植物生理学 第7回講義
植物の低温感受性
第7回は、植物生理学の実験が、実際にどのような過程で計画され、行なわれているかの研究例を、植物の低温感受性の研究を例にとって説明しました。ちょっと説明が難しかったようです。申し訳ありません。
Q:今回は低温ストレスによって起こる光合成阻害を通して研究の流れを学んだ訳ですが、このようにある実験を行ってその結果から考察を行い、次の実験を行う・・・という作業がどうして一つの物語のように筋道立てて進むのか半分不思議な思いで講義を聞いていました。また今まで考えてきた理論を覆すような結果が出たとき、更に実験を行って新しい発見を得る、といったところに研究の醍醐味があるように感じられました。今回の講義を聞いて疑問に感じたのは実験データの処理についてです。点の集合でしかない結果からグラフを導き出すということに違和感を感じました。確かに生物には個体差があるので決してどの固体からも同じ結果は出ないというのは経験的に分かるのですが、データの解釈に研究者の意図が含まれているように感じられました。グラフの解釈も然りです。なんとなくグラフが上昇しているから、なんとなく減っているから、今まで考えてきた理論に当てはまる、というのはいささか釈然としません。これは経験によるものでしょうか。
A:実際の研究をするにあたって重要なポイントですね。実際に、自分のデータを学術誌に投稿する時には、ほとんどの場合、統計処理を要求されます。つまり、あるデータから、あるものが増えた、と言いたい時には、それが必ず統計的に有意であることを示さなくてはなりません。そのためには、同じ実験を何度も繰り返す必要がありますから、実際の実験は見かけより案外大変であることが多いのです。
Q:今まで研究の細かな部分まで見たことがなかったので、具体的な研究の進行の流れは参考になりました。今回の講義を聞いていて思ったのですが、研究の材料というか取っ掛かりがかなり突飛な所から出てくるなと感じました。例えば、阻害の程度と酸素のあるなしの関係というのはどのようにわかったのかと思いました。研究者は「自分の研究にきっと役立つ」とピンときて調べるのか、それともいろいろ調べていたら偶然わかったという事が多いのかどちらでしょうか。発見や発明ではよく偶然という言葉を聞きますが、やはり運のいい人は研究者向きでしょうか。また、今回の講義を聞いている限りでは材料集めが研究者の主な仕事のように感じたのですが、どうなのでしょうか。講義の内容と直接関係なくてすいません。
A:これも、実際の実験をするにあたって重要なポイントです。酸素の実験などは、前提となる知識「生物が阻害を受けるパターンはいくつかあって、その中で活性酸素によるものは重要な位置を占める」があると、それでは、ここでそのケースが当てはまるかどうか試してみよう、と考えてやったものです。ただし、頭の中で考えて、こうなるだろうな、と思ってその通りになった実験結果は、あまり驚きがないように思います。むしろ、大発見につながるのは、実験を始める前は思いもかけなかった結果が得られた時です。これは、確かに偶然ではあるのですが、研究者にとって重要なのは、思いもかけない結果の影に発見が隠れているかどうかを見抜く能力です。単なる失敗も、思いもかけない結果を生みますから・・・
材料集めって、どの部分のことかな?
Q:今回の講義で、生体内で起こっていることを調べる際にはIn vitoroの実験も必要であることを学んだ。例えば、きゅうりと低温耐性のほうれん草でどのようなときに光化学系Iが阻害されるかの実験の際、In vivoだけの実験結果だけでは低温耐性のほうれん草の光化学系Iは進化して、低温になっても失活しないものになったと推測できてしまうのでは、と考えた。しかしIn vitoroの実験結果があると、両者の光化学系Iに違いはないという正しい方向に進める。また、正しい結果にたどり着くまでにはしっかりとした条件を立てなければいけないことを学んだ。結果として系Iの光阻害のメカニズムは、酸素が還元されてスーパーオキシドが生じ、それが過酸化水素となり系Iの活性が低下するということが得られたが、光阻害に必要な条件をたてる過程で阻害に酸素が必要だ、ということがわかっていなかったらたどり着かなかった結論だと思う。また、低温ストレスによる光合成の低下の原因として、酵素の反応によっておこる温度依存性の高いところに注目してしまうが、物理的反応で温度依存性の低い光化学系でも阻害が起こっていたことから、実験はあらゆる方向から考えなければいけないことを学んだ。
A:そうですね。実際の研究は、一種のジグソーパズルのようなもので、いろいろなピースを集めて最後にきれいな絵を描くわけです。
ところで、八百屋さんでは「きゅうり」「ほうれん草」ですが、生物学の世界では「キュウリ」「ホウレンソウ」ですので。
