他にはそれほど特徴的な吸収スペクトルを示す色素がないため、測定波長によって結果が大きく異なるのは、700-720 nm程度の近赤外の領域だけでしょう。一方で、藻類やシアノバクテリアの一部ように、フィコビリンのようなクロロフィル以外の光合成色素を含む生物の場合、照射される光の色によって光合成の状態は大きく変わりますし、結果として、どの波長で測定するかによって、クロロフィル蛍光測定の結果は異なってしまいます。このことは逆に、測定波長を変えることによって光合成の色素ごとに異なる情報を取得できることを示しています。従来のクロロフィル蛍光測定装置は、測定光として赤(オレンジ)もしくは青の光を用いていました。初期に発売されたキセノンPAMは、光源としてキセノンランプを使っていましたから、やろうと思えば光学フィルターを使い分けることによって異なる波長の測定光を使ってクロロフィル蛍光を測定することができましたが、お世辞にも使いやすい機械ではありませんでした。MultiColor PAMの場合は、異なるLEDを光源として使うことにより、装置は小型でありながら5種類の波長(440, 480, 540, 590, 625 nm)で測定を行うことができます(測定光だけでよければさらに400 nmも可能)。波長は固定されていて自由はききませんが、たとえば、クロロフィルが励起される440 nmの光とフィコビリンが励起される625 nmの光を測定光に使って比較することにより、アンテナの状態に関する情報を得ることができます。したがって、色素組成が異なる多様な光合成生物を対象に光合成を解析する時に力を発揮します。一般的には、藻類とシアノバクテリアが主な測定対象になるでしょう。

異なる波長の光に対するアンテナの機能の違いを調べようとした場合、その機能を定量化する指標として光学的な断面積(吸収断面積)がよく用いられます。アンテナがどれだけ光を吸収する能力を持っているのかを、アンテナの「面積」としてあらわしたものです。アンテナの構造の物理的な大きさが同じであっても、光の波長が違えば、吸収断面積は変化します。吸収断面積を見積もるためによく使われるのが、定常光を照射した際にクロロフィル蛍光収率が上昇する速度の測定(OJIP測定)です。光照射によって光化学系IIのQAが還元されるとクロロフィル蛍光収率が増大します。アンテナの大きさに比例して光子が吸収され、吸収された光子数に比例してQAが還元されるのであれば、原理的にはクロロフィル蛍光の初期の増大速度から、アンテナの光学断面積を求めることができます。しかし、実際には、還元されたQAは通常QBへの電子伝達によって再酸化されますし、時間がたてば非光化学消光などのQAの酸化還元以外の要因によるクロロフィル蛍光強度の変化の影響を受けるようになります。ただし、前者のQAの再酸化の影響は、電子伝達阻害剤のDCMU存在下で測定するか、励起光量を上げて再酸化速度が無視できるほどの還元速度を実現すれば、避けることができます。さらに、実際のデータに基づいてモデルをフィッティングをして吸収断面積を求める際に、再酸化の影響を組み入れたモデルを使う方法もあります。また、時間経過の影響は、波長ごとに異なる励起光量を用いて蛍光の増大速度の方を一定することにより、最小限に抑えることができます。当然ながら、この場合、最初に各波長で励起光量を変えて測定に用いる光量を決定してから、実際の測定に入る必要があります。多少の手間はかかりますが、アンテナの機能をきちんと定量化できる点が、この手法の大きなメリットです。ただし、測定は希薄な懸濁液で行う必要がありますので、植物の葉をそのまま測定対象とすることはできません。

機器の接続とソフトウェアのインストール

  1. コントローラーの前面の下段のやや右側にあるChargeコネクタに電源コードを、その左に2段に分かれている(上:LED arrey、下:Fluo ML)コネクタにエミッターユニットから出る2本のケーブルを、さらにその左のDetectorコネクタに、ディテクターユニットのケーブルを接続する。また、下段一番左のUSBコネクタと制御用パソコンをUSBケーブルで接続する。
  2. 液体試料測定用の測定スタンドにエミッターユニットとディテクターユニットを取り付ける。測定スタンドには4か所の取り付け場所があるが、2つのユニットが90度の角度になるように配置する。光ガイドとして使うロッドはPerspex製のもので構わない(石英ガラス製である必要はない)。
  3. ディテクターユニットのフィルターボックスには、660 nm以上の光を透過するR665と、700 nm以下の光を透過するSP710を入れる。この際、RG665は弱い蛍光を出すので、それを遮るためにSP710をディテクター側に(R665を試料側に)置くようにする。
  4. パソコンにPamWin-3ソフトウェア(最新版は現在ver.3.22d、ただしMultiColor PAMのホームページではより古いV3.20w4を指定している)をインストールする。なお、かなり以前のバージョンのソフトでは、ソフトのインストールのあとで、作成された専用ディレクトリ(PamWinフォルダー)内のUSBPORTディレクトリの中のCDM Setup.exeファイルを、PAM-2500 本体の電源をONにしてPCにつないだ状態で実行してUSBドライバーをインストールする必要があったが、比較的新しいバージョンでは(インストールの途中で出てくるFTDI CDM Driversのインストールのプロンプトに従えば)自動的にドライバがインストールされる。このソフトはPAM-2500と共通であり、ソフトを起動すると、接続されている機器を自動認識して対応したインターフェースが現れる。最新のソフトはダウンロードサイトのPAM-2500の所から入手する。
  5. なお、研究室環境では、制御用パソコンとしてWindows10を使った場合に、ソフトが途中で異常終了する(エラーメッセージも出ずに突然ソフトが終了する)ことがある。Windows7ではそのようなことがないので、Windows7環境を用意できる場合には、その方がよいかもしれない。
  6. スターラーを使う場合には、測定スタンドの試料部分の下部にスターラーユニットを取り付け、ケーブルをコントローラー前面のコネクタに接続する。スターラーユニットは、できるだけキュベットに近づけて(上に)設置する。

