赤い葉っぱは光合成をするか?

一昨年の公開実験「ピーマンの実やスイカの皮は光合成をするか?」、昨年の「光合成を目で見てみよう」に引き続き、平成16年も光合成の公開実験を行いました。今回は、赤じそや紫キャベツ、あるいは紅葉した葉など緑色でない葉っぱでも光合成をしているのかどうかを観察しました。

今回の実験の狙い ー 紅葉の光合成

2次元CCD蛍光カメラの写真

光合成は主にクロロフィル(葉緑素)の働きにより葉っぱで行われます。ですから、一般には光合成は葉でしかできないというイメージがあるかも知れませんが、一昨年の公開実験でわかったように、葉っぱでなくとも、緑色であれば、ピーマンの実やスイカの皮のように、光合成を行うことができるものが多いのです。一方で、逆に、葉の中にも緑色でないものもあります。昨年の公開実験では、ふ入りの葉の場合、完全に白い部分では光合成が行なわれていないことを観察しました。

そこで、今年は、緑以外の色の付いている葉の光合成を調べようと思います。葉の中には、赤じそ(右下の写真)や紫キャベツなど、葉っぱ全体が赤い色をしているものがあります。また、葉っぱの一部が赤い色をしてるコリウス(日本名キランジソ:左下の写真)などもあります。これらの葉っぱは光合成をしているのでしょうか。また、モミジなどは秋になると紅葉しますが、紅葉によって光合成は変化するのでしょうか?季節もちょうど紅葉のシーズンなので、赤い葉っぱの光合成をテーマに実験を行います。光合成をしているかどうかを見るには、昨年も使った、光合成能力を目で見える形にすることができる機械によって調べたいと思います。

キランジソアカジソ

アカカタバミ

アカカタバミは、カタバミの一種ですが、葉がみな紫色をしています(下の左の写真)。中央下に見えるのは花が終わった後に付いた実で、これは緑色をしていることがわかります。さて、これを光合成を目で見える形にするカメラで撮ると右の写真のようになります。この場合、色は本物ではなく、光合成の活性を、低い時は青、次に緑から黄色、高い時はオレンジから赤で示しています。光合成を全くしない部分は黒くなります。紫色の葉、緑色の実はともに低いながらも光合成をしていることがわかります。写真の右側で光合成が高いですが、これは出たての葉なのでまだ元気がよいのでしょう。何しろ実験に使っているのは10月末に野外で生えていた植物ですから、どうしても光合成が低く出るのはしょうがないと思います。この実験によって、紫色の葉でも、光合成はできることがわかります。これは、光合成ができなければ植物は生育できないのですから、生きている以上光合成をしているはずだ、と考えれば当然のことかも知れません。

アカカタバミの光合成

コリウス(キランジソ)

コリウスの光合成

コリウスはよくプランターなどで栽培される観葉植物です。葉は緑色の部分もありますが、あちこちに紫色のパッチがあります(下の左の写真)。この葉の光合成を見ると(右の写真)、葉の先端の光合成はやや低く、葉の付け根で光合成が高いことがわかりますが、先端同士、付け根同士で比べると、紫色の部分も、緑色の部分も光合成の活性に差がないことがわかります。おそらく、紫色の部分にも、クロロフィル(葉緑素)は、緑色の部分と同じだけあって、そこにプラスして紫色の色素が加わっているために紫色に見えているのでしょう。紫色をしていても光合成をする、ということは上のカタバミの実験でもわかりますが、さらに、紫色の色素があっても、光合成の活性にはほとんど影響がない、ということが新たにわかります。おそらく、厳密に定量すれば、紫色の色素によって光が遮られる分、多少光合成の効率が低下しているのかも知れませんが、そのような低下はあまり大きくない、ということは言えると思います。

この葉の場合、付け根の方で光合成の効率が高かったのですが、この理由は不明です。葉の重なりなどによって太陽の光の当たり方が違っていて、それによって差が生じたのかも知れません。

