光合成を目で見てみよう

昨年の公開実験「ピーマンの実やスイカの皮は光合成をするか?」に引き続き、東京大学柏キャンパスのオープンキャンパスが平成15年10月31日(金)、11月1日(土)に行われた機会に、今年も光合成の公開実験を行いました。今年は、光合成がどの場所でどれだけ行われるかを、目で見える形で観察しました。約200名ほどの方が、実験に参加してくださいました。以下に実験の概略を示しておきます。

今回の実験の狙い ー 光合成の可視化

2次元CCD蛍光カメラの写真

光合成は主にクロロフィル(葉緑素)の働きにより葉っぱで行われます。さらに、昨年の公開実験でわかったように、葉っぱでなくとも、緑色であれば、ピーマンの実やスイカの皮のように、光合成を行うことができます。それでは、それらの光合成は、例えば葉っぱの中で一様に行われているのでしょうか。例えば、ふ入りの葉、アボガドの実、キウイの実などではどうなっているのでしょう。今回の実験では、光合成の能率を、特別なカメラ(蛍光CCDカメラ)を用いて2次元画像として捉える装置(右の写真)を使いました。

材料としては、ふ入りの葉、アボガドの実、キウイの実で、光合成の能力が、どのような分布を示すかを調べました。実の場合は、表面だけではなく、2つに割って切り口についても測定を行いました。測定可能な大きさは、10 cm × 10 cm 程の大きさの範囲です。さて、実際に測定すると、どんなイメージになったでしょうか。

斑入りの葉の場合

まず、ふ入りの葉の場合です。下の一番左の写真が、デジタルカメラで撮った、いわば「見た目」の写真です。大きい方の葉は、葉の一部がクリーム色と緑の絞りになっており、緑色の部分に比べてクロロフィルが少ないことが予想されます。小さい方の葉は、中心は緑色ですが、周りは完全に白くなっています。真ん中の写真は、クロロフィルから出る蛍光の強さを擬似的に色で示したものです。赤が強くて、黄色、緑となるに連れて、弱くなり、青が一番弱く、全く蛍光がないところが黒で表示されます。

真ん中の写真では、クロロフィル蛍光が一番強い時点での値を示しており、おおざっぱに言ってクロロフィルの量と比例関係にあります。しかし、実際には、大きな方の葉っぱは、色が濃いところも、薄いところも同じ赤になってしまっており、蛍光が強すぎて飽和していますので、ここでは「クロロフィルがある」という以上の定量的なことは言えません。一方、小さい方の葉っぱの場合は、周りの白いところからはクロロフィル蛍光が全く出ていません。ですから、同じふ入りといっても、大きい葉の色の薄い所には、薄いながらもクロロフィルがあり、小さい葉の白い部分にはクロロフィルが全くないことがわかります。

右の写真は、光合成によるクロロフィル蛍光の変動が、どの程度あるかを示したもので、真ん中の写真と、ここには示していない蛍光が弱いときの写真から合成して作成したものです。結果として得られる写真はおおざっぱに言って光合成の収率を示し、色は、真ん中の写真と同じように、収率が高い点で赤、低い点は青で表示されます。小さい方の葉っぱでは、葉の色が白い周囲の部分は真っ黒に示されていますから、クロロフィルがない部分では光合成が行われていないことがわかります。一方、大きな葉っぱの色の薄い部分では、少ないながらも、光合成がきちんと行われています。この写真では、色の薄い部分に比べて、濃い緑色の部分では、光合成が盛んなように見えます。しかし、詳細はここでは示しませんが、これは、真ん中の写真で、蛍光の強度が飽和していた影響を受けているためで、実際には、光合成の効率の差はそれほど大きくないと思われます。

ふ入りの葉の光合成

アボガドの場合

次にアボガドの実の場合です。写真のならびは、上のふ入りの葉の場合と同様です。見た目を示す左の写真で、切り口の周辺部が緑色になっており、クロロフィルがあるのではないかと予測できます。

クロロフィルの量を示す、真ん中の写真を見ると、切り口の周辺部にクロロフィルがあることがわかります。また、見た目にはあまり緑には見えない実の表面にも、量はさほどではありませんがクロロフィルが存在することがわかります。

一方、光合成を示す、右の写真を見ると、クロロフィルのあった切り口では光合成の能力は低く、むしろ、実の表面の方が高いことがわかります。通常光が当たらないところでは、クロロフィルが存在していても光合成の能力が低いという現象は、ピーマンの光合成の公開実験の枝豆の実の測定でも同じでしたので、どうも普遍性があるようです。

なお、ここで使ったアボガドは、ほぼ完熟状態のものでしたので、もう少し若い実を使えば、実の表面のクロロフィル量はもう少し多かっただろうと思います。真ん中と右の写真で、実の表面がちぎれ雲のようになっているのは、蛍光が一定以上弱くなると写真には写らなくなるためです。

アボガドの実の光合成

キウイの場合

最後に、キウイの実の場合です。基本的にはアボガドと同じ傾向が認められました。切り口は見た目に緑色に見え、実際に真ん中の写真を見るとクロロフィルが多く含まれていることがわかります。一方で、表面も、茶色の毛の下が見た目にも若干緑がかっており、真ん中の写真からもクロロフィルを含んでいることが確かめられます。一番右の写真で、光合成の能力を見ると、切り口でも表面でも同程度であることがわかります。この場合は、表面での光合成能力に対して、切り口でもある程度の光合成能力を保持していることがわかりますが、この理由はよくわかりません。

キウイの実の光合成

最後に

このようにして、蛍光CCDカメラを使うと、光合成の空間分布を極めて簡単に測定することができます。光合成能力を数値できちんと測定する目的には適しませんが、見た目で直感的に理解できるのが利点です。

私たちの研究室では、数多くの植物の芽生えから、光合成に異常のある変異株を単離してくる作業を行っていますが、その作業には、このカメラが大活躍しています。