光合成の質問2016年

このページには、寄せられた質問への回答が新しい順に掲載されています。特定の知りたい情報がある場合は、光合成の「よくある質問」(FAQ)のページに分野別に質問を整理してありますので、そちらをご覧下さい。


Q:酸素100%と二酸化炭素100%の三角フラスコにカラシナの本葉が出かけの光合成して成長しようとしている苗を入れてどっちが枯れるか見たのですが、だめな実験だと言われました。ルビスコと光呼吸を絡めた意見でした。光合成が先か酸素呼吸が先かのような議論になりやって見たのですが、いろんなファクターが絡んでくるのを結果から切り分けようと思ったのですが、だめでしょうか?素人考えですみません。教えていただければありがたいです。(2016.11.20)

A:光呼吸という以前に、まず実験デザインについて考えてみる必要があるかもしれません。酸素100%の条件下では、酸素が存在するので呼吸が可能、二酸化炭素がないので光合成はできない、と考え、二酸化炭素100%では逆であると考えたのだと思います。しかし、何かを明らかにしようとするときには、ある実験と、明らかにしようとするポイントだけが違う実験を比較するのが普通です。対照実験が重要なのです。ご提案の2つの実験間では、光合成が異なる上に呼吸が異なるわけなので、差があってもそれがどちらの影響なのかがわかりません。また、酸素100%における呼吸と酸素21%(大気条件)における呼吸が同じであるかどうかについても保証の限りではありませんから、さらに状況は複雑です。そこで、例えば、大気条件(酸素21%、二酸化炭素0.04%)を対象として、酸素0%、二酸化炭素0.04%(残りは窒素)で実験をすれば、酸素の有無の影響だけを見ることができますし、酸素21%、二酸化炭素0%(残りは窒素)で実験をすれば、二酸化炭素の有無の影響だけを見ることができます。そのような実験であれば、光合成の影響や呼吸の影響について議論できると思います。(2016.11.23)


Q:赤い葉っぱは光合成をするか?のページにおいて「赤い色素は、光合成色素ではないので、光合成には直接は寄与しません。」と書かれていて、赤く紅葉した葉は光合成していないという結果がでています。これは「赤」に限定されているからで、黄やオレンジに紅葉している葉(イチョウなど)は光合成している可能性があると捉えて良いのでしょうか??(光合成色素についてのページにおいて光合成色素であるカロテノイドは黄~オレンジに見えると書かれているので…)(2016.11.17)

A:カロテノイドは、確かに光合成色素なのですが、クロロフィルがない場合には、単独では光合成をする機能を持ちません。カロテノイドは、クロロフィルのために光エネルギーを捕集したり、光エネルギーが余った時にそのエネルギーが悪さをしないようにしたりする機能を持っているのです。したがって、クロロフィルが存在してカロテノイドもあって黄緑色をしているうちは光合成をしますが、カロテノイドだけになって完全に黄色くなると、光合成はできません。なお、オレンジ色の葉の場合は、カロテノイドが濃くてオレンジ色に見えていることは少なく、たいていは、カロテノイドと赤い色素のアントシアンが混ざってオレンジ色になっています。結論としては、緑色のクロロフィルが存在するかどうかが、光合成をするかしないかを決めている、ということになります。(2016.11.17)


Q:みかん農家です。みかんや柑橘類の光合成と転流について簡単に教えてください。光合成の活発な時間帯や季節、転流が頻繁に行われる時間や気温など、栽培に参考にしたいのでよろしくお願いします。(2016.11.1)