クロロフィル蛍光の測定条件設定

  1. 試料の濃度は、緑藻などでは、0.3 μgChl/mlを大きく越さないことが吸収断面積の定量的な解析のためには望ましい。ただし、シアノバクテリアなどでは0.6 μgChl/ml程度の濃度がノイズの少ない測定のために必要であった。
  2. 制御用パソコンのPamWin-3ソフトウェアを立ち上げる。
  3. コントローラーが接続されていていればソフトから認識される。コントローラーのスイッチを入れた直後は認識されないことがあるので、スイッチを入れてから1分ほど置いてからソフトを立ち上げるとよい。
  4. プログラムを立ち上げると、COM-Portsが確認されたのち、「Do you want to start a New Report?」というプロンプトが出るので、通常はYesを押す。
  5. プログラム画面は、上部、右側、下部、中央部の4つのパネルからなっており、中央部パネルのみは、タブ形式で内容が切り替わる。それ以外の上部、右側、下部のパネルには、いつも同じ情報が表示されている。
  6. 最初は、中央パネルにGeneral Settingsタブが開くので、そこで測定条件をセットする。この状態で既に光の検出自体は始まっており右側パネルのFtの所に蛍光レベルが表示されているはず。また、下部のパネルには、照射光の状態がブロックで示されており、例えばMLのブロックをクリックすると、ブロックの中央が赤くなり、MLが照射される。具体的な設定項目は以下の通り。
    1. General Settingsタブの一番左のMeas.Light小パネルで測定光の設定を行う。Intで光量を設定し、その下のAuto MF-Highのチェックボックスには通常チェックを入れておく。これにより、測定光だけの際には、MF-Lの低い周波数で測定光が照射されるために励起効果が弱くなる一方、励起光や飽和パルス光が当たっている時にはMF-Hの高い周波数で測定光が照射されるため、時間分解能とS/N比がよくなる。それぞれの状態の具体的な周波数は、すぐ下で選択して設定する(単位はHz)。
    2. その下の小パネルで、ゲイン(増幅率)とダンピング(時間平均)を設定する。測定光が弱いなどの理由でシグナルが小さい時にはGainを上げる必要があるが、その場合にはノイズも大きくなる。ダンピングは、最低の1にすると時間分解能は10 μs(ただし測定光の周波数以下にはならない)であり、最大の8にすると時間分解能は4 msとなる。測定光の周波数が100 kHzであっても、ダンピングが4以下では時間分解能への影響はほぼないので、実際にはダンピングの設定は4かそれ以上でよい。
    3. その下の小パネルのAnalysis Modeで、Slow Kineticsによるクエンチング測定などか、Fast AcquisitionによるOJIP測定かを選択する。
    4. 右側の2列の小パネルで、励起光(Act.Light)、飽和パルス光(Sat.Pulse/MT)、系1光(PSI Light)などの光源の設定と、Slow Inductionで蛍光の誘導期測定の際の飽和パルス光照射条件の設定をする。励起光はWidthを0にすることにより、連続照射(切るときはマニュアルで切る)に設定することができる。飽和パルス光の光量設定は、「Int」と「Int (Fo,Fm)」の二種類がある。これは、試料によっては、暗順応した状態FoレベルでFmを測定する際には少し弱めの飽和光が必要(強すぎるとシグナルがかえって小さくなってしまう)けれども、励起光照射下では十分強い飽和光が必要である場合に、別々に飽和光の光量を設定できるようにするためである。PSI lightは、Far redとBlueの選択肢があるが、Blueを選択する場合にはオプション光源が必要となる。
    5. タブの下部右寄りの小パネルではZero Offsetの設定ができる。Zoffボタンを押すことにより、その時の蛍光レベルがバックグラウンドとして引き算される。葉の測定においてはZero Offsetはほぼ無視できるが、MultiColor PAMで主に想定される懸濁試料では、Zero Offsetが必要となる。バックグラウンドレベルは、測定光の種類とGainによって異なる。もし測定光とGainを一定にして測定する場合には、対象試料を含まない培養液などをキュベットに入れて単にZoffボタンを押せばよい。異なる光源を使う場合には、Measure Zoff listボタンを押してZero Offestを測定光の波長を変えて測定したリストを作成する。この場合、Gainは固定されたうえで、各波長ごとにMLを20段階変えて測定するので、合計4分半ほどの時間がかかる。さらにこの際に、For all Gain Settingsにチェックを入れておけば、すべてのゲインにおいてリストを作成することができるが、10段階のGainで測定を繰り返すので、合計約45分の時間がかかる。作成したリストを適用するためには、Apply Zoff listにチェックを入れる必要がある。リストは、PamWin_3フォルダのData_MCフォルダのZero_Offset_Col.iniファイルに保存される。ファイル名は固定であり、任意のファイルを読み込むことはできないので、誰かが新しくZero Offsetをすると、以前のファイルは上書きされて消えてしまう。必要に応じて自分の作成したZero_Offset_Col.iniを自分のフォルダなどにコピーしておき、必要な場合にはそれをData_MCフォルダに戻してから測定するのが安心。
    6. 個々の実験設定は、タブ右側のOpen/Save User Settingsによってファイルの書き出し、また読み込むことができる。ファイルはPamWin_3フォルダのUser Settingsフォルダに保存される。ただし、Zero Offsetの値は保存されない。

