LI-6400による光合成の測定

光合成の速度を調べるためには様々な測定法がありますが(「光合成の測定」参照)、その中で、その中でLicor社のLI-6400という光合成蒸散測定装置を用いて光合成を測定するためのプロトコールを紹介します。赤外線ガス分析計による光合成測定の原理については、赤外吸収ガス分析計による光合成と蒸散の測定を参照してください。

  1. 赤外吸収ガス分析計
  2. LI-6400のセットアップ
  3. LI-6400による光合成の測定

赤外吸収ガス分析計

赤外吸収ガス分析計とLI-6400

光合成蒸散測定装置LI-6400

Licor社は、古くから赤外線ガス分析計を製造していた会社ですが、LI-6400は、その中で(それ以前に比べれば)専門家でなくても扱えるようになったためにいろいろな研究室で広く使われるようになった測定装置です。現在では、もっと新しいモデルが販売されています。LI-6400においては、開放型の試料室を採用(オープンシステム)することにより、一定濃度の二酸化炭素に順化した葉の光合成速度を測定することができます。また、水蒸気の影響を補正するためには、2つの波長において吸収を測定する方法がとられています。基本的には、流路に流すガスは、必要に応じて乾燥剤により水蒸気を除去し、また、ソーダライムによって二酸化炭素を除去したり、ガスボンベから二酸化炭素を供給することによって、二酸化炭素濃度を調節します。さらに、赤外線ガス分析計を二台搭載し、一台をいわばコントロール、もう一台を葉の光合成により二酸化炭素濃度が低下したガスの分析に使うようになっているため、二台のガス分析計を一致させるためのマッチングという操作が必要になります。以下には、実際の光合成測定にあたってのプロトコールを示します。

LI-6400のセットアップ

本体の組立:

  1. 本体とチャンバーヘッドを2本のエアチューブと2本の信号ラインによってつなぐ。本体側のエアチューブはコネクタの形状が同じなので、黒いテープを巻いてある方をSample側に間違いなくつける。
  2. CO2インジェクターを使用しない時には、空気貯め(エアダム)からのエアチューブを本体左側のエア取り込み口につなぐ。
  3. バッテリー2本をセットする。専用ACアダプターの場合は1本でも構わない。バッテリーは1本あたりで約2時間動作が可能。

薬品のセット:

本体向かって左奥のボトルにはドライアライト(青色:乾燥剤)、左手前のボトルにはソーダライム(白色:CO2吸収剤)を入れる。この作業は測定毎に行なう必要はなく、下記に示す交換時期を目安に行なう。

  1. ネジを緩めて、ボトルを本体から離す。
  2. ボトルをひっくり返して、底のキャップをはずす。(上部から入れると、ボトルの中を薬品で満たしにくい。)
  3. 薬品を入れる。
  4. 再び本体に取り付ける。Oリングが劣化していたら新しいものに交換し、グリースを極薄く塗布してから、本体に取り付ける。

ウォーミングアップ:

  1. 本体右側(上記ボトルの反対側)の信号コネクタとバッテリーの間にあるメインスイッチを入れる
  2. モニターの画面に、IRGA(Infra Red Gas Analyzer)の接続(つまり、本体とチャンバーの接続)がきちんと成されているか尋ねるメッセージが出るので、きちんと接続されていればキーボードの「Y」を押す(接続されていなければ「N」)。実際にはこの段階では放っておいてもよい。自己診断プログラムとセットアッププログラムが立ち上がるのに2分程度かかり、その後、再度接続確認のメッセージが表示されるので、以前のメッセージ表示のときに接続されていなくて「N」を押した場合や放っておいた場合は、この時までに接続を見直し、きちんと接続されたことを確認して「Y」を押す。
  3. モニターに複数のファイル名が表示される。チャンバーの種類によって個々のプログラムが存在するので、目的のチャンバーに適したファイルを↑、↓で選択し、enterキーを押して決定する。例えば、シロイヌナズナ用のチャンバーヘッドの場合はArabidopsisチャンバーEBを選択する。
  4. メインメニュー画面が表示される。

校正:

フローメーターのゼロ校正編
  1. これは、測定のたびごとか、少なくとも週一で行なう。メインメニューからCalib Menu(f3)を選択する。
  2. Flow Meter Zeroを選択する。この操作により、ポンプが停止して自動的にゼロフロー校正を始める。
  3. 画面表示のFlowmeter signalの値が±0-2 mV付近で安定したら、OKを選択する。値が安定しなかったときは、 Adjust↑(f1)、Adjust↓(f2)で調整する。それでもダメだったら故障。
IRGAのゼロ校正編
  1. これは、測定のたびごとか、少なくとも週一で行なう。メインメニューからCalib Menu(f3)を選択する。
  2. IRGA Zeroを選択する。(この操作により、画面にはチャンバーを空の状態で閉じるように指示が出る。)
  3. ハンドルを握ってチャンバーを閉じる。これだけでは完全に閉じないので、さらに調整ネジを締める。締め具合は、横から見て上下のパットが接触してからさらに半回転~1回転程度締める。
  4. チャンバーを閉じてから、「Y」を押す。
  5. ソーダライム、ドライアライトのボトルにあるツマミをscrub側(ボトル上部に表記あり。)に一杯まで廻す。
  6. 画面上のCO2、H2Oの値が 0.0** 程度まで落ち着くのを待つ。落ち着かない場合は、薬品を新しいものに交換してみる。CO2側は数分で0近くになるが、H2O側は安定するのに20-25分かかる。グラフ表示によって安定しているかどうかをチェックすることもできる。Plot(f4)を押してからグラフの種類をC, H, R, Sの中から選択し、グラフのふれが上下1ドットずつぐらいになればよい。グラフから戻る時はESCキーを押す。
  7. 落ち着いたら、AutoALL(f3)を選択する。
  8. QUIT(f5)を選択して、ゼロ校正を終了。次回電源を入れたときにこの校正データを有効にするためにコンピューターに校正情報を記憶させるか尋ねるメッセージが表示される場合は「Y」を選択するが、現状ではメッセージが表示されないので、View, Store Zeros & Spanを選び、値が表示されたらf1キーでStoreする。そのあと、個別にStoreするかを確認して終了。週一程度で校正していれば、、測定毎に行なう必要はない。
IRGA SPAN校正編
  1. できれば月に1回は標準ガスを使ってこの校正を行なう。
  2. 何も挟まないでチャンバーを閉じる。
  3. サンプルホース(白い2本のホースの内、黒い物体がある方)のコネクタを外して、代わりにスパンガス用のホースを取り付ける。
  4. 「↓」、「↑」キーで標準ガスボンベの記載濃度に、画面の表示濃度をあわせる。
  5. Doneを押す。ESCキーを押してCalibメニューに戻り、「Store Zero & Span info」メニューを選択する。
  6. 校正された内容が画面上に表示されるので、Storeを選択する。
  7. 上のIRGAのゼロ校正の8を参考に各項目について保存する。ここで校正内容を保存しないとメインメニューでCALエラーが表示される。
アナライザーのマッチング

チャンバーには2台のアナライザー(Reference側とSample側)が装備されている。動作中にこの2台のアナライザーの表示にズレが生じる場合があるので、マッチングと呼ばれる操作で校正する必要がある。上記のIRGA SPAN校正中にズレが検出された場合は、Mキーを押してサンプル側のガスをレファレンス側にも流して同一ガスで表示が同じになるように校正する。また、測定中でもこの作業は可能で、チャンバーを何も挟まない状態で閉じてからNewMsmntの画面でMatch(f5)を選択する。その後Match IRGAs(f5)の キーを押すとリーク等の確認を促すメッセージが表示されるので、確認して異常がなければ「Y」を押す。この作業によって、CO2R(Reference側)とCO2S(Sample側)同士、 H2ORとH2OS同士の表示値が同じになるので、ズレが大きくならないことを確認する。良ければ、exit(f1)を選択してマッチング終了。

LI-6400による光合成の測定

測定項目の表示:

メインメニューからNewMnt(f4)を押すと測定画面になる。各項目名の下に現在の測定値や計算値が表示される。Rはリファレンス側、Sは試料側、Δはリファレンスと試料の濃度差を表す。表示項目は全てが表示されているわけではないので、表示されていない項目については、aからkのアルファベットを入力することにより入れ替えて表示させる。上下の矢印キーで移動してもよい。表示されているファンクションキーの種類も1から6の数字を入力することによって変えることができる。