A:柑橘類の専門家ではありませんので、植物の一般論としてお答えします。光合成の速度は、主に光、温度、根からの水分供給によって決まります。生育の適期においては、昼に光が強くなり、温度も上がりますから、光合成は一般に昼に高く、朝晩に低下して夜に0になります。ただし、水分供給が制限されている条件では、真昼に湿度の低下に基づく光合成の一時的な低下がみられることもあります。また、冬場に温度が下がっている条件では、光が強すぎると光合成が阻害されることがありますので、真昼以降に光合成の低下がみられる場合も考えられます。
 転流に関しては、光合成の産物が葉緑体にたまっている時間帯で活発になります。したがって、朝、光が当たり始めてしばらくすると転流が開始します。通常、最大光合成速度の方が、転流速度よりも高いことが多いので、光合成速度が上がって転流速度を上回ると、その差の分の光合成産物は葉緑体にデンプンとして蓄積されます。夕方になり光合成速度が下がって転流速度を下回ると、今度はデンプンを分解してそれを転流に回しますので、場合によっては、夜になって光合成速度が0になってもしばらくは転流が続くことがあります。極めて大雑把にまとめれば、昼に光合成は最大になり、転流が起こる時間帯は、光合成よりもやや遅れると考えることができます。(2016.11.2)

Q:先日質問させて頂いたみかん農家です。わかりやすく回答頂きありがとうございました。今回は、光合成とみかんの呼吸について簡単な解説をお願いしたいのですが、みかんの呼吸について調べたデータを見た時に呼吸の速度は、細根>枝>果実>太根>幹。(100キロを越えるみかんの呼吸量の器官別データ)果実:葉:茎:根の器官別の呼吸量比が、21:15:25:39とありました。呼吸の速度と量ではこのように違うようでしたが、光合成をする時にこのデータのような呼吸との関係性もあるのでしょうか?みかんの場合は、春先は果実が無いので光合成の時の呼吸量も少ないのでしょうか?呼吸量と蒸散量も光合成に関係しますか?(2016.11.5)

A:まず、呼吸の速度が直接的に光合成の速度に影響を与えことはあまりありませんが、間接的には様々な関係があります。一つは、葉で光合成を盛んにすると、光合成の産物である有機物がたくさん合成されます。その有機物は、呼吸の基質でもありますから、それによって呼吸の速度が上がる場合があります。他に、根が水を吸い上げるためのエネルギーは呼吸によって賄われます。したがって、例えば根が水につかるなどによって、根の呼吸が妨げられると葉に水を送ることができなくなり、葉の光合成が低下する場合があります。また、おっしゃるように果実がなければ、その分の呼吸量は少なくなります。しかし、そのこと自体が光合成量に影響を与えることはあまりないでしょう。一方、蒸散量は光合成量と密接にかかわります。植物は光合成の基質となる二酸化炭素を気孔から取り入れますが、同じ気孔から水が蒸散します。光合成を盛んにするときには気孔を大きく開きますから、蒸散も大きくなりますし、前述のように例えば根から水が送られなくなると、乾燥を避けるために気孔を閉じますから、当然光合成量も低下してしまいます。(2016.11.6)


Q:いつも楽しく拝見しています。先日読んだ論文(日本語)に、「葉緑体の懸濁液にアントシアニンを添加するとHill反応が活性化するが、これはアントシアニンが光受容体として働き、葉緑体へエネルギーを伝達するためと考えられている」という記述がありました。アントシアニンは光合成色素ではないと習いましたが、アントシアニンがエネルギーを伝達するというのは研究の世界では定説となっているでしょうか?よろしくお願いいたします。(2016.10.22)

A:おっしゃるようにアントシアニンは光合成色素ではありません。また、そもそも、アントシアニンは細胞内で主に液胞に局在していますから、葉緑体内のクロロフィルにエネルギーを渡すことはあり得ません。ただ、ここで述べられているのは、葉緑体の懸濁液に添加するという人工的な系ですから、植物の体の中とは異なる特殊な反応が起こっている可能性は否定できないと思います。しかし、例えそのような反応が起こっているとしても、一般的な植物の光合成の反応と結びつけて議論することは避けるべきだと思います。(2016.10.22)


Q:薄層クロマトグラフィーにおいて、展開溶媒が石油エーテル:アセトン=3:2の場合、移動速度がβカロテン、クロロフィルa、クロロフィルb、ルテイン、クロロフィルcになるのはなぜですか?(2016.10.13)

