したたかな植物たち あの手この手