紫キャベツ

キャベツは緑色ですが、紫キャベツは紫色です。あたりまえですね。では、八百屋さんで買ってきたキャベツと紫キャベツの光合成を比較するとどうなるでしょう?写真の上段はキャベツ、下段は紫キャベツですが、光合成を見ると、紫キャベツはほとんど光合成をしていないことがわかります。しかし、光合成をしない植物であれば、そもそも生育できないはずです。そこで、よく考えてみると、紫キャベツは八百屋さんで売っている姿で畑に生えているわけではありません。右の写真で見るように、畑では、周りに開いた葉っぱがあって、その中央に玉になっている部分があります。周りの開いた葉っぱは、紫に近い色をしていますが、明らかに緑色を含んでいます。おそらくこの部分を調べれば、ちゃんと光合成をしているのだと思います。

紫キャベツの光合成紫キャベツ

ビヨウヤナギ

上で調べた植物は、みな、いつも紫色をしている植物ですが、モミジのように秋になると紅葉する植物もあります。このように、紅葉する植物の場合はどうでしょうか。これは、下の写真は、ビヨウヤナギという低木の同じ木から、緑の葉っぱ、少し色づいた葉っぱ、きれいな赤になった葉っぱを取ったものです。光合成を見ると、色づいている真ん中の葉でも、かなりの光合成をしていることがわかります。一方で、きれいな赤になった葉っぱでは、ほとんど光合成が見られません。

おそらく、紅葉は2段階で起こると考えられます。まず、葉の中で赤い色素が合成されますが、その最初の時点ではクロロフィルはそのままなので、少し濁った赤色になります(真ん中の葉っぱのように)。その時点では、クロロフィルもありますので、葉は光合成できます。次いで、葉の中のクロロフィルの分解が進み、緑色がなくなるので、葉はきれいな赤に変わります。そうすると、もはや光合成はできなくなります。本当にきれいな紅葉は、もう光合成をできないということですね。

ビヨウヤナギの光合成

ベニカナメモチ(2006年4月の追加実験)

植物には、秋に紅葉するものの他に、春の新芽・新葉が赤いものもあります。よく生け垣に使われるベニカナメモチは春に大きな赤い葉を出すので非常に目立ちます。これについても追加で実験をしてみました。左の写真の左側が昨年出た葉、右側の小ぶりのものが春に出た新しい葉です。右の写真を見るとどちらも光合成をしていることがわかります。新芽が赤くなる例としてはモミジのたぐいなどいくつか知られていますが、弱い新芽を強光から守るためにアントシアンが蓄積する、ということになっています。その場合、別に光合成系が何か違うわけではないので、赤い葉でも光合成をするのは当然でしょう。なお、ここで実験に使った葉はベニカナメモチだと思うのですが、もしかしたらレッドロビンという木かも知れません。僕は分類が専門ではないので・・・。

ベニカナメモチの光合成

イロハモミジ(2007年11月の追加実験)

さて、真打ちのモミジ登場です。例によって下の写真の上段は、普通の写真、下段が光合成を可視化したイメージです。この写真ではわかりづらいですが、真ん中と右側の葉を比べると、真ん中の葉の方が緑色をより多く残して濁った赤色になっています。下段の光合成のイメージを見ると、それこそ紅葉のように、左の葉は赤く、真ん中の葉は黄色、右の葉は緑色になっています。これは、赤、黄、緑となるに従って光合成が低下していっていることを示します。この場合も、上のビヨウヤナギと同じで、まずクロロフィルを残したまま、赤い色素が貯まっていき、それからクロロフィルが分解していく、という過程を取っているのでしょう。

イロハモミジの光合成

最後に

上の例のような赤い葉っぱは、クロロフィルの他に赤い色素(アントシアンの仲間の場合が多いようです)を含んでいるので、色が赤く見えます。赤い色素は、光合成色素ではないので、光合成には直接は寄与しません。それでは、何のために赤い色素を作るか、という点に関しては、確実な実験結果はないようです。ただ、ストレスがかかった葉では赤い色素を蓄積する例が多いようです。可能性として、サングラスのように、強すぎる光、特に紫外線などを吸収して、葉の内部に透過させない、という役割をしていると考えることができます。