A:薄層クロマトグラフィーにおける光合成色素の移動度の順番については、薄層クロマトグラフィーで光合成色素の溶出の順番はどのように決まるか?で説明してあります。これを読んでも理解できない場合は、どの部分が理解できないかをご質問いただけますか?(2016.10.13)

Q:薄層クロマトグラフィーについて実験したのですが、クロロフィルcだけが、移動速度がとても遅かったのですが、これはなぜでしょうか。教えていただけると幸いです。(2016.10.13)

A:クロロフィルaやbの構造とクロロフィルcの構造を比べると、大きく違うのはフィトールという長い炭化水素の鎖がクロロフィルcには欠けていることです。炭化水素は典型的な非極性の(極性が小さい)分子ですから、これがなくなれば分子の極性は大きく変化します。あとは、上述の移動の順番についての説明を読めばわかりますよね?(2016.10.13)


Q:不勉強な質問で申し訳ありません。市販の乾燥させたわかめなどは、水に戻すと再びもとの大きさになりますが光合成を再び行うことは可能なのでしょうか。やはり工場などで処理されたため生命活動が停止し、光合成を行うことはできないのでしょうか。(2016.9.8)

A:一度乾燥した光合成生物が、再び水を与えられたときに光合成を再開できるかどうかは、生物の種類によって異なります。コケや、藍藻類などには、完全に乾かしても、再び水を含むと光合成を再開できるものがいます。海藻の場合は、生き返って光合成を始めるものはいないように思います。ただ、光合成の反応の一部だけでしたら、その能力を保っている場合はあります。例えば、市販の乾燥海苔を水に戻しても生き返りはしないと思いますが、そこから光合成に働くタンパク質を取り出して見ると、タンパク質によっては、その活性を保っている場合があります。(2016.9.8)


Q:初めまして,クロロフィル蛍光測定装置を使って野外植物のFv/Fmの季節変化を研究しています.春(5月)と夏(8月)のFv/Fmを測定しました.暗処理は30分です.夏のほうが強くストレスを受けるためFv/Fmは低下すると思っていたのですが,春のほうが値は小さくなりました.春のほうが光阻害を受けることはあるのでしょうか.それとも光阻害以外の影響があったのでしょうか.(2016.8.17)

A:これは、実習ではなく、自分の研究としてやっているのですよね?季節変化の原因を知るのが研究目的なのだと思いますが、ご質問は、まさにその原因を聞いています。結局答えを人に聞くのでしたら、そもそも研究をする意味がないように思いますが・・・。
 これだけだとあまりにもそっけないので、研究の進め方についてコメントしておきます。実験実習では、実験をしてその結果を考察してレポートを書くと思います。実習はそれでおしまいになるわけですが、それだけでは研究にはなりません。得られた結果から、次の仮説を立てて実験を行い、またその結果から次の仮説を立てて実験をする、という繰り返しによってはじめて研究が成立します。この研究の場合、最初の仮説は、「夏のほうが光阻害をうける」だったのだと思います。ところが実験をしてみると春のほうが光合成の収率が低いという結果が得られました。そこで必要なのは人に答えを聞くことではなく、自分で考えることです。もし、次の仮説が「実は(光は弱いはずの)春のほうが光阻害を受ける」だとしたら、それを証明するには何をしたらよいでしょうか?当然まず考えなくてはいけないのは光の強さ以外の環境要因でしょう。例えば光が弱くても温度が低ければ光阻害が起こるのかもしれません。もし、そのような仮説が考えられるのであれば、その仮説を証明するための実験を考えて実行します。そして、その実験結果に基づいてさらに先に進むわけです。あるいは、夏にはクロロフィル蛍光測定がうまくいかない、という仮説もあり得ると思います。質問にはきちんと暗処理の時間を書いていて、そこは感心だと思いました。おそらく、暗処理の時間が重要であると認識されているのだと思います。そうでしたら、春と夏とで、暗処理の時間などの測定条件を変えて結果が変わるかどうかを試す、というのが次の実験になると思います。季節変動を追いかけるなどの生態学的な実験の場合、実験を数多く繰り返すことが難しいのは確かですが、研究においてはそれは言い訳にはなりません。最初の実験デザインが悪かったということで片付けられてしまいます。その意味で、生理生態学的な実験では、フィールド実験と室内実験を組み合わせることが必要になる場合も多いでしょう。「春は温度が低い」仮説の例であれば、植物を鉢などに移して人工気象器に入れて「夏の温度・夏の光強度」「夏の温度・春の光強度」「春の温度・夏の光強度」「春の温度・春の光強度」でしばらく置いた後に、Fv/Fmを測定するといった実験が考えられると思います。いずれにせよ、研究には実験のデザインが重要で、そこは自分で考えなければ研究をする意味がないように思います。(2016.8.17)