MultiColorタブ

  1. 上記の多くの設定はPAM2500と同一であるが、MultiColor PAMに特有の設定はMultiColorタブから行う。
  2. MultiColorタブの左側は、光源の色の設定小パネルで、440, 480, 540, 590, 625 nmの5種類の波長を測定光・励起光のそれぞれに選択できるほか、測定光については400 nmの光源、励起光については420-645 nmの白色光源を選択することができる。この際、測定光を選択すると励起光の波長も同じになる(400 nmの場合は除く)が、励起光を選択する場合には、測定光の波長はそのままなので、任意の組合せで波長を設定できる。Multi Color STにチェックを入れてある(デフォールト)と、シングルターンオーバーフラッシュの場合にはすべての波長のLEDが点灯するので、非常に光量が大きくなる。
  3. Stirrer onのチェックを外すとスターラーを止めてそれに由来する可能性のあるノイズを減らすことができるが、通常の条件ではスターラーの影響は大きくない。Stirrer off during SP/FKにチェックを入れて、飽和パルス光照射の速いキネティクス測定の時だけスターラーをオフにすることもできる。スクリプトによる長い時間の測定の場合は、スクリプトからスターラーを制御するのが望ましい。
  4. その下のMeasure PAR listsボタンを押すと、光量子センサー(液体試料の場合は球状センサーを使う))をコントローラーのExt.Sensorコネクタに接続した状態で光量を測定する。1つの波長について、測定光が100 kHz、intensity=10の条件で、励起光とMTフラッシュのすべて(20段階)の光量が測定されてリストとしてセーブされる。基本的に励起光の波長と同じ波長の測定光条件で測定されるが、励起光としてWhiteを選択した場合には、測定光として選択されている波長の測定光が選択可能であるが、通常の測定では400 nmの測定光を使う。All colorsにチェックを入れておくと、5種類の波長全てでこの測定を行う。
  5. パネルの右側では、光吸収断面積(シグマ)のファイル操作ができる。これについては、「Fast kineticsの測定の概要」を参照。

Slow kineticsの測定

  1. いわゆるクエンチング測定などは、上記のように設定タブのAnalysis ModeでSlow Kineticsを選択したうえで、Slow kineticsタブから測定を行う。
  2. 測定画面の右の下側の小パネルに、Ind.Curveという選択ボタンがあるが、実際には、ここでManualを選択して、自分で照射光のタイミングなどをタブの下のブロックで操作して測定した方がやりやすいことが多い。ただし、定型的な測定を繰り返し行う際には、Ind.Curveや、励起光後の回復過程も測定するInd.+Recも便利である。Manualではない測定の場合の測定条件は、General Settingsタブで設定する。
  3. Manual選択ボタンの下のStartボタンを押すと測定が開始するので、タブの下にある測定光(ML)、励起光(AL)、飽和パルス光(SAT pulse)のブロックを必要なタイミングで押すことにより測定を行う。最初に測定光だけを当てている状態で、下部パネルのFo Fmのブロックを押せば、飽和パルス光が照射され、その際の蛍光レベルがFm、その直前の蛍光レベルがFoとして登録され、タブの右側に表示されている様々な蛍光パラメーターの計算に用いられる。
  4. 測定が終了したらStopボタンを押す。
  5. 次の測定を開始する場合には、New Recordボタンを押す。この際に、Fo,Fmレベルを登録している場合には、前の値を維持するかどうかを聞かれるので、新しい試料の場合には必ず前の値をクリアする。

