生命応答戦略科学 第5回講義
地球と生命の歴史
第5回の講義では、一転して、地球の誕生から始まり、地球環境と生命の進化が、お互いにどのような影響を与えあったのかについて概説しました。以下に、学生からの意見とそれに対する回答を示します。
Q:今回の講義は、生命の誕生についてであった。昔に読んだ高校の生物の教科書や雑誌ニュートンでは、36億年前には浅瀬の海でシアノバクテリアがすでに酸素をつくり出していたと記述してあったように記憶している。これは、ノースポールで発見されたストロマトライト様の岩石の発見がもとになった説であったのだろう。ところが、今ではその説はくつがえされ、最初の生命は深海に生息していたメタン合成細菌のようなものであったという説が有力になっているということだった。太陽光も酸素もない原始海洋で生息可能なモデル生物だからである。生命の起源とも言えるメタン合成細菌のゲノムについて個人的に調べてみたいと思った。
A:地質学的な発見というのは、1つの発見でそれまでの説ががらりと変わってしまうことがあるので大変です。複数の著者による教科書などでは、光合成の起源が、ある章で27億年前、別の章で36億年前になっている場合さえあります。
Q:真核生物は大きな細胞を持つので大きなエネルギーが必要であること、そのためオルガネラを持つことで膜面積を増やし、細胞内をコンパートメントに分けることで反応条件を分けているとの話がおもしろかったです。生物個体にも当てはまりそうな話だと思いました。オルガネラの中でもミトコンドリアや葉緑体は、たまたまある細胞に他の細胞が取り込まれたものであり、取り込まれた細胞がその状況に対応して特殊化していったと考えられると思うのですが、それは積極的なものだったのでしょうか。それとも(言葉が悪いかもしれませんが)飼いならされたというべきなのでしょうか。
A:オルガネラの進化を擬人的な表現で説明するのが一時はやりましたが、説明としてはよくてもそれにどれだけの意味があるかはわかりませんね。古典的な進化論では、オルガネラが特殊化したものと、そうでないもので、どちらがより子孫を残せるかによって集団内に広まるかどうかが決まるわけなので、「積極的」かどうかという質問には、ある意味では答えられないのかも知れません。また、特殊化したものとしないものが、それぞれ別の環境で有利になる場合は、それぞれが別の種として繁栄していくかも知れませんし。
Q:表面積と体積の比の関係から,真核生物はその大きさを大きくするためにオルガネラの獲得が必要であったこと,また,オルガネラの発達によっても一つの細胞の大きさは限られてしまうので,巨大化するために多細胞化する必然性があったことが一番印象に残りました.以前に,表面積と体積(重さ)の比から生物の大きさは限定され,ガリバーのような巨人は理論上存在しえない,という話を本で読んだことがあり,その話とも重なって面白いとおもいました.
Q:深海の生態系の話が興味深かったです。私が想像する生物の生育環境を遥かに越えた条件でも生物が生育していることに、生命の奥深さを感じました。光も届かず、水圧も地上とは比べ物にならない程高く、熱水噴出口付近で高温の海水にさらされるという条件でも生物が生きていけるのであれば、地球以外の惑星に生物がいてもおかしくないのではと感じました。今後の授業ですが、私は光呼吸やC4植物の話に興味があるので、最初の授業プリントに書いてあった内容のことを話して頂けたらと思います。
A:最初に話したように、海洋の形成と生物の出現は、地質的な時間スケールからすると「すぐ」といってもよい程の間があいているだけです。従って、水さえあれば生物は出現するのかも知れません。地球外の惑星にどれだけ水を持ったものがあるかどうかが問題でしょうね。
Q:前々回の地球生命科学論でも、この問題についての講義がありました。最初の生命は深海の超高圧状態で誕生したということでした。その中で、ミラーが行った放電実験に対し、太古の気体は彼が仮定したメタン、アンモニア、水素等のような還元型のものではなかったのではないかとう問題提起があり、インパクトを受けています。また、遺伝子である核酸とその配列、それから合成されるアミノ酸とその配列との対応関係は進化の段階における偶然というには、あまりにも複雑かつ規則的です。現在、どのように考えられているのでしょうか。
A:古典的な進化論では、どれだけ子孫を残せるか、というのが重要なパラメーターです。その際に「子孫」というのが親とどんどん変わっていってしまうようでは種として固定しませんから、遺伝というある種の規則性は、生物にとって必須のものです。現在の生物の遺伝の様式を見ると「あまりにも」複雑かつ規則的であるように思えますが、確率というのは、あたりの回数と試行回数の比です。数十億年にわたって全ての生物が繰り広げてきた進化の試行回数を考えると、複雑なのも当然のような気もしてきます。
Q:ミラーの実験から導かれた結果によると、有機物のスープがあるところに、放電がおこりそこでアミノ酸が合成されてそれが生命のもとになったということだったとおもいますが、現在では、深海の高温熱水のところで、生命が誕生したと考えられているとのことでした。深海では、放電などはないとおもいますが、何が生命誕生のきっかけになったと考えれているのでしょうか?
