植物生理学I 第13回講義

オルガネラの起源

第13回の講義では、葉緑体やミトコンドリアといたオルガネラが、そもそもなぜ真核生物に必要なのか、また、どのようにオルガネラとして確立したと考えられているのか、といった点について紹介しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:前に確かNHKの「サイエンスZERO」という番組でミトコンドリアの映像を見ました。実際のミトコンドリアは細長くて細胞内を動きまわり、他のミトコンドリアと融合・分裂を繰り返していました。よくあるミトコンドリアの図は断面図で、実際の姿とはだいぶ異なっていました。このような映像を見ると共生説ももっともであると感じました。葉緑体も元シアノバクテリアであれば、ミトコンドリアのように自分で動くことができるのかもしれないと考えました。以前、強光化などでの葉緑体移動について学びましたが、あれは細胞内でシグナルなどが出ているのではなく葉緑体が自発的に動いている可能性もあると考えられます。シアノバクテリアの動きと葉緑体の動きを比べてみれば、相似性が見出せるかもしれないと考えました。

A:確かに、一昔前まで教科書に載っていたミトコンドリアのイメージと、今研究されているミトコンドリアのイメージは大きく違いますね。「ミトコンドリアのように自分で動く」とありますが、それはどうやったら確かめられるでしょう?確かにムービーなどをみると「自分で」動いているようには見えますが、それは葉緑体移動でも同じです。サイエンスにおいては、そのように見える、と言うだけでなく、これらの基準を満たしているからこれこれだ、というような論理が大切ですから、考えてみてください。


Q:今回の授業で疑問に思ったのは、共生と葉緑体包膜の枚数というスライドで、渦鞭毛藻の包膜が3枚あることでした。1次共生をすると包膜が2枚になり、2次共生すると包膜が4枚になるのは納得しましたが、包膜が3枚になる原因は解明されていないとのことで、それについて考えてみようと思いました。包膜が3枚になるためには4枚あったものが何らかの原因で1枚減ったと考えるか、2枚あったものが何らかの原因で1枚増えたと考えることができます。
まず2次共生が起こったあと1枚減ったと考え、宿主の膜がなくなったと考えると取り込まれた生物が宿主の膜を分解したと考えられるが、これは取り込まれた生物が宿主をのっとってしまう可能性があります。取り込まれた生物の外膜がなくなったとすると、これは宿主が葉緑体で作られた養分を取り込みやすくするために膜を分解したと考えられます。取り込まれた生物の葉緑体の構造が壊されることはないと考えられるので、1枚減ったと考える場合は、取り込まれた生物の外膜がなくなったと考えるのが妥当だと考えました。
次に1次共生のあと1枚増えたと考えると、宿主の成分から作られたのか、取り込まれた生物の成分から作られたのか2通り考えられます。宿主が作ったとすると葉緑体で作られた養分が取り込みにくくなり、宿主が自ら構造を作り上げたことは考えにくいです。取り込まれた生物が自身の保護のために膜を作ったと考える方が妥当だと考えられます。
もう1度、1枚減ったか、1枚増えたかを考えると、膜を増やす方がエネルギーを必要とすると考えられ、取り込んだ生物よりおそらく下等の取り込まれた生物が膜をつくることは難しいと考えられます。よって包膜が3枚になった理由として、取り込まれた細胞の外膜が消えたと考えられます。

A:ほう。これは面白い。だいたい賛成です。「養分の取り込みのために」という部分については、それだけではなく、「タンパク質の輸送のために」という面もあるでしょう。講義でやったように、シアノバクテリアが葉緑体になる間に、シアノバクテリアの遺伝子の9割が失われて、その多くが核へ移行しています。そして、必要なタンパク質の一部は、細胞質から葉緑体の中へと輸送しなくてはいけないわけですから。