Light Curveの測定

  1. Light Curveのタブから、光-光合成曲線の測定を行うことができる。
  2. 基本的には測定画面の右のStartボタンを押せば、自動的に光量を少しずつ上げて測定を繰り返すことにより、光合成速度(ETR)の光依存性測定が行われる。Light Curveの横軸は光量であり、MultiColor PAMには光量子計を接続して直接光量を測定することも可能であるが、光量子計を試料に挿入すると陰になる部分ができるので、実際にはあらかじめ設定したPARリストによる光量を用いる方がよい。
  3. どのように光量を上げていくかは、Startボタンの上のEditボタンから、編集することができる。励起光の強さと持続時間をそれぞれクリックすると新しい値を入力できる。Intカラムで励起光量を設定するが、ここにMF1KあるいはMF100Kといった記述をすることができる。この場合は測定周波数を上げることにより、ごく弱い励起光の代わりとしている。また、Uniform timeにチェックを入れると、最後に入力した持続時間にすべての持続時間が統一される。光量PAR自体は、リストから読み込まれるので、直接は変更できない。持続時間に0が入力されているところで、測定は終了する。デフォールトのリストでは、最大光量のあとで持続時間を0にしているので、そこで終了するが、これを例えば2に書き換えれば、そこから光量を下げていくプロトコールに修正することができる。このパラメータリストをパネル上部のアイコンからセーブしておけば、必要に応じて読み込んでそれをそのまま使うことができる。
  4. 測定画面の右側上部のFITボタンを押せば、その下のラジオボタンで選択したモデルにより、光光合成曲線のフィッティングが行われる。結果は、グラフ上に線で表示され、FITボタンの上の計算機ボタンを押せば、計算結果を見ることができる。

吸収断面積Sigmaの測定

次に、吸収断面積Sigmaの測定手順を示す。個々のウィンドウやタブの設定の仕方については、下の「Fast kineticsの測定の概要」以下を参照のこと。

測定GainとMeasuring Lightの決定

  1. General SettingsタブのMeasure Zoff(上記)によりあらかじめ培地などのバックグランド補正を行なっておきZoff listを作成して、タブのApply Zoff listにチェックを入れておく。
  2. General SettingsタブのAnalysis Mode(上記)でFast Acquisitionを選択する。
  3. General Settingsタブで、Gain=1, Measuring Light=1, Damping=1にしておく。ここでSaturating Pulseは、直接はここでの決定に関係しないので何でもよいが、プラストキノンの還元によって蛍光が上昇するのを確認する意味では、Saturating Pulseによって光量を調節し、励起効果の高い波長では10程度、低い波長では最大の20にしておくとよい。
  4. Fast Settingsタブの中央上部のFTMファイル選択画面からSigma1000_MT.FTMを選ぶ。ここでSigma1000_AL.FTMを選ぶと励起光としてはより弱くなるが、励起効果の高い波長の場合はそれでも十分な場合が多い。その場合には、Saturating PulseではなくActinic Lightによって光量を調節し、励起効果の高い波長では4以下、非常に低い波長では最大の20にしておくとよい。
  5. MultiColorタブで波長を選択する。複数の波長を測定する場合は、まず、励起効果が最も高い波長(シアノバクテリアでは通常590 nmか625 nm)から測定し、励起効果が小さい波長を後にした方が設定をしやすい。測定光と励起光の波長は同じにしておく。
  6. Fast Kineticsタブのグラフの右側のStartボタンを押して測定を開始する。
  7. 測定結果のグラフを見て、測定直後の蛍光強度(Foレベル)が0.3 Vを少し下回るように、Gainを変えて測定を繰り返し、次にMeasuring Lightを変えて測定して、Foレベルを0.3 V程度に合わせる。その際のGainとFoレベルを記録しておく。ただし、希薄な試料でシグナルが非常に小さい場合には、Gainを上げるとノイズレベルが大きくなりすぎるので、先にMeasuring Lightを上げる必要があるかもしれない。
  8. 必要に応じてこの手順を波長を変えて繰り返す。

FR光量の決定

  1. この測定では、励起光照射前にプラストキノンプールが完全酸化されていることが前提であるが、シアノバクテリアなどでは、暗順応によりプラストキノンプールはむしろ還元されているので、測定前にあらかじめ赤外光(FR)照射によって酸化しておく必要がある。新しい試料で測定を行う場合などでは、このFR光の光量を最初に決めておいた方がよい。

Sigmaの決定

  1. Fast Kineticsタブの下部パネルの右側にあるScriptパネルのLoadボタンから、Sigma測定スクリプトファイル(前項でSigma1000_MT.FTMとSigma1000_AL.FTMのどちらを利用したかで別なので注意する)を読み込む。ファイルを読み込んだのち、すぐ下のRunボタンを押すと、Edit Scriptウィンドウが開くので、波長を修正し、それに合わせてGainとMeasuring Lightを先ほど決定した値に修正する。さらに、繰り返し回数を設定する。目安としてはGainが1で3回、Gainが2で4回、Gainが3で6回、Gainが4で8回、Gainが5で10回、Gainが6で15回。修正が終わったらウィンドウの右上の戻る矢印ボタンを押すと、測定が開始する。
  2. 測定終了後、Fast Kineticsタブのグラフの右側のCalcボタンを押して、O-I1 Fitを選択する。
  3. 基本的には、設定項目はデフォールトのままでよいので、下のStart Fitボタンを押すと、フィッティング結果が表の形で新しいウィンドウに表示される。ウィンドウの右下のエクスポートアイコンを押して、フィッティング結果をファイルに書き出しておく。
  4. 励起光が強くなれば蛍光の立ち上がりは速くなるはずなので、τ(蛍光の立ち上がりの時定数)は小さくなる。また、吸収断面積Sigmaはきちんと測定されていれば、同じ波長であれば励起光強度にはよらず一定になるはず。異なる波長でSigmaを比較する場合には、なるべくτが同じになる条件にしたいので、励起効果が最も弱い波長での最大励起光強度で得られるτを与える励起光強度のSigmaを使うのがよい。
  5. 複数回の測定を行なう場合、上記を繰り返してもよいが、励起光強度依存性を確認する必要がない場合には、別途、波長を変えてSigmaを測定するスクリプトを作成し、そこに、上記で決めた波長ごとの励起光強度と、その前に決めたGain, Measuring Light, 繰り返し回数を入れて測定すれば、一度の測定で、各波長のSigmaを求めることができる。

