FP-8500による低温蛍光スペクトル測定

2023.10.5最終更新

低温蛍光スペクトル測定の原理については、低温クロロフィル蛍光スペクトル測定をご覧ください。以下のプロトコールは、日本分光の蛍光光度計FP-8500を用いて蛍光スペクトルを測定するためのプロトコールです。もう少し詳しい解説は「低温蛍光スペクトルによる光合成解析」にも掲載しています。

装置:蛍光光度計FP-8500に液体窒素による冷却ユニットPMU-830をつけ、850 nmまで波長拡張したもの(日本分光)

蛍光光度計FP-8500 冷却ユニットのジュワー瓶

通常の蛍光光度計は室温での測定のみ対応していますので、オプションで液体窒素温度まで試料を冷却するユニットをつける必要があります。また、系1のクロロフィルの低温蛍光バンドの極大は735 nm付近まで来ますから、測定波長としては800 nm付近まで測定できることが必要となります。したがって測定波長範囲が狭い機種の場合は、波長拡張を行う必要があります。さらに一般的な低温冷却ユニットは固体試料を前提としている場合が多く、普通の石英チューブ型のセルでは凍結時にかなりの確率で破損が生じます。したがって、試料セルを特注するか、あるいは適当な大きさのプラスチック製チューブなどを試料容器として用意する必要があります。

開始・終了手順:

  1. 蛍光光度計左側面のメインスイッチをオンにする(上面右手前のボタンではない)。
  2. 制御用のパソコンをオンにし、測定ソフトを立ち上げる(これは、蛍光光度計が立ち上がった後にする)。
  3. 測定(次項)
  4. 測定ソフトを終了する。終了するとドライバーが停止するので、それを確認してから蛍光光度計本体のスイッチをオフにする。

測定手順

  1. メインプログラムから「スペクトル測定」をダブルクリックして測定モードに入る。
  2. 測定ツールバー上の「パラメータ」をクリックし、測定モードなどを選択する。通常は測定モードは「蛍光」あるいは「励起」を目的に応じて選択し、励起バンド幅、蛍光バンド幅、レスポンス、感度、蛍光(励起)波長、開始波長、終了波長を設定する(次項)。
  3. 試料を入れる前に、制御ツールバー上の「オートゼロ」をクリックし、蛍光強度を0に設定する。
  4. 試料をセットし、測定ツールバー上の「試料測定」をクリックし、測定を行う。測定が終了すると自動的にスペクトル解析プログラムが立ち上がり、ここからファイルへの保存やテキストファイルへのエクスポートによりデータを記録できる。
  5. 以上は、ツールバー上のアイコンを使わず、メニューの「測定」あるいは「制御」からでも行うことができる。

パラメータの設定

  1. 基本タブのバンド幅は目的の蛍光発光のバンドの幅に合わせて決定する。低温クロロフィル蛍光測定で685 nmと695 nmのバンドをきちんと分けたいときには蛍光バンド幅は2 nm以下にしたほうがよい。励起バンド幅は、通常の発光スペクトルをとるためだけなら広くても構わない。
  2. 基本タブのレスポンスは走査速度との兼ね合いで決定する。
  3. 基本タブの感度は蛍光のIntensityが10000を超えない程度に設定する。
  4. 制御タブのスペクトル補正はoff。通常のローダミンによる補正は、長波長領域の蛍光を測定するクロロフィル蛍光の測定の場合は使えない。必要ならば、標準光源によりちゃんと補正する必要がある。別の方法として、励起波長と蛍光波長を同期させることによりフォトマルの感度については、情報を得ることができる。減光板と散乱板を入れて同期モードで測定したスペクトルで、実際の測定スペクトルを割り算すれば、フォトマルの感度補正をすることはできる。
  5. 光により分解されやすい資料の場合、制御タブから、測定時にのみ励起光のシャッターを開くように設定できる。
  6. 情報タブから、試料や測定条件の情報を入力することができる。また、ここで、それらの情報の入力ダイアログを測定終了後に開くかどうかを設定できる。
  7. データタブの転送設定をオンにしておくことにより、自動的にスペクトル解析プログラムが立ち上がる。

試料室の交換

低温冷却ユニットは、通常の試料室を取り外して付け替える形で本体に装着します。以下にその方法を示しておきます。

  1. 通常の試料室の下部手前の下側につきだしている2本のねじを手で緩めてはずす。
  2. 試料室を手前に少し持ち上げるように引き出して取り出す。
  3. 低温冷却ユニットを手前から滑らせて入れる。この際に、ユニット底部の奥の切れ込みが、本体の対応部のねじの下側に入るようにする(ねじの上にのってしまうと光軸がずれる)。
  4. ユニットがカチッとはまったことを確認してユニット下部の2本のねじを手で締める。
  5. なお、以上の操作をもし本体スイッチをオンにしたままで行う場合は、励起光および測定光のシャッターを閉じておく。

消耗品

光源のキセノンランプは200時間ぐらいから光量が低下する。1000時間を超えると切れる可能性が高くなる。

  1. キセノンランプ(150 W):UXL-159

測定上の注意点

610-620 nm励起のときに730 nmに迷光が見られる。励起光に近い波長までカットするフィルタ(R-64など)を蛍光側につけることにより改善が見られる。

365 nm励起の時に730 nm付近に2次光が見られる。2次光カットフィルタが内蔵されているが、ちょうどその波長部分だけがうまくカットされない。こちらは400 nm以下をカットするようなフィルタを蛍光側につけることにより改善可能。