Q:中学校の夏休みの宿題でなすびとピーマンの色素抽出の実験を行っています。なすびの皮(果肉は少し入ります)とピーマンの皮をそれぞれ乳鉢に入れシリカゲルとともにすり潰して水を加えます。その後試験管に移してジエチルエーテルを入れて抽出を試みたのですがなすびもピーマンもジエチルエーテルの層になにも出ません。このサイトによるとクロロフィルの緑の層が出ると書いてあったのですが、何がいけなかったのか分かりません。教えてください。(2016.8.16)

A:可能性として考えられるのは水の問題です。ナスやピーマンは、普通の葉に比べると水を多く含んでいます。ジエチルエーテルは水と混ざりにくいので、水が多い場合には抽出がうまくいきません。対策は二つあります。一つは、ナスやピーマンのごく表面だけを薄くそぐようにして色の濃い部分だけを材料とすることです。これによって同じ色素の量あたりの水の割合を減らすことができます。もう一つは、溶媒をジエチルエーテルから、アセトン、メタノール、エタノールといった水と混ざりやすいものに変えることです。水が存在しても抽出の効率が一番高いのはおそらくメタノールですが、毒性があります。安全性が一番高いのはエタノールでしょう。(2016.8.16)


Q:スーパーマーケットの惣菜売り場に売られているサラダで、茹でた枝豆(鞘から出したもの)、ブロッコリー、アスパラなどの野菜が緑色が抜けて白くなってしまいます。実験では、蛍光灯とLED証明での差はなく、光量を減らしたり遮光すると退色は緩やかになることが分かりました。しかし商品としては中身が見えないといけないので遮光により退色を防止することはできません。酸素や水分量のコントロールまたはサラダが入る容器により退色を減らすことはできまでしょうか?(2016.7.28)

Q:色素の退色には、やはり光が一番大きな要因として働きます。そのほか、クロロフィルの分解に働く酵素の有無が効く場合もありますが、ゆでていれば普通失活しまうので、それほど問題はないように思います。酸素や水分量は、確かに物質の分解速度に大きな影響を与えますが、色素に限った話ではありませんから、一般的な鮮度を保つ努力ととくには変わらないと思います。野菜だと、水分を除くというわけにはいかないと思いますが、窒素充填や酸素除去はある程度効果があるのではないかと予測します。(2016.7.28)


Q:先日、TLCを用いてさまざまな植物から天然物色素の分離を行う実験をしていて気になったことがあったため質問をさせていただきました。
1.Rf値が0.95付近を示すカロテンが時間経過とともに薄くなるのは、どういった反応が起こっているから起こるものなのでしょうか。
2.採取した植物は全て種子植物なのですが、カロテンが含まれているものと含まれていないものがありました。クロロフィルa,bやキサントフィル類は全て見られたのにカロテンだけ「ある・ない」があるのには理由があるのでしょうか。
3.フェオフィフィチン、クロロフィルa,b、ルテインのバンドが2か所(1つ目はRfが0.70~0.55の範囲、2つ目は0.20~0.02の範囲)現れました。同一色素が2つのRf値を示すはずがないと思っていたのですが、なぜ起こったと考えられるのでしょうか。(2016.6.9)