Fast kineticsの測定の概要

  1. いわゆるOJIP測定は、上記のようにGeneral SettingsタブのAnalysis ModeでFast Acquisitionを選択したうえで、Fast Kineticsタブから測定を行う。
  2. OJIP測定は、飽和パルスを照射した際の蛍光の上昇キネティクスを測定するだけなので、極めて簡便で再現性も得られやすい一方で、情報量は限られる。基本的には、測定パネルの右側のStartボタンを押せば測定ができる。Startボタンの下のAuto ML onにチェックを入れておけば、飽和パルスの照射直前に測定光がonになり、測定後に自動的にoffとなる。
  3. グラフの右側のAverage pointsを設定することにより、この数の隣り合うデータポイントが平均化される。これによりノイズは減り、データ量も小さくなるが、時間分解能は犠牲になる。この設定は、測定後に変更することも可能であり、測定データ自体を変えるものではない。なお、下のAvaragingとは無関係。
  4. グラフの右側のAveragingにチェックを入れると、Fast settingタブの左側にあるTarget Averageの回数の測定カーブが積算平均される。回数分Startボタンを押してもよいし、下部パネルの右側のClockの所のonにチェックを入れれば、その右側の秒数の時間間隔で自動的に繰り返し測定が行われる。Averagingにチェックを入れると、ResetとNewというボタンが現れ、それぞれデータを破棄もしくは保存して、繰り返し測定を中止する。
  5. Calcボタンについては後述する。

Fast settingタブの設定

タブの中央にはLEDなどを制御するトリガーのパターンを示すグラフがあり、その周囲に設定項目のパネルが配置されている。

タブの左側パネルの設定項目

  1. パネル左上のRead with Start Condにチェックが入っていると、トリガーファイルの条件が初期条件として設定される。
  2. その下のMF-maxで測定周波数を設定する。基本的にはGeneral settingsタブで設定するMF-Hと同じだが、ここでは200 kHzも選択可能である。
  3. その下のMF-logにチェックが入っていると、MF-maxの照射後、測定光の周波数を時間とともに対数的に減少させる。これにより、測定光の励起効果を小さくすることができる。当然ながら、MF-maxの照射後も測定を継続する場合にのみ意味を持つ。
  4. その下のRate usとPointsが測定点の間隔と総数を示す。測定時間はこの二つの掛け算になる。Pointsが32000を超える場合には、その下にExt.Timeのチェックボックスが表示される。これがonになっていると、32001の点と64001の点でそれぞれデータ取り込み間隔が倍になるため、測定点数は同じでも合計の測定時間は長くなる。
  5. その下のTarget Averageについては、上の「Fast kineticsの測定の概要」を参照。

タブの上部と右側パネルの設定項目

  1. 右側パネルの一番上のEnable triggerには常にチェックを入れておく。次の Enable pretriggerは、たとえば測定開始前にあらかじめ赤外光を照射しておく時などに使うので、必要に応じてチェックを入れる。チェックを入れると、その事前照射時間を選ぶボックスが現れるので、時間を選択する。その下のPulse widthは、STフラッシュ以外の光源の持続時間を入力するために使う。
  2. その下の各光源のチェックボックスは、チェックをしておくと、中央のトリガーパターンのグラフにその光源のパターンが表示される。ここのSTにチェックが入っていると、その右のST widthが選択可能になる。
  3. その下のTrigger on time, Trigger off timeは、光源のon/off時間を入力するために使う。まずon timeの時間を入力しリターンで確定してから、off timeの時間を入力(してリターンで確定する)必要がある。
  4. その下のZero time shiftの下の時間をダブルクリックするとZero timeを変更できる。例えばここに10000(μ秒単位)と入力すると、グラフ上の0点の10 ms前からトリガーパターンの線が表示される。
  5. 上部パネルには、トリガーの種類が青背景のアイコンで示されており、トリガーは、このアイコンを選択したのちに、グラフのトリガーラインを(例えばシフトキーを押しながら右クリックする)といった方法で設定する。実際の方法は、トリガーの種類によっても異なるので、マニュアルを参照する必要がある。
  6. トリガーパターンは、上部パネルの中央付近の拡張子FTMのFast kinetics trigger patternを指定して呼び出すこともできる。また、その右のフォルダアイコンをクリックしてトリガーファイルを読み込んだり、保存アイコンをクリックして作成したパターンを保存することもできる。そのさらに右のDefaultボタンを押すと、標準的なOJIP解析のためのパターンが読み込まれる。

