読書記録2025

最近、一度読んだ本でも忘れていることが出てきて年を感じます。ひどいときは、新しく読む本だと思って、面白く読み進めていくうちに、何だか知っている気がしはじめて、読み終わる頃に、そういえば昔読んだことがあったと思い出すこともありました。そこで、新しく読んだ本を忘備録としてここに書いておくことにしました(平成14年3月開始)。「新しく読んだ」というだけで、別に新刊の本とは限りません。


「「声」の言語学入門」 川原繁人著、NHK出版新書 令和7年5月読了
 仕事で「声」を使っているものとして読んでみたのですが、人付き合いの話が大量に挟まれていて、肝心の「声」と言語学の話はかなり薄い印象を受けました。もう、既に何冊も一般向けの本をお書きになっているようなので、新しい話題に苦労されたのかもしれません。まあ、本当に言語学の話を聞きたいのであれば、ちゃんと教科書を読め、ということなのかもしれません。それでも、一つだけ「無声音に挟まれた母音は無声化する」という日本語の特性をこの本で初めて知りましたが、声の伝わり方についての長年の疑問を解消するもので、おかげて少し利口になりました。

「有職装束の世界」 八條忠基著、角川ソフィア文庫 令和7年5月読了
 本体1,720円なのですが、オールカラーなのでこんなもんでしょうか。むしろ、この値段で売れるということは、こういうことに興味を持つ人が多いことを反映しているのかもしれません。あるいは現在でもこのような装束を着る神職の人などが買うのでしょうか。内容は、個々の装束の解説ですが、歴史的な変遷などについても目配りをしていてきちんとしています。独学で勉強されたのだとすると、立派だと思います。

「天声人語2024年7月ー12月」 朝日新聞論説委員室著、朝日新聞出版 令和7年4月読了
 多少相談にのったのが縁でお送りいただいたので、きちんと読んでみました。その時々に話題になった事柄が次々思い出されるのがいいですね。まとめて読むと、様々な話題と様々な考え方が取り挙げられていて面白いのですが、政治がらみの話題の時だけは、出だしを読み始めると最後の一文が想像されるような展開が多いのが残念です。確固たる政治姿勢を持つこと自体はよいと思いますし、権力におもねらない方向性には共感しますが、文章が通り一遍だと、自分の頭で考えずに一種のフォーマットに頼り、思考停止に陥っているのではないか疑われるように思います。まあ、まとめて読むから気になるだけで、毎日一つずつ読んでいればこれでよいのかもしれませんが。

「科学をうたう センス・オブ・ワンダーを求めて」 松村由利子著、春秋社 令和7年4月読了
 科学を詠んだ短歌を集めて解説した本です。それは科学じゃなくて自然でしょ、という歌がたくさん取り上げられていますが、まあ、書き手も読み手も科学者ではないでしょうから、ご愛敬でしょう。逆に言えば、本当に科学を詠むことの難しさを示しているのかもしれません。

「歴史学はこう考える」 松沢裕作著、ちくま新書 令和7年1月読了
 歴史を扱う学問の考え方を、論文の書き方を通して紹介した本です。理系の研究者から見ると、共通の点と異なる点が明確に感じ取られて楽しめました。大学で卒業研究をしている、あるいは修士課程に入ったぐらいの学生に読んでほしいと思えるレベルだと思ったのですが、これが新書として案外売れているという話です。そうだとすれば、日本の読者のレベルはかなり高い気がしますし、日本もまだ捨てたものではないかもしれません。