A:まず、質問のコツにも書いてありますように、何かがうまくいかなかった実験についての質問は、何度やっても同じように失敗するのか、それとも一度だけの結果なのかを明記してください。
1.「時間経過」の時間がどの程度のスパンなのかが書いていないのですが、(1)展開溶媒が乾く以前の話であれば、色素の拡散によってバンドは少しずつ広がりますので、その分、色は薄くなっていきます。(2)展開溶媒が乾くことにより、シリカゲルの反射率が上がりますので、その分色としては薄くなります。(3)より長い時間をおくと、色素の分解によって色が薄くなります。色素の分解は光によって進行が速くなりますので、なるべく光を当てないようにしたほうが良いでしょう。
2.TLCで確認できるカロテンは通常β-カロテンですが、光合成組織にはほとんどの場合、β-カロテンが含まれます。β-カロテンが見られない場合、抽出が不完全である可能性が高いかもしれません。β-カロテンは、クロロフィルやキサントフィルなどに比べて極性が小さいので、抽出時に水が多いと抽出効率が悪くなります。
3.これは全く分かりません。そもそも、通常はRf値を基準にその色素が何であるかを考えるわけですが、全く異なるRf値を示す色素が、それぞれフェオフィフィチン、クロロフィルa,b、ルテインであると、どのように判断したのかが理解できません。また、このようなケースこそ、何度やっても同じように失敗するのかという情報が必要になります。(2016.6.9)


Q:光飽和点に達する光量子束密度は光の波長(例えば、青、緑、赤の単色光)によって異なるのでしょうか。もしそのような研究がありましたら、文献もご紹介いただけませんでしょうか。(2016.5.18)

A:まず、光飽和点という言葉は高校の教科書などでよく見られますが、仮想的なもので、実際に決めることができるものではありません。光を強くしていくと、光合成速度は最大光合成速度に向かって漸近していきますが、理論的には最大光合成速度になるのは光を無限に強くした時です。これは、酵素反応速度論において、最大活性を得るのに必要な基質濃度が無限大になるのと同じです。とはいえ、ご質問の意味は、「光-光合成曲線のカーブの形が光の波長によって異なるか」ということだと思います。それはもちろん異なります。光-光合成曲線の横軸は照射光であって吸収光ではありませんから、植物は同じでも、光の波長が異なって吸収率が変われば、当然光合成の速度は変わります。このこと自体はあまりにも当たり前なので、特に「文献」というのはないのではないかと思います。ただ、この点を、葉の内部構造における光の通りやすさと結び付けて議論した例としては、Terashima,I et al. (2009) Plant Cell and Physiology 50:684-697 があります。(2016.5.18)

Q:ご回答いただき、ありがとうございます。疑問の発端は、植物の成長速度を最大にするにはどうすればよいか、という疑問からでした。植物工場では赤色と青色の光だけで栽培しているところもあり、波長によって成長速度が頭打ちになる光強度(光飽和点)が異なるのではないか、と考えた次第です。寺島先生の論文は拝見いたしましたが、どうにも求める波長と光飽和点に関する文献を見つけることができなかったので、質問させていただきました。教科書的には、「光量が一定以上になると光障害が起きて成長が阻害されるためピークが生じる」となっており、そうすると最も光障害が少なそうな赤色が最大の成長速度をもたらすことができそうな気がしますが、いかがでしょうか。(2016.5.18)