Q:今回の講義で植物に対する低温ストレスの研究例を聞いて、実際の研究の過程や組み立て方を知ることができました。特にin vivoとin vitroでの考え方の違いが参考になりました。確かに、植物は本来室外のさまざまな環境因子の影響を受けながら生育していくものなので、そのような因子がない中での実験結果がそのまま野生のものにも当てはまるとは考えづらいです。また、実験データの考察の仕方が、対象物によって変わることの難しさを知りました。例えば、系Iの阻害が可逆か不可逆か判断するところで、実験結果を見ると回復はしているが時間的に遅くなっていました。私は回復しているのだから、可逆だと言ってもよいのではないかと考えましたが、これを先生は葉の寿命から見ると、不可逆だといえるとおっしゃっていました。とても納得することができたのですが、同時に、そのような判断をできるようにならなくてはいけないのだと感じました。最後に、研究はそのかけた時間ではないとは思いますが、今回のこれだけの考察に結びつくまでに、どれくらいかかるものなのでしょうか。
A:可逆・不可逆というと、活性が戻るかどうかだけに目がいきがちですが、葉が枯れる頃になって回復してもしょうがいないわけですよね。生物の研究においては、常に現実の生物にとって意味があるかどうかを考える習慣をつけておくことが大切です。特に遺伝子やタンパク質だけを相手に研究をしていると、つい個体にとっての意味を忘れてしまうことはよくあります。
今回紹介した研究は、1993年から初めて2002年に最後の論文が出ています。ですからちょうど10年ですね。ただし、今回の紹介は、そのダイジェスト版で、実際にはその間に10本ぐらいの研究論文を発表しています。つまり、まあ、1年がむしゃらに実験をすれば1本の論文になるぐらいの計算でしょうか。
Q:正直今回の講義は今までで一番理解がうまくできなかったのではないかと思う。光阻害やストレスによって系Iの阻害が生じているということだったが、分子レベルでは何をしているのだろうか?適応するための光阻害は低温ストレスに対して何のために起きているのかもよく理解できなかった。今年は暖冬なのか十二月に入ったというのにまだ霜も見ていないが、去年長万部では良く見られた。明け方植物に霜がついていても、日中になり、光量と気温が上昇するころには、植物はハリを取り戻している。阻害は不可逆性であるが、これは氷点下での低温耐性植物は、細胞内圧(膨圧、浸透圧の調節)を変化させているから可能なのだと思われる。また、そうだとすれば液胞内の水含有量も変わっているのではないだろうか。そういうことと、分子レベルのつながりはあるのだろうか。もしあるとすれば調べてみたい。今回は本当に理解が足りなかった。もう少し理解を深めつつ今後の講義を聞きたいと思う。
A:おそらく、今回の講義がわかりづらかった理由は、2つあって、1つは、今まで得られた結果だけを紹介していたのに対して、今回は、その基のデータの解釈から紹介した点、もう1つは、得られた結果がまだ分子レベルでの説明に結びついていない点です。分子レベルの解析をするためには、形質転換などができないキュウリでの研究では限りがあるので、その後シロイヌナズナを研究材料にして植物の低温感受性の研究を続けたのですが、なかなかはかばかしい結果が出ませんでした。
Q:今回の講義では低温ストレスというごく身近な環境要因に対する植物の生理作用を学んだが、これに関して今まで自分で疑問がわかなかったことが不思議であった。植物は移動能力がなく、生存と子孫繁栄のためには環境適応は必須であるはずだ。しかし、私は目先の光合成や逆に植物に有利であるような環境の中における植物の生理活性しか見ていなかった。そしていくつかの悪影響のある物質の除去反応ぐらいしか気にとめていなかった。だから植物は移動能力がないから動物のように恒常性があるのではなくその場の環境に応じて細胞内の環境も変えるという考え方は私にとって青天の霹靂であった。また低温ストレスの影響により植物に起きる阻害や保護機構等の研究データの採取から結論に至までも私では到底考え付かないだろうと思った。しかし、低温ストレスを考える際に畑という場所に絞り、さらに条件を考えていくのはとても受け入れやすくまた考えやすいと思った。私的には最初の条件を見いだすのは難しいと思う。だからこそこういう身近であり分かりやすい条件から研究を進めていくのも道筋が分かりやすいと感じた。そこから植物の生理作用と照らし合わせていくとまた新たな条件やデータも手に入ることも今回わかった。
A:動物の恒常性と、植物の環境適応戦略というのは、本当に対称的です。時々思うのですが、それ以外の第3の戦略というのはあり得ないのでしょうかねえ?
