植物生化学 第12回講義
地球の歴史と生命の進化
今回の講義では、光合成が地球環境の変遷に与えた影響と生物の進化との関係、そして今後の環境問題について触れました。今回の講義に寄せられた意見とそれに対するコメントを以下に示します。
Q:今回の講義の後半では環境問題にも少し触れつつ「地球に優しい」という表現についての疑問が提示されました。最近しばしば耳にする「エコ」という言葉は、もとは生態学全般、自然と人為的環境(人を含む、人の営みによってできた環境)との共存について考える学問のことでした。環境問題が取り上げられるようになった昨今、メディアによって持て囃され急速に広まった言葉で、現在は自然との共存について考え・気づき・行動することを指して使われるようになりました。しかし、我々が考えているあるべき地球、豊かな環境というのは、結局のところ我々が住みやすい地球を意味していることに他ならないということは注意しておくべきでしょう。さて、ここで「エコな生活」という売り出し文句で世に出ているライフスタイルは、本当の意味で地球のためになっているのかどうか考えてみたいと思います。例えばペットボトルのリサイクル。リサイクルと言っても新たな製品の原材料として役に立つ量はかなり少なく(数年前では一桁台でした)、新しく材料を補充する必要があるし、リサイクルしている工場自体はリサイクルできない。同様に太陽電池も、半永久的に使用できるということにはなっていますが、実際には壊れてしまう例も意外と多く、また家を建て替えたり移り住むときに太陽電池もそのまま移動するのは困難で、行き着くところは廃材置き場というのでは「エコ」とは言えないのではないでしょうか。また東京電力が推し進めるオール電化についても、従来使用されてきたガスに比べてエネルギー効率が悪く、我々の抱いているイメージほどCO2の排出量が減らせるかどうかについては明言を避けているようです。私達の住む環境を、長いスパンでより住みやすいものに変えて行きたいと思うのなら、マスメディアが誇張した情報の氾濫に巻き込まれず冷静に判断し、新たな何かによって清浄しようとするよりも今あるもの・身近にすぐできることがないか考えてみるべきだと思います。
A:環境問題のように、一種の社会現象になってしまった話題は、客観的な事実とは離れて一人歩きしやすいものです。二酸化炭素の濃度が地球温暖化の直接の原因かどうかについても、研究者や一般の人の間で多くの議論がなされてきました。しかし、ある意味で、直接の原因が何か、などということは些細な問題で、現実に、人間の活動が地球環境を左右する規模になってしまったという事実こそが大事なのではないかと思います。その意味で、たとえ、二酸化炭素が地球温暖化の直接的な原因でなかったとしても、二酸化炭素排出量を人間活動の大きさの指標として考えれば、それを抑えることは極めて重要でしょう。
Q:森が二酸化炭素を吸収するのか否かという話題は、他の授業でも出てきたことがあった。大気中の二酸化炭素が増えているから温暖化しているのか、温暖化しているから二酸化炭素が増えているのかはわからないが、とにかく今世界中で二酸化炭素排出量を減らそうという動きが高まってきている。そんな中で、森林による二酸化炭素の吸収は植物に関わっている人間としても期待していたのだが、現在のように森林を伐採・減少させ続けるのは論外ながら、森林があったからといって極相林ではほとんど効果がないと知り、納得しつつも残念に思ったものだ。しかし、太古の昔には生物によって固定された有機物が酸素の届かない海底などに沈み、分解されないまま現在まで残って、それが化石燃料になったという。それならば、大気中の二酸化炭素を減らしたいなら、炭素固定の効率がよい樹種を選んで、これまでの人間活動のために森林がなくなってしまった場所に植林し、成長しきったと思われるところで伐採して海底に沈めてしまい、また植林をするということの繰り返しをすればよいのではないだろうか?そう考えたのだが、そのまま繰り返していれば、炭素循環のサイクルを途中で止めてしまっているのだから、土壌の有機物が不足して植物が育たなくなってしまうかもしれない。植林をした場所や、伐採した樹木を沈めた海底の生態系にも、どのような影響が出るかわからない。また、樹木を伐採したり運んだりという作業に、化石燃料を使用してしまっては元も子もないだろう。このままでは短絡的な考えと言われても仕方がないが、それでも、この考え方に全く可能性がないとは思われない。
A:「土壌の有機物が不足して」というのは「土壌の栄養塩が不足して」ですね。植物にとって、有機物自体は、二酸化炭素から光合成を使うことによって作ることができますので、問題なのは、窒素などの栄養塩です。それはともかくとして、二酸化炭素濃度を低下させようと思ったら、ある程度長期的な「固定」の方法を考えなくてはなりません。セルロースとしての固定の他には、炭酸カルシウムとしての固定が考えられます。貝殻などですね。ただ、安定に見える貝殻も、ある程度の長期的なスパンで考えるとそれほど安定ではありませんし、炭酸カルシウムを作る際に炭酸イオンを消費しても、その際に二酸化炭素はむしろ放出される場合があるなど、一筋縄ではいきません。やはり、つけたらすぐによくなる万能薬というのはありそうにもありません。
Q:シロウリガイは海底にまばらに存在するのではなく,密集して存在する.なぜこのような分布をするかについて考察する.シロウリガイは硫化水素ガスを利用して化学合成するので,硫化水素の濃度だけを考えるなら,まばらに存在しても良さそうである.深海底の生物を考えると,空いているニッチは多そうなので,生息範囲を広げることは陸上よりは簡単であると思う.次に,生殖様式により生息範囲が限定している可能性について考える.シロウリガイは放精・放卵により生殖するので,必ずしも個体同士が近接する必要はなさそうである.もしかすると,一つの集団はすべて同じ世代の個体で構成され,温度変化に対し集団内の個体が一斉に放精・放卵した結果生じた受精卵が,深海底の潮流にのって同じ場所に流されることで,新たな集団を構成するのかもしれない.
