呼吸の科学
石田浩司著、講談社ブルーバックス、2021年、294頁、1,100円
光合成の本をブルーバックスから出している身としては、呼吸の本が同じブルーバックスから出たと聞いては読まざるを得ないかなと思って手に取りました。この本を読んで改めて感じるのは、呼吸の本質は気体の出入りだけでなく、血液の循環と一緒に考えなくてはならない、ということです。そしてその制御を考えるにあたっては、酸素だけでなく二酸化炭素も極めて重要である点は、往々にして忘れがちなポイントかも知れません。ヒトの肺を考えた場合、吸う時と吐くときでルートが同じ以上、動かす気体の内の一定部分は利用できないという点も、当たり前ながら見落としがちかもしれません。もっとも、魚の鰓による呼吸の仕組みを考えると、吸う時と吐くときで異なるルートを使っていますから、ヒトなどの動物でも、同じようなしくみで無駄になる部分をなくして効率化することはできそうに思えます。しかし、それは生物学的な考え方であって、おそらくヒトを対象とした生理学者にとっては、ヒトの体は前提であって、その意味を考えることはないのかもしれません。同様に、生物学では、呼吸を代謝の一環として位置づけますが、この本で扱われる呼吸は主に吸って吐いての呼吸です。ブルーバックスには『呼吸の極意』をはじめとして「心身を鍛える」系の本が何冊もありますので、それらの運動生理学の本の基礎となる部分の解説という位置づけなのでしょう。著者自身も運動生理学やトレーニングなどを専門としているので、やはり呼吸の電子伝達鎖の説明などは専門から遠いようで、僕が代わりに書きたくなってしまいます。また、図の数はそれほど多くないのですが、そのつくりが小さくて細部が見にくいものが多いのが残念です。高校レベルの教科書などでもおなじみの酸素解離曲線も、専門書や論文での書き方になっていて、線の種類を変えるなどすれば、それだけで理解しやすくなるのにと思います。そのあたりは編集者の責任かも知れませんが。