A:いくつかの点がごっちゃになっているようですので整理すると、
1.光合成速度は定常状態の値であるのに対して、光阻害は時間依存的に大きくなります。したがって、光阻害を受けた光合成速度と受けない光合成速度を、横軸に光量をとった同じグラフに載せて議論するのは不適切です。
2.一定時間ごとに光量を上げていって光合成を測定し、横軸に時間をとったグラフを作れば、見かけ上、光ー光合成曲線と同じようなカーブが得られて、そこではピークが生じます。しかし、そのピークを与える光量を光飽和点というのは不適切です。
3.光阻害の大きさは、照射光量の絶対値ではなく、照射光量と生育光量の比によって決まります。したがって弱光で栽培した植物に強光を照射すると光阻害が誘導されますが、そもそもある光量で栽培されている植物にその光量の光を照射した場合には、光阻害としては観察されないことがほとんどです。自然条件での光阻害は、通常、光以外のストレスがかかったことによって誘導されます。
4.光飽和点は、仮想的な概念で測定不可能ですが、最大光合成速度の(たとえば)90%を与える光量を定義することはできますし、これは実際に測定可能です。これを飽和のしやすさの指標として使うことはできます。
5.異なる波長の光で植物を栽培し、そのような指標を使って、飽和のしやすさを比較すれば生育が一番飽和しにくいのは緑色の光でしょう。また、光を飽和させた状態で、最も良い生育が実現するのも、寺島さんの結果を考えれば、緑色の光である可能性があります。
6.ただし、光の波長は、光合成よりもむしろ形態に大きく効きます。形態が大きく異なる植物の生育を比較することにどれだけ意味があるかは難しいように思います。生重量なり、乾燥重量なりを比較することはできると思いますが、そもそも形態が異なれば光のあたり方が変わってしまいますので、光の波長ではなく、形態の変化の二次的な影響を大きく反映しそうです。(2016.5.18)


Q:11.植物と環境に関する質問Q2:藻類によってpHが変わるのはなぜか?に記載されていることを引用文献にしたいのですが、元文献を教えて頂けませんでしょうか?(2016.4.13)

A:申し訳ないのですが文献自体は僕も知りません。このような現象が見つかったのはかなり古く、光合成による二酸化炭素の吸収の発見が1700年代の終わりごろであることを考えると、もしかしたら1800年代にさかのぼる可能性もあります。このような素朴な現象の元文献を見つけるのは案外大変なのです。(2016.4.14)


Q:初めまして。私はキクの研究をしているものです。キクの栽培現場では現在、白さび病という病気が多発していまして、その対策に取り組んでおります。その白さび病の防除法に白さび病の菌が潜伏しているキクの苗をお湯に浸漬する温湯処理という技術があります。キクは栄養繁殖で苗を増殖させる品目でして、キクの成長点から下に葉を3?4枚残して切り取り、それを地面に挿すと、そこから根が出て完全な植物体となります。お湯に浸漬をするのは苗を取った後、地面に挿す前となりますので、根が出ていない植物体をお湯に浸漬することになります。そして、キクの苗の温湯処理は48℃?52℃程度のお湯に1分?3分間苗を浸漬するのですが、温湯処理後2,3日すると葉が焼けたり、キクが枯れたりするといった障害が出ることがあります。そこで、障害の原因を探るために、温湯処理した後の光環境を変えてみたのですが、52℃のお湯に1分間苗を浸漬しまして、その後20℃一定に設定したインキュベーター内で、一方は照度5000lux(蛍光灯)下に置きまして、もう一方は照度0lux(暗黒)下に置きました(どちらも供試数は20本です)。すると、3日後に照度5000luxの環境では全て枯れてしまったのですが、暗黒下のものは葉の面積の0?3割程度が焼けた程度でした。この結果からお湯に浸漬した後に光が当たることが障害を大きくする要因だと思われました。そこで、お聞きしたいことがあるのですが、これは52℃のお湯に1分間浸漬することで、キクの光合成の速度が低下してしまい、温湯処理後に当たる光の強さによっては光阻害を起こしてしまうということなのでしょうか?しかし、暗黒下でも少し葉が焼けたということはお湯に浸漬した時点で細胞が壊れてしまって葉緑体などが流出し、それが光合成速度の低下を引き起こしている(52℃のお湯でこんなことが起こるのかはわからないのですが)ということも考えられるのでしょうか?以上の点につきまして、お手数ですがご教授をよろしくお願いいたします。(2016.2.7)