Fast kineticsの解析

MultiColor PAMの特徴の一つは、上で説明したようにOJIP測定の際の蛍光の立ち上がりO-I1から、試料の光化学系IIの機能的吸収断面積(SigmaII)を算出して、それを異なる波長の間で比較することによりアンテナ色素の情報を得ることができる点にある。このようなFast kineticsのデータの解析は、Fast kineticsタブの右側のグラフ右側の下部のCalcボタンによって開始する。Calcボタンを押すと、解析方法を選ぶウィンドウが開くので、O-I1Fit、1-q、Exp.Fitの内から選択する。解析にあたっては、クロロフィル濃度が十分に低い(クロロフィルを主要なアンテナとする生物は0.3 μgChl/ml以下、シアノバクテリアなどではその倍程度)こと、プラストキノンプール(とQA)が最初に十分に酸化されていること、(励起光照射以前にパルス変調測定光により)正確にFo(=Oレベル)を測定すること、I1レベルをSTフラッシュにより正確に測定していること、が必要である。

O-I1Fit

  1. O-I1Fitを選択して開いたウィンドウの左上のFit Data SettingsパネルのI1 by STには、通常チェックを入れておく。ただし、DCMUを加える場合などにはI1の測定にSTは必要ないので、チェックを外す。
  2. その下のI1 Corr.(%)は、0%でよい。
  3. その下のST off time (ms)は、STフラッシュの終了時点を入力する。通常の1 msの測定で最後の時点で50 μsのSTフラッシュを照射する場合には、1.05 msを指定すればよい。
  4. その下のFit time limit (ms)は、フィッティングを行う時間を指定する。通常の1 msの測定では1 msを指定(全データが解析対象)すればよい。
  5. その横のFit Settingsパネルには、下の大きなファイル名リストの中でファイルが2つ以上選択されている場合には、FitとCommonの二つの小パネルが表示される(ファイルが一つ以下しか選択されていないときにはFit小パネルだけが表示される)。基本的には、Fit小パネルのパラメータがフィッティングされ、Common小パネルのパラメータの中でチェックされているものについては、複数のファイルの間で共通の値としてフィッティングされる。
  6. その右のShow variationsにチェックを入れると、フィッティング結果に10%の影響を与えるシグナルの相対変化(%)が表示される。これが小さければ緑色で表示されるが、赤で表示された場合には、フィッティングが完結していなかったことを示す。
  7. 右サイドには、RC ParametersとReoxidation parametersのパネルが表示されている。このReoxidation parametersパネルのWith reoxidationにチェックが入っている場合には、蛍光上昇中のQAの再酸化があるものとしてフィッティングされる。DCMUを入れての測定の場合には、このチェックを外す必要がある。
  8. 右下のResultsパネルのUse for 1-q plotにチェックを入れておくと、ここがでフィッティングしたFo, I1, Jが1-qの解析に送られる。
  9. ファイルリストの下には、いくつかのボタンが並んでおり、これによりフィッティング開始などをここから行う。一番左のDrawボタンを押すと、選択したフィッティング対象データが重ね書きで表示される。Simulateボタンを押すと、Windowに表示されているパラメータでモデル曲線を描く。右側のEnter fit resultsにチェックが入っている時には、最後のフィッティング結果のパラメータでモデル曲線を描くので、パラメータにより曲線がどの程度代わるかを視覚的に確認できる。
  10. Start fitボタンを押すと、フィッティングが開始する。結果のパラメータは表の形で表示されるとともに、元データとフィッティングデータが、Fast kineticsタブに表示される。

1-q

  1. QAの酸化還元状態は、クロロフィル蛍光強度に影響を与えるが、両者の関係は線形ではない。この非線形性の一つの原因は、複数の光化学系Ⅱの間の相互作用(励起エネルギーのやり取り:Connectivity)が存在することにある。一般にQAの酸化還元状態の指標としてよく用いられるqPとqLの違いは、前提とするConnectivityの違いを反映している。一方で、一定のモデルに基づき、このConnectivityを前項のフィッティングによりパラメータJとして推定することができる。「1-q」においては、このようにしてQAの酸化還元状態を還元状態の指標1-qとして求める。
  2. O-I1Fitを実行してからCalcボタンを押して開くウィンドウから1-qを選択すると、開くウィンドウには、すでにI1、Fo、Jの3つのパラメータが、フィッティング結果から計算されて表示されている。その右には、計算方法が「O-I1 Fit Model」、「Based on F and J」、「Area Growth」から選択できるようになっている。必要な方法にチェックを入れてOKを押せば、1-qのプロットが方法ごとに異なる色で表示される。
  3. 「O-I1 Fit Model」は、QAの再酸化を考慮したモデルなので、DCMU添加によりQAの再酸化が起こらないようにしていない実験にも、適用できる。これに対して、「Based on F and J」では、QAの再酸化を考慮していないので、DCMU存在下もしくは極めて強い励起光により、再酸化が無視できる場合にのみ適用可能である。この点は、「Area Growth」でも同じであるが、こちらは、異なるモデルにより計算される。