Q:今回はストレスに対してどの系が阻害されるのかということをやりました。今日はそのストレスに強い植物について書きたいとおもいます。ストレスに強い植物は色々ありますが、僕らの身近なところでは雑草があげられます。よく雑草は踏んでも踏んでも決して枯れないと言われます。これはストレスに対して強いということではないのですが、それだけではなく雑草はどんな土地でも生えているイメージがあります。これは衝撃に対して強いというだけではなく、外的なストレスに対して強いということも言えるのではないでしょうか。例えば今回の授業でやった低温ストレス。雑草は霜が降りるような寒い中でも枯れることなく生えています。雑草以外にも砂漠という昼は照りつけるように暑く、夜は震えるくらい寒い環境でも生育できるサボテンは冷的にも熱的にも強い植物ということができるのではないのでしょうか。
A:昔、「雑草という草はない」とおっしゃった方がおられましたが、本当ですよ。実際にはよく観察してみると、いわゆる雑草といわれる草も、種によってさまざまな適応戦略をとっていることがわかります。関東では、シロザとオオバコなどは身近実見られる草の代表例ですが、全く違う戦略で生き延びています。観察は生物学の出発点ですから、まずはよく見てみてください。
Q:今回の授業では植物の低温ストレスを考えることを通して、実際にどのようにして調べていき考えを広げていくのか、とても参考になった。実際に観測してみると色々な予想外の結果が生じ、さらにそこから更なる発想が生まれていく面白さと自分の発想力や分析力が試されると実感した。
低温ストレスによる特徴に目で見える阻害は、低温状態より元の温度に戻したあとの方が顕著になるということだが、この阻害は低温状態のままにした状態とではどちらが顕著に目に見えるのだろうか。私はおそらく戻した方が顕著に阻害がでるのだろうと思う。低温ストレスによる阻害は光化学系Iを保護するような機構が失活するためということでった。保護の機構が失活することで他の生理作用にも損傷を受けているのと考えられる。動物でも極端に環境が変化し弱ると、たとえ改善する方向への変化でもそこにまた環境が変わるようなことがあれば、さらに弱体化するということがある。よって植物でも、ダメージを受けた状態でまたの変化があれば、そのままの低温状態に置くより阻害の影響が早く現れるのではと考えた。
A:よく考えましたね。ズバリ、推測の通りです。5時間低温に置いて、その後24時間室温に戻した場合と、29(=5+24)時間低温に置いた場合で、葉の見かけを比べると、29時間低温にさらされ続けた方が正常に見えます。確かに可視障害は室温に置いた時にはっきり現れるのです。ただし、光合成活性自体は、29時間低温処理をした方が大きく阻害されます。
Q:今回の講義で、chllingは約10度以下で生じるとの事でしたが、その理由はわかっているのでしょうか? 低温条件により系Iのタンパク質サブユニットが分解する事で低温ストレスが起こるということでしたが、低温だという理由だけでタンパク質は分解するものなのか、というのが今回の講義での疑問です。系Iを阻害する機構が低温では失活するため、低温化では系Iが活性酸素を生成しないために、系Iのタンパク質サブユニットが分解される、という解釈でよろしいのですか? それにしても、系Iを阻害する機構も酵素が関与していると思うのですが、それが低温で失活(壊れる?)というのはやはり少し納得がいきません。凍結して酵素タンパク質が壊れ失活するのならば納得いく気もするのですが、低温で活性は下がり機能が果たせないほどになるとは。実際の研究のお話ということで、とても興味深かったです。
A:鋭い疑問です。確かに、低温で活性が落ちるといっても10度でがたっと落ちる温度依存性は説明しづらいものがあります。現時点においてありそうなのは、脂質の相転移です。生物の細胞膜・チラコイド膜などは脂質二重層からなりますが、脂質の膜は、ある温度を境にその物理的な状態ががらっと変わることが知られています。おそらくは、10度付近でそのような脂質の状態変化が起こって、それが膜中に存在するタンパク質の活性などに影響を与えるのではないかと考えています。
Q:今回の講義では低温ストレスの光合成阻害というテーマで話が進んだが、研究の内容はとても難しく余り理解できていないように感じた。ただ植物生理学における疑問や問題設定の仕方だとか研究の進め方がどのようなものなのか、ということを学ぶことが出来た。私は今まで研究というものをどのように進めていくか今一つ分からなかったので、その点ではとてもためになった。しかし一方で、研究活動は考察して予測したものと同じ結果になったり新しい発見に出会えたりすれば楽しいものかもしれないが、そういった結果を得るにはとてつもなく大変なのだろうなあとも思った。
A:研究者というのは、そのようなプロセスを楽しめる人がなっているのでしょう。確かにかなり大変な仕事なので、面白くなければやっていられない、という面があると思います。