測定数値のファイルへのセーブ:

  1. メインメニューからNew Msments(f4)を選択。
  2. OPEN Logfile(f1)を押してデータファイル名を入力し、ENTERキーを押す。
  3. 残りのディスクスペース(測定回数)の表示が出るので、必要な回数が残っているかどうかを確認する。
  4. 注釈入力画面になるので、測定情報を入力する。
  5. ファンクションキーのf1がLOG 0(測定回数0回を示す)に変わったのを確認し、葉をチャンバーに挟む。
  6. CO2RとCO2Sが安定するのを待って、チャンバーの黒いボタンを押すか、f1キーを押す。これによりファンクションキーのf1はLOG 1になる。
  7. 必要に応じて測定を繰り返した後、CLOSE FILE(f3)を押してファイルをクローズする。
  8. ファイルをクローズする前であれば、測定されたデータをVIEW FILEキーで確認することができ、また、LABEL 4によりグラフ表示させることもできる。

CO2濃度の設定

  1. CO2のミニチュアガスボンベをセットする。ボンベの先端のくぼみにOリングを入れ、次いでキャップの中にボンベを入れ、ひっくり返して本体にねじを回して取り付ける。ねじを回していくと突き抜ける感覚があるので、そこからさらに回してしっかり固定する。Oリングはボンベの交換のたびに新しいものを使用する。
  2. ソーダライムのバルブをScrub側にいっぱいに回して外気のCO2を吸収するようにする。
  3. ファンクションキー2のMIX OFF(f3)を押して、Rから設定したいリファレンス側のガス濃度を入力する。入力範囲は50-2000μmol/mol。50以下の値には設定できないので、濃度をもっと下げたい場合は、Nを押してMixerをオフにし、ソーダライムのバルブをScrub/Bypassのつまみで手動により調整する。
  4. ガスボンベは1本で8時間程度使用できる。ただし、使わなくてもリークがあるので、測定の翌日以降に残っているガスを使う、というわけにはいかない。
  5. 1箱(25本)のガスボンベを使うたびにレギュレーター横のフィルターを交換する。ガスボンベが入っていない状態で、レギュレーター脇の小さな筒のチェーンがついているキャップをはずす。引き抜き工具(針金)を使ってフィルターを取り出す。新しいフィルターを指先でしごいて細くし、外紙をはがして筒の中に入れ、キャップをする。

流量の設定

  1. ファンクションキー2のFlow OFF(f2)を押して設定したい流量を入力する。設定範囲は50-600μmol/sだが、200μmol/s以下だとガスの置換がうまくいかなくなる。
  2. ドライアライトのScrub/Bypassのつまみにより、手動で湿度を調整する。葉を入れた状態で、H2ORが12程度だとRHが50%程度になる。
  3. 流量を自動で設定し、湿度を手動で調整する代わりに、湿度を自動で設定することも可能。

温度の設定

ファンクションキー2のTMP OFF(f4)を押してBからブロック温度を希望の温度(例えばシロイヌナズナであれば23℃)に設定する。

A-Ciカーブの作成

  1. ファンクションキー5のAuto prog(f1)を押して、メニューからA-CiCurveを選択する。
  2. 測定したいCO2濃度をppm単位で、カンマで区切って入力する。最大ステップ数は25、入力範囲は50-2000μmol/molおよび0μmol/mol。濃度は下げる方向にすると落ち着きが速いので、左から右へと濃度を下げるように記述するとよい。
  3. Minimum wait time (secs)を入力する。CO2濃度に順応するまでの最小待ち時間。300でよい。
  4. Maxmum wait time (secs)を入力する。CO2濃度に順応するまでの最大待ち時間。600でよい。
  5. Stability (total CV %)を入力する。温度、流量、光量子量の設定値に対する許容誤差。入力値の1/3が各設定値に対する許容誤差となる。3%(各設定値に対して誤差が1%以下になった時に測定する)でよい。
  6. Match before each log? (Y/N)を入力する。測定ごとにアナライザーのマッチングを行なうかどうか。これに答えると測定を開始するので、ここまでの間に葉をチャンバーに挟んでおく。
  7. ファイル名を入力する。NoteとEdit Remarksも入力可能。