A:アミノ酸の合成場所自体は深海ではなかったのではないでしょうか。浅い海でアミノ酸が合成されてもよいし、最近は地球外の隕石などでアミノ酸ができて、それが地球に徐々に集積していったという説さえあるようです。
Q:大気と生体内では 12C と 13C の割合いが異なり、それが化石などを発掘する際に生命体を見分ける一つの指標になっていると言うお話がありました。CO2 固定を触媒するルビスコが12C と 13C を見分けるとのことでしたが、ルビスコはどちらの炭素をより固定しやすいのでしょうか?やはり大気中に多い 12C の方が固定しやすいのでしょうか?また生物種によってもルビスコが CO2 固定する 12C と13C の割合は異なるのでしょうか?
A:そうです。大気中に多い12Cの方が固定しやすいため植物体の中の13C/12C比は、大気のものより小さくなります。生物種によっても異なりますが、それは主にルビスコのせいと言うよりは、植物によって二酸化炭素取り込みの様式が異なるせいです。これについては第7回の講義で取り上げる予定です。
Q:生命の起源に関する諸説について大変興味深く聞かせていただきました。地球上最初の生命は深海の熱水噴出口が有力であるとのことでしたが、以前どこかのテレビ番組で生命体として成り立つには細胞膜のような外界と隔てる構造が必要であり、それは海水の波が海岸に打たれると泡が発生するように、有機物のスープが波のエネルギーで丸い膜状になって細胞になった、との説を耳にしました。深海で生命が誕生したとすると、細胞はどのようにして形成されたのでしょうか。
A:細胞の形の起源となると、もう想像するしかないでしょうね。細胞膜の構成成分の1つは脂質ですが、脂質は、親水性基と疎水性基の空間的な大きさの比によって膜を構成したときに一定の曲率を持ちます。従って、適切な脂質においては、丸い膜状になるためにはほとんどエネルギーはいらないのです。例えば、SDSなどの界面活性剤は、適当な濃度で水にとかしただけで見せるという、丸い膜構造をとります。波がなくても大丈夫だと思います。
Q:生命進化の話を興味深く聞かせていただきました。
①細胞発生:最初に細胞が発生した段階を考えたのですが、私は最初に「膜」ができたのではないかと思います。
つまり、何らかの偶然で脂肪酸ができれば、濃度は極微量でも一気に凝集します。中心部にアミノ酸を取り込んで行けば、自然とアミノ酸の濃度が上がります。そのアミノ酸が、海中のアンモニア、二酸化炭素・・と順番につながれば伸びて最後
はDNAになります。DNAが先か、RNAが先か・・ではなく、反応場となる脂肪酸が先だったのではないでしょうか。
②人類への進化:この話題になると、知的生命体が出てきます。自分は、人類への進化で一番高いハードルは、適度な地磁気だと感じました。もし、地球で地磁気が生まれなければ、光合成が一般的にならないため、いまだに好熱細菌しか存在できなかったかもしれません。
地球では丁度良い程度の地磁気が生まれましたが、木星のように生物を殺しつくすような放射線が生まれる可能性もあったわけす。地球の幸運さを感じました。
A:確かに生物にとっては、まずは自己の内外の区別がなくては何も始まりませんね。ただし、実際に膜を作るのは脂肪酸ではなくて、脂肪酸がグリセロール骨格につながった脂質です。木星に関しては、あれは半分太陽みたいなものですから。もうちょっと大きかったら核融合反応が起きたかも知れません。