Q:今回の講義では研究の具体的な進め方が聞けて興味深かったし、とてもためになりました。過去の論文を調べることや in vivo と in vitro 両方での実験での結果を比較し考察することはとても重要なことだということもわかりました。植物の低温ストレスについても系Iの阻害は非可逆的であり植物にとっては致命的なものなのだと思います。ところで前回の講義で習ったザゼンソウのような発熱植物はこのような低温ストレスとは無縁なのでしょうか?もしそうならこの発熱機構を他の植物にも組み込むことが出来れば農作物などの冷害もなくなり植物も低温ストレスの恐怖に脅かされることもないのでしょう。
A:研究はされていますが、発熱制御の細胞内のメカニズムなどはまだ不明の点が多いようです。また、ザゼンソウが発熱するのは、あくまで花の一部なので、植物体の他の部分は温度が低いままです。発熱によって低温ストレスを避けるには、植物体全体を全体を温める必要がありますが、それにはあまりにもコストがかかって難しいのではないでしょうか。
Q:今回の講義では実際の研究例を通して、光化学系Iの光阻害を立証するための道筋、ひとつの結果を得てから次のステップに進むための思考の流れなどを知ることができ、とても関心させられまた。紹介された過去の論文の中で低温ストレス下での光阻害を受けている阻害部位の候補の中には光化学系Iはなく系IIのみが挙がっているし、光阻害について調べていく中でも本来光阻害を受けるのは光化学系IIだと当然のように捉えられていることを強く実感しました。そんな状況の中で低温ストレス下での光阻害に光化学系Iが関与していることを発見することができたのは、過去の概念にとらわれずあらゆるものをしらみつぶしに調べていった結果なのか、もしくは別の研究での実験データからその事実を考察することができたのか、どちらにせよ研究にはとてつもない忍耐力、さらには実験データの解析などの緻密な作業が必要不可欠なのだと感じました。 また、光化学系はIIからIへの電子伝達系であるから、本来光化学系Iが壊れて光阻害を起こさない理由は光化学系IIが先に壊れてくれているためではないかと思いました。
A:最後の点はまさにその通りだと思います。確かに、系Iが阻害されるのは、系IIから電子が流れてくる時だけです。ですから、系IIが先に阻害されれば系Iは阻害されず、しかも系IIの阻害は可逆的なので、回復できます。ある意味で、系IIはヒューズのような役割を果たしていて、わざと壊れやすい(しかも取り替えやすい)部分を作っておくことによって、全体が破壊されることを防いでいる、と考えることもできます。
Q:今回の講義は、いつもと違い実際の研究と考察に即したものでした。研究の内容を立証するためにいろいろな推論、実証を繰り返すという過程とその大変さが伝わってきました。結果に関する考察を繰り返すことが研究の軸のようです。植物は低温、弱光下で系Iがこわれ、阻害が生じる。うちは元々農家なのでよく祖母が「シミる」といって野菜を心配しますがこれのことなのでしょうか。系Iの反応は不可逆的なもののようですが、何故系Iに限って不可逆なのでしょう。耐低温性の野菜の野菜があるということは、系Iはその環境に適した強さを維持していると考えられますが、それでは環境適応に対して弱い感じがします。不可逆な系Iに対し、系IIは可逆的です。系の進化の仕方はよくわかりませんが系IIは系Iの不可逆な点を補うために発達したのかなとも思いました。今後、研究を経験することになると思いますがそういった点でも今回の講義は内容の濃い授業だったと思います。
A:「しみる」というのは語感からすると「凍みる」のような気がしますから、凍結ストレスの方かも知れませんね。系IIについては、その通りで上のコメントでもいいましたがヒューズの役割をしているのでしょう。
Q:今回の講義は、研究の進められ方や研究結果のデータ解析の流れがスムーズで、不思議に思う点が出てくると、それを解明するにはどのような実験をすべきかなどが的確で、わかりやすくて面白かったです。常識だと思われていたことも覆されるのだから、研究を進めていくうちに、今納得してる事実も実は違うってこともあるんですよね。講義を聴いた時は納得できたつもりでも、後で考えるとわからなくなってしまったことがありました。最初に、植物の温度って細胞内の水分の温度ですか。あと5ページの5枚目のスライドでは、実際に系Iは時間がかかっているけど回復してます。実験で低温処理した後、もとの生育条件に戻すと積極的にクロロフィルを分解するのは修復の一歩とは考えられないのですか。それと2種類の光の強さで実験してますけど、その違いで何がわかるんですか。回復の速度は同じような気がするんですけど。in vitroの実験で、阻害の要因も保護にもいろいろな可能性が考えられているので、面白い結果がわかるのが楽しみです。
A:細胞の温度というと普通その中の水の温度になるでしょう。水は比熱が高いので、温度変化が他の物質に比べて小さいですから。系Iがある程度回復することは確かですが、クロロフィルの量を見るとほとんど回復していませんよね。分解したものを再び合成している、という感じはあまりしませんね。これに関してはもっと実験が必要です。