生命生存応答学 第2回講義

光合成研究について

第1回の講義では、一種のイントロとしてゲノム研究の話をし、第2回の講義では光合成研究の重要性と今後の展望についてお話ししました。


Q:“植物にとって光は生命線”のスライドの写真にあるようにそれぞれの個体同士の枝や葉が重ならずに広がる様子を見るといかに植物にとって光が重要な因子なのかが分かる。1本の木において枝はそれぞれが重ならないようにずれて配置されどの枝の葉も光を受容できるようになっているが、それは1個体内における情報のやりとりでありホルモンなどの物質の流れを読み取り枝を傾けたり動かすことはある程度可能なのだろうと想像できる。しかし植物は個体同士においても写真のようにお互いの枝がそれぞれが重ならないように配置していたり、個体群内でも内部は周辺部の個体に比べて背丈を高くするなどして効率よく光合成を行っている。個体同士、つまりつながっていないもの同士が重なることもなくうまく配置しそれぞれ光合成をおこなっているのはどのような手段によるものなのだろうか。知られている反応として避陰反応がある。太陽からの光は可視光領域の光をほぼ等分に含むが、植物の葉や茎の組織を透過した光やそこで散乱された光では遠赤色光成分に対する赤色光成分の量が減少する。このような条件下ではフィトクロムの光平衡状態がPr型に傾く。これが原因となり植物は茎の伸長をさせ、他の植物が作る陰から逃れようとする。このような応答により植物は光をより多く受容しているのだそうだが、植物にとって光は重要な因子であるからそれ以外にもたくさんの応答経路を持っていそうである。ウイルスなどが植物に感染したときに生理活性物質を放出するように植物同士でも接触刺激によって何か物質を放出しコミュニケーションをとっていたりするかもしれない。もしくは最初からここに生えている、というような信号が出ていて、それを受容する能力があるかもしれない。また異種植物間同士、同種植物間同士かによってもコミュニケーションが違っているのかもしれない。

A:最近では、青色光の受容体であるフォトトロピンの機能がだいぶわかってきました。気孔の開閉や、光屈性など様々な植物の機能がやはり光をセンスして制御されているようです。フィトクロームの赤、フォトトロピンの青の両方とも、クロロフィルが大きな吸収を持つ部分です。これも、植物にとっての光の重要性を示しているのだと思います。


Q:光合成を行う植物において、葉緑体の起源と進化は興味深い問題である。葉緑体の一時的な起源は光合成細菌シアノバクテリアが真核細胞に共生したものと言われているが、その後この葉緑体を失ったものや、葉緑体ごと他の真核生物に共生した二時共生の葉緑体となったものがあり、「植物」や「藻類」の系統は非常に複雑になりうる。マラリア原虫や「はてな」の存在はこの複雑な進化の過程を表していると言える。また、渦鞭毛藻類においては共生の形態はさらに多様で、一般的な二重膜の葉緑体を持つもの、二次共生起源の葉緑体を持つもの、二次共生の共生体がほぼそのまま共生しているもの、他の藻類を補食して一時的に体内に保持するものや細胞外に付着させるもの等の様々な種がある。こうした多様な共生の形態が現存することは、単細胞の生物において光合成装置を持つことのメリットとデメリットが存在し、生息環境の変動による選択圧で様々に進化したことを示していると考える。

A:そうですね。そのように考えた場合、光合成装置を持つことのメリットは明らかで単純ですが、デメリットは考察する価値がありそうです。どのようなデメリットがあり得るかまで考えられるといいですね。


Q:講義で興味を引かれたのは、タコクラゲ等の光合成による「自給自足」で生きる動物がいるということである。光だけでエネルギーが得られるということは、食料不足で困ることがないということで、藻類との共生とは非常に頭の良い方法なのではないかと考える。光によるエネルギー獲得は、環境に悪影響を与えないクリーンエネルギーであり、かつ半永久的に得られるエネルギーということで、近年エネルギー問題解決のために太陽光を利用したエネルギー獲得方法が考えられているが、これと同様に、食料不足問題解決のために人間のエネルギー獲得方法も光合成で、というのはさすがに突飛過ぎるだろうが、このような光合成によるエネルギー獲得システムを動物等に応用できたら面白いだろうなと思う。

A:人工光合成の研究は今でもなされていますが、なかなか難しそうですね。できれば、「面白いだろうな」で終わらずに、突飛でもよいので、具体的な方法を提案してくれるとよいレポートになります。


Q:光合成研究のスケールの幅広さについて、最も細かいものでは原子レベル、最も大きいものでは地球レベルでの議論がなされているということであった。原子レベルではX線結晶解析による反応中心の構造解析、地球レベルでは衛星を用いた海表面の鉄イオン濃度の測定などがあり、研究に用いられる手法はスケールにより千差万別である。 私は以前、イネの全代謝をモデル化し、コンピュータ上で再現するというプロジェクトに携わっていた。具体的にはイネの細胞内で起きている種々の代謝反応を微分方程式で表し、連立させ、代謝物質の濃度の変化量を単位時間ごとに計算して積分していく、というものであった。私はこの内光合成反応のモデル化を担当したが、苦労したのは単位時間の幅であった。一般的な代謝反応に用いられる単位時間は10^-3秒ほどであるが、光合成では10^-7秒ほどの細かさがないと正確な計算結果が得られなかった。このため計算システムの開発を担当していた部署と協力し、新たに異なる単位時間が混在可能な計算システムを開発して、光合成反応のモデルを他の代謝のモデルと統合した。 このように、研究の対象となるスケールにより異なる手法が用いられるが、一方で異なるスケールで得られた情報を統合していくこと重要であろう。

A:生物学では、あまりスケールとかダイナミックレンジとかいう概念が重要になってくることが少ないのですが、光合成の分野は特別かも知れません。しかし、最近は、バイオインフォマティクスの分野でスケールが話題に上りますから、今後はわかりませんね。