Exp.Fit

  1. 「Exp.Fit」においては、励起光を切ったのちの蛍光の減衰をモデルに基づいてフィッティングする。Calcボタンを押して開くウィンドウから「Exp.Fit」を選択すると、「Exp.Fit」ウィンドウが開く。左上のFit data settingsパネルでは、励起光を切った時間、フィッティングの計算に入れる最初の時間と最後の時間を指定する。右上のFit Settingsパネルでは、Fittingのパラメータを指定する。フィッティングした際に1-qの減衰を見る場合には、「1-q Fit」にチェックを入れる。あとは、何成分の指数関数でフィットするかを「No of Exponentials」で指定し、Fitting時間内には減衰しない一定成分がある場合は、その大きさをLevelで指定する。フィッティングには、1-qを見ないときにもI1とFoの値が必要であり、1-qを見るときはそれに加えてJの値が必要となる。これらは、全く同一の試料であらかじめO-I1Fitを実行しておけば、値を転送させることができる。
  2. 下部パネルはData Listになっており、その下にDrawボタンとStart Fitボタンがある。Data Listには、現在のRecordのすべてのキネティクスが表示されるので、マウスクリックで選択する。Ctrlキーを押しながらクリックすることにより複数のキネティクスを選択することもできる。Drawボタンを押すと選択したキネティクスをグラフ表示する。Start Fitボタンを押すと、フィッティングがスタートし、結果はO-I1Tableに表示され、同時に、元のキネティクスとフィット結果がFast Kineticsウィンドウに表示される。O-I1Tableの下部右側のエクスポートボタン(フォルダと赤い矢印のボタン)を押すと、結果がCSVファイルとしてPamWin_3フォルダのData_MCフォルダのExportフォルダにCSVファイルとして保存される。

スターラー利用の際の注意点

試料が時間とともに沈殿するような場合には、スターラーによって均一性を保つ必要があるが、スターラーの使用は、

  1. スターラーが電気的ノイズの原因になる可能性が排除できないこと
  2. スターラーバーの回転が光学的ノイズの原因になり得ること
  3. 励起光を照射している場合、攪拌された試料が光路から外れたり光路に入ったりすることにより、状態が均一でなくなること

などの問題点を生じる可能性に注意する。これを避けるために、暗順応時のみスターラーを使用し、測定時にはスターラーを停止するのが一つの解決策となる。測定時にもスターラーを使う場合には、試料の高さを光路の高さぎりぎりにした方が試料の励起光照射状態を少しでも均一にできる。このためには、試料の容量は1.3 mlにすることが推奨されている。

スターラーの回転の調節は、Dual PAMの場合と以下の通り異なるので注意する。

  1. MultiColor PAMの場合は、MultiColorタブのチェックボックスにチェックを入れることにより回転をon/offする。
  2. また、スクリプトからスターラーを操作する場合には、Stirrer on/offにより制御する。
  3. Dual PAMでは、外部トリガーを使ってスターラーを調節していたため、TRボタンを押すことによりスターラーをon/offしていたが、MultiColor PAMの場合は、TRボタンは、外部トリガーを接続している時にのみ利用する。同様に、DulaPAMでは、スクリプトにTR on/offを記述することによりスターラーを制御できたが、MultiColor PAMの場合は、このコマンドは、外部トリガーにより、接続されている機器を制御する場合にのみ利用する。

データの保存

  1. 測定されたデータは、基本的には自動的にセーブされる。セーブ先はPamWin_3フォルダの中のDATA_MCフォルダとなる。
  2. オートセーブされるタイミングは、New Recordなどで次の測定を開始するときか、プログラムを終了した時なので、最後の測定を終えて、プログラムを立ち上げたままセーブされたデータをコピーした場合には、最後の測定データがコピーされない可能性がある。
  3. キネティクスデータも、上部のメニューバーの「Option」の「Kinetics auto save」にチェックが入っていれば、自動的にセーブされる。
  4. テキスト形式でキネティクスをエクスポートする場合は、Fast kineticsの場合は、Fast kineticsタブの右の上にあるエクスポートアイコンを使い、Slow kineticsの場合は、Windowの右下にあるView Modeボタンを押してから、Slow kineticsタブの上部に出現するエクスポートアイコンを使う。

スクリプトファイルの概略

MultiColor PAMにおいては、一連の測定操作をスクリプトファイルにまとめて保存しておくことができる。これにより、複雑な測定手順を自動実行できる。スクリプトの読み込みは、下部パネルの右側にあるScriptパネルのLoadボタンから、適切なファイルを読み込む。ファイルを読み込んだのち、すぐ下のRunボタンを押すと、Edit Scriptウィンドウが開くので、必要に応じて修正する。よければウィンドウの右上の戻る矢印ボタンを押すと、測定が開始する。なお、デフォールトのスクリプトファイルは、Gainなどを指定しているため、使用する試料の濃度によってはシグナルがオーバーフローしたりするので、使用にあたってはスクリプトファイルのGainなどを書き換えることが多くの場合必須である。