A:深海底でも、硫化水素は主に地中からの放出によって供給されます。しかも、硫化水素自体は、一種の毒物ですから、それを防御する機構があったとしても(このあたりは「熱水生物群集の成り立ち」をご覧下さい)、一定の濃度範囲に入っていないと、シロウリガイとしても生きていけないと思います。とすると、硫化水素がある一定の濃度範囲に入る場所に生育しようと思うと、それだけで密集せざるを得ない、ということはありませんかねえ。
Q:今回の講義ではヒトのバイオマスが動物のバイオマスの約2割を占めることが説明されていた。また人が栽培する作物の生産量は陸上植物の生産量の約1割であることも説明されていた。今回はこのことについて考えてみたい。世界の人口は十数万年前に現生人類が誕生した時には1億人に満たなかったが2006年には67億人に達し、2050年には92億人に達すると予測されている。ここで、かなり大雑把であるが過去十数万年の間に動物のバイオマスの変化がなかったと仮定すると、ヒトのバイオマスが動物のバイオマスに占める割合は人類が誕生した頃には0.3%程度、現在は約2割、2050年には3割近くに達することになる。もしも動物のバイオマスが将来にわたって変化しないとするならば人口が増加したその分だけ他の動物のバイオマスが削られることになる。動物の生息環境を破壊するとか気候が変化するとかいう以前に地球上に存在できる動物の絶対数が減ることになる。また人口が増加すれば当然栽培する作物の生産量は増やさざるを得ない。どのようにして生産量を増やすかといえば主に耕地の拡大ということにな(一部文字化け)いて耕地を作ればそこにもともといた生物の多くは生きていけなくなるだろう。また、耕地の生産はほぼすべてが人類専用となるので他の生物に回る生産量は減少する。生産量が減少すれば他の生物のバイオマスも減少すると考えられる。このように考えていくと人口が増加するという事自体が地球環境に対して大きなインパクトを持っているように思われる。実際にこのような影響が出ているのかは研究が必要だろう。上記の仮定が本当に正しいのかも検証する必要があると思う。たとえば、現在のように過去の生物の遺体である化石燃料から放出された二酸化炭素が植物に取り込まれて最終的にバイオマスの増加を引き起こすことも考えられる。
A:せっかくのレポートなので、「実際にこのような影響が出ているのかは研究が必要だろう。」と評論家風にまとめないで、具体的にどのような影響が考えられるのかを考察できるといいですね。例えば、自然植生と農地を比較した場合には、様々な差が考えられると思います。生物の多様性などは、その代表的な例でしょう。では、多様性が失われることが、具体的にどのような影響をもたらすのか、という点まで考えられるといいですね。
Q:化石燃料が本当に全くなくなったときに、人間がエネルギーとして利用できるのは、風力、水力、地熱、光といった再生可能エネルギーのみである。従って、化石燃料が本当に枯渇する前に、これらの再生可能エネルギーから化石燃料で現在得られているエネルギーの八~九割は得られる方法を開発する必要があるだろう。では、この再生可能エネルギーの中で、どれからエネルギーを抽出したらよいだろうか。自分は、やはり光からエネルギーを取り出すのが最もよいと思う。その理由として、エネルギーの総量が多いこと(効率よく取り出せるかは別だが)、そしてなにより身近に植物という光エネルギー固定の見本がいるからである。それでは人工光合成の研究はどの程度すすんでいるのだろうか。調べてみたところ、どうやら人工光合成の研究は始まったばかりであり、あまり進んでいないようである。しかし、太陽光発電の研究は進歩を遂げており、エネルギーの変換効率も上昇しているようである。化石燃料を産出する国には、国土が砂漠で、他に産業を持たないところも多いため、化石燃料の埋蔵量が危機に達したら国土を目一杯使っての太陽光発電をするのではないかと思う。
A:確か、第1回目の講義で紹介したと思うのですが、太陽のエネルギーは量が膨大な一方で、「密度」が薄いのが玉に瑕です。その意味では、電気というのは貯めておきづらい、というのも同様に問題になるかもしれません。ただ、このあたりは、今後工夫されていくでしょう。あと、実用化にはほど遠いですが、太陽光エネルギーによる水素発生が研究されています。