先端生命科学入門 第3回講義
クローン動物作成の原理とその応用
Q:クローンとは、元の個体に完全に一致する「コピー」と一般には思われているが、実際にはそんなことはない。発生環境や、ミトコンドリアのように借り腹の母親由来の細胞質遺伝をする物質により、クローンは元の遺伝的親個体とは異なる性質をもつ。細胞の核内のDNAにはテロメアという部位がある。これは細胞の成長に伴い短くなり、最終的には細胞をアポトーシスさせる。細胞の寿命を決定しているのである。体細胞クローンとして誕生した動物は、ある程度成長した個体由来のDNAを持つため、テロメアは誕生時点で正常個体よりも短く、したがって寿命も短くなるはずである。が、実際にはヒツジ以外の動物クローンではテロメアは短くなっておらず、マウスでは長くなるという結果が得られている。個人的にはこの話が最も印象に残りました。 哺乳動物という狭い範囲内でこの違いがでるのはなぜか、調べてみたいと思いました。
Q:クローン動物が長く生きられないのはテロメアによる所が大きいのだと思っていた私にとって、今回のゼミは非常に有意義なものとなった。テロメアはクローンの代を重ねていくごとに短くなっていくのが当然だと思っていたので、マウスや牛においてテロメアの延長が起こるというのは非常に奇妙に思えた。元となる卵細胞内に活性を持つテロメラーゼが残っていたのだろうか?・・・また、サルの卵細胞内でのタンパク質の局在化の話が脱アセチル化によるマーカーの初期化の話の根拠とならないかなぁ、などとも思った。マーカーとなっていたタンパク質が初期化されたことにより染色体付近に局在していると言う考えはどうかなぁ・・・と。なんだかクローンの成功率が低いのは、元となる卵細胞の中のタンパク質を残したまま染色体を抜き出す技術が確立していないためのような気がしてしまったのは・・・短絡的な考えなんですかねぇ・・・。
Q:無性生殖も一卵性双生児も平たく言えばクローンである。倫理的な問題や技術的な問題を除けばクローン技術はそれ程特別なものでないように思えてくる。しかし世間では誤った認識によりクローン技術が恐れられているのも事実である。その点でも新たな倫理感を確立することが我々には求められているのではないか。
また、クローン技術はまだ不完全なものであるが、遺伝子の初期化の機構が明らかになれば完全に実用化する道も開ける。将来的には私もそこに何らかの形で係われたらと思う。
Q:最先端ではずいぶんとクローンや体外受精のような発生過程を操作する技術が発展しているということを認識した。もう生命倫理の問題には矛盾が多すぎる。精子バンクを許してクローンを許さない、先天性障害児の堕体が許され受精卵を医学に利用するのを許されないというのはもう単にインパクトと経費の大小が問題なのだろう。人間の生命に特別な価値を与えている現在の価値観はもうすぐ通用しなくなるように思える。我々はいったいいつまであからさまな矛盾を感じずに殺人を否定していられるだろう?核の情報の初期化の研究も興味深かったが、完璧な初期状態の細胞をいくらでも造れるようになるというのは魅力的ながらも末恐ろしい印象を受けた。
Q:全能性という言葉について非常に考えさせられた講義だった。生殖細胞は全能性を持ち、他の細胞とは異質な細胞であると考えていたので、生殖細胞は分化した細胞という意味では他の体細胞と同等である、という考え方は興味深かった。そして分化した体細胞の遺伝子はその細胞で働くものを除いて、働きを失うと思っていたので、分化した体細胞の核を除核した未受精卵に移植すると初期化され全能性を持つ、という話は驚きだった。では何故、動物細胞は植物細胞のように脱分化によりカルスをつくることができないのだろうか?もし自身の体細胞からカルスをつくり、それをさまざまな器官を形成する細胞に分化させることができれば、拒否反応の起こらない移植などさまざまなかたちで利用ができると思う。
Q:クローンは、親と全く同一の遺伝子を持つ点で通常の有性生殖と異なる。クローンは、未受精卵本来の核を紫外線照射などで除核した後、クローンを作りたい個体の体細胞核を移植し、電気刺激を加え発生を再開させて得る。(猿、人間は染色体の分離が進まずまだ成功していない)1度分化した体細胞核からこの操作で再び全個体を作れるのは、「分化した配偶子が受精後全能性を有する接合子になる過程で、遺伝子発現の初期化が起こっているため」だ。他人との発現遺伝子の差はゲノムの違いによるが、1個体の組織別の遺伝子発現の違いは、1DNAのメチル化、2クロマチン構造が緩み転写起こる+クロマチンによるpositioning、による。体細胞分裂では分裂期に転写因子が全て外れても、cell memoryが1,2を再現して再び親細胞と同一の遺伝子が発現する。が、減数分裂では、cell memoryが1度全て消える(アセチル化ヒストンはマーカー候補)。インプリンティングなどを克服すれば、さらなるクローン技術の発展も可能だ。
Q:クローン技術を用いると、テロメアが短くなった個体のみが生まれるとばかり思っていたが、実は、今のところ実際にテロメアが短い個体が生まれたのは羊に関してのみである、と聞いて驚きだった。今のところ、クローンが短命なのは、テロメア云々ではなくクローン技術が未熟であるだけだと聞いて、将来に期待してみようと思う。クローン技術を実際に研究することの倫理面についてだが、僕は、そもそも科学/技術の進展を、政治的に制限するということにはそもそも反対である。特定の科学(クローン技術)を研究することによる具体的利点(再生医療/不妊治療など)が阻害されるのみでなく、その分野の科学が深められていないことによって、将来、他の研究に悪影響を与えることになるかもしれないからである。どのような分野(物理とか化学とか?)に影響が及ぶかは現在では不明なわけだから、科学の進展という観点からすると、たった一つの分野でも禁止すべきではないと思うのである。道徳的に考えなければならないのは、まさに完成されたクローン技術を用いるか用いないか、どのように用いていくか、という点であろう。そのような運用面に対して法規制をすれば十分であり、研究などのような科学の分野に関しては法規制を設けてほしくないと強く思うのです。