Q:共生体と共生藻体を持たない個体に分裂して増殖する生物、ハテナに興味を持った。共生体を持たない個体には捕食機能があり、それで藻類を取り込んでいる。『共生体を持たない個体が共生体を捕食した後、共生体の核以外の細胞器官は崩壊し、宿主である鞭毛虫の核の支配を受けて葉緑体だけが選択的に増大すると考えられる。』もしこれが事実だとしたらハテナは寄生生物といえるのではないだろうか。藻類に寄生しエネルギーをもらうからだ。つまり、ハテナは共生生物でない気がするのだ。寄生は一方的な搾取、共生は相互に利益があるものだ。片害共生は片方が不利益になり、片方は変化がない。今回、藻類は容積が増大はするものの、ハテナの核の支配を受け、子孫を残すことはできない。それはハテナのエネルギー器官に組み込まれた結果なので「共生している」ではなく、正確には「取り込んでいる」といえる。取り込まれた藻類は一方的にエネルギーを渡すだけなので、自分には寄生に感じられる。
参考文献:http://www.biol.tsukuba.ac.jp/tjb/Vol5No3/TJB200603SE1.html

A:共生関係を考える上で、何が利益になっているのかを考えるのは非常に重要ですね。ハテナの場合は、生活環が完全にはわかっていませんから判断できない部分もありますが、繊毛虫の仲間の場合は、取り込んだ藻類の葉緑体の部分だけをしばらく生かしておく、という例もあります。この場合は、取り込まれた方は生物の状態ではなくなっていますから、共生ではあり得ませんね。


Q:細胞にオルガネラが共生した際に、オルガネラDNAが細胞核に移行するという話について。時間とともにオルガネラDNAが徐々に移行することが示されましたが、細胞核のDNAがオルガネラのDNAに移行することは本当にないのでしょうか。遺伝子収奪によって動物細胞がオルガネラの祖先生物をいわば奴隷のように従えることを可能にしている、という論理は理解できるのですが、それは現象の解釈であって、DNAの選択的な移行機構が存在しない限り両方向のDNAの移行が否定できないように考えました。初期の単細胞生物には高等動物にあるような免疫システムは存在しませんが、自己非自己の認識にかかわるタンパク質などの遺伝子が祖先オルガネラに偶然移行しその結果共生が成立オルガネラになるに至る、というストーリーが考えられました。この問題はハテナなどの更なる研究によってヒントがもたらされるのではないかと思います。

A:面白い考え方ですね。一つ考慮に入れてほしいのは、細胞の中に核は1つしかないのに対して、葉緑体は場合によっては数百あることです。それを計算に入れると、どうなるでしょうね。


Q:今回の講義ではオルガネラについての説明があったため何度も細胞構造の略図が出てきました。略図や実際の写真を見ていて疑問に感じたことがあります。それは、なぜオルガネラは球なのかということです。体積あたりの表面積を増加させるためにオルガネラを増やしているのだとすれば、球ではなく、立方体に近い形体の方がよいと考えました。球の半径をrとすると体積が4πr^3/3、表面積が4πr^2で、表面積は体積の3/r倍です。立方体の場合、一辺の長さをlとすると体積がl^3、表面積が6l^2です。表面積は体積の6/l倍です。ですから、立方体の方が球よりも体積あたりの表面積を増加させることができます。それなのに、なぜ、球なのでしょうか。いくつかの理由を考えました。
・オルガネラ同士の接触面を少なくするため。球であれば、オルガネラ同士が接触して配置されている場合、お互いに点で接触します。しかし、立方体の場合、お互いが面で接触することになります。結果として、表面積の低下が起きます。
・形成しやすいため。球の場合、中心点から膜のどの部分でも距離は一定です。しかし、立方体は中心から膜までの距離は様々です。もしオルガネラが一点から広がるように形成されるならば、膜までの距離が等しい球の方が形成しやすいと考えられます。
・細胞を傷つけないため。立方体の角で細胞膜を気付けないように球になったと考えられます。
以上の理由から、オルガネラは球になったのだと考えられます。私たちが、角張ったものよりも丸みをおびたものに、やわらかさ・親しみを感じるのは、自分たちのオルガネラが丸いからかもしれません。

A:膜の面積ということであれば、オルガネラは外側の膜ではなく、内部の膜系を発達させることによって補っています。講義で紹介したように葉緑体であれば、チラコイド膜が積み重なり構造をとっていますし、ミトコンドリアでは、クリステと呼ばれる陥入構造によって表面積を稼いでいます。オルガネラの場合は本体の表面積と言うよりも、内部の機能膜の表面積が重要だからでしょう。