A:すべておっしゃる通りで、ほとんど僕が付け加えることはありません。52℃という温度は、多くの植物にとってかなりぎりぎりの温度ですので、葉緑体の機能などが不可逆的に失われてしまう可能性は十分にあります。暗所で一部の葉に異常が認められた原因はそこにあるのでしょう。そして、機能が完全には失われない場合でも、ある程度の活性低下は起こると思いますので、そこに光が当たると光阻害が引き起こされてしまうのでしょう。陸上植物の葉の馴化応答は数日の単位で起こることが多いので、温度処理後3日ぐらいたってから徐々に光を当ててみるのがよいのかもしれませんね。(2016.2.7)


Q:大学の実験で、薄層クロマトグラフィーによる植物色素の分離を行いました。ホウレンソウ・スジアオノリ・モサオゴノリ・ヒジキをシリカゲルと一緒に粉末状になるまで細かく攪拌し、ジエチルエーテルを加えて遠心機にかけて得られた上清をTLCにスポットし、展開溶媒の入った試験管に入れ、シリコン栓でふたをして10分待ってから展開の様子を観察し、分離した色素を同定するという実験でした。教科書に主な色素のRf値と色調の表がのっていたのですが、ホウレンソウでは8つ、スジアオノリでも7つのスポットが出てきてしまい、教科書の表と照らし合わせてもどうしてもいくつか同定できない色素がありました(スポットの数が多すぎて対応する色素がみつからないことにも困りました)。具体的には、ホウレンソウのTLC上の緑色のスポット(クロロフィル系だと思われる)なのにRf値がかなり低いものがある(0.33でした)、フィオフェチンと思われる灰色のスポットが離れた位置にいくつも現れる、Rf値や色調から推測できる色素はあったものの、材料の植物の種族から考えると含まれるとは考えにくいものであった==途中文字化け==上で同じ色素が異なる位置に展開することはあるか」という質問になると思います。また、色素の同定を行う際、スポットの色調とRf値ではどちらが判断材料としては優先されるべきなのでしょうか。Rf値は不安定なので、色が同じであればRf値が大きくずれていてもその色素と同定してしまってよいものでしょうか。色も人によって表現のしかたが違うので、これも不安定なことに変わりはないと思うのですが…。色調から推測される色素とRf値から推測される色素が違ったときにどう同定すべきかわからず、困ってしまいました。他の色素との位置関係から考えればよいのでしょうか?それにしても、「カロテンとクロロフィルの間に現れる」といわれたフィオフェチンのような灰色のスポットがクロロフィルの下に現れてしまって困ったのですが…。長くなってしまって申し訳ありません。よろしくお願い致します。(2016.1.5)

A:途中文字化けの部分がありましたが、質問の趣旨は充分にわかりました。基本的には、スポットの数が多くなる場合は、たいてい分解産物のスポットです。ノリやヒジキを生の材料でやっていらっしゃるのかどうかわかりませんが、乾物を使うと、どうしても分解産物ができます。また、八百屋さんから買ってきた新鮮なホウレンソウを使っても、色素の抽出に時間をかけたり、光があたったりすると、色素の分解は起こります。そもそも、フェオフィチンは植物体内ではクロロフィルの1/200程度しか含まれていませんから、もし色素がそのまま保たれるとすると、フェオフィチンのスポットはほとんど見えないはずです。多くの場合、はっきりとフェオフィチンのスポットが見えるのは、色素の抽出の過程でクロロフィルからマグネシウムが外れてフェオフィチンが生成するためです。
 では実際にスポットの同定をどのようにしたらよいかですが、これはどのような分解産物ができるかが条件によって異なるため、一概に言えません。結局のところ、色とRf値から何とか推定するしかありません。その際、Rf値の絶対値は条件によってかなり変化するので、数値自体を比べることにはそれほど意味がありません。ただし、Rf値の大小関係(=色素の順番)はかなり再現性がありますので、そこで判断することになるでしょう。(2016.1.6)