スクリプトは、プログラムフォルダのScriptFilesフォルダに拡張子.prgのファイルとして存在している。このファイルはテキストファイルなので、エディターなどにより内容を確認しておくことができる。また、同じ名前の拡張子.txtファイルが存在し、ここにスクリプトの概要が説明されている。以下に、デフォールトで作成されているスクリプトファイルの概略を示す。

シグマ測定

シグマは、試料の吸収断面積であり、ある波長の光がどの程度試料に吸収されるかの指標である。波長が異なれば試料の吸収は異なり、同じ光量子束密度の光を照射しても光合成の状態は大きく異なる。このシグマを測定しておけば、異なる波長の光においても、吸収断面積で補正することにより、PARを実際の励起効果を加味したPAR(II)に、ETRを同じく実際の励起効果を補正したETR(II)に換算することができる。

スクリプトファイルの名前はSigmaで始まる。例えば、Sigma1000cyano_10.prgやSigma1000Chlor_10.prgは、fast kin. trigger fileである sigma1000_ALを開いて測定が行なわれる。「cyano」や「Chlor」は、それぞれ、シアノバクテリア測定用、クロレラ測定用を意味している。sigma1000_ALにおいて設定されているタイミングなどは、fast settingsにおいて確認することができる。このファイルでは、最初に測定光がオンになり、次いで励起光がオンになり、その1ミリ秒後にシングル・ターンオーバー・フラシュがたかれて全体で2ミリ秒ちょっとで測定が終了する。スクリプトファイルの既定では、これを10秒間隔で繰り返して測定する。これは、短い繰り返し間隔で測定することにより、酸素発生系のS状態をが特定の状態に偏らないようにすることを意図している。一方で、測定間隔を120秒に長くすれば、酸素発生系をS1状態にそろえて測定できるようになる。既定のスクリプトファイルにおいては、Clockにより一定間隔で測定を行い、繰り返し測定をする場合には、繰り返しの間隔と回数を掛け合わせた数値をWait(s)に設定することにより繰り返しを実現している。従って、Clock Timeで指定した間隔と、Target Averagesで指定した繰り返し回数の積と、Wait(s)に指定されている数値が一致する必要がある。

異なる波長でシグマを測定する場合には、上の「Multicolor PAMの特徴」で述べたように、励起光量を調節することにより、蛍光の立ち上がり速度を合わせておいた方が誤差が少なくなる。そのため、自分の試料について、各波長で励起光量を変えて測定を行い、蛍光の立ち上がり速度が同じににある励起光量を求め、その値をスクリプトに反映させることが望まれる。また、シアノバクテリアにおける400 nmや480 nm、緑藻における540 nmや590 nmのように、吸収が小さい波長領域においては、励起光(AL)の代わりに飽和パルス光(SP/MT)を用いる方がよい場合もある。逆に、すべての波長でSP/MT光を励起光に使っても通常は問題ない。一般的には、励起光の光量が高く蛍光の立ち上がりが速い方がフィッティングの信頼性は上がる。

測定されたデータには、波長ごとに5つのキネティクスが含まれるが、既定のスクリプトではこれらは一つのファイルにまとめられるので、これを上述のO-I1Fitにより解析する。他方、波長ごとに複数のスクリプトで測定しても問題はない。いずれの場合も必要なキネティクスすべてを選択したのちにStart Fitを押せば、波長ごとにSigma(II)が得られる。Sigmaのリストを右クリックして、Select allを選ぶと、データはMulti Color windowのSigmaファイルBoxに送られる。このSigmaファイルを保存しておけば、ReportウィンドウやLight CurveウィンドウのPARをPAR(II)に、相対的なETRをETR(II)に換算することができる。

OJIP測定

飽和パルスによる蛍光の多仕上がりのキネティクスを解析する測定で、スクリプトファイルの名前は頭にPolyがついている。例えば、Poly200ms.prgは、fast kin. trig. fileであるPoly200ms_ALを開いて測定が行われる。この場合、測定光と200ミリ秒の励起光が同時に照射されて、MF-Hにより高い時間分解能で測定が行われる。

オシレーション測定

オシレーション測定(ファイル名は1_Oszillation.prg)においては、0,1,2,3,4回のシングル・ターンオーバー・プレフラッシュ照射の後、20 msのパルス励起光により蛍光の誘導期現象が測定され、その後近赤外光により系を再酸化したのち、次のサイクルの測定に入る。これにより、4周期振動の様子を観察することができる。

蛍光減衰の測定(QA->QB測定)

既定のスクリプトファイルには使われていないが、fast kin. trigger fileとして、ST50-Decay.FTMが作られている。これは、50マイクロ秒のシングル・ターンオーバー・フラッシュ照射の後、80ミリ秒間、蛍光の減衰を測定することができる。ここで見られるミリ秒での減衰成分は、、QAからQBへの電子伝達速度を反映する。同様に、RelaxST50, RelaxST20, RelaxST5も蛍光減衰測定用のトリガーファイルであるので、既存のスクリプトファイルを修正して、これらのトリガーファイルを呼び出せば、簡単に蛍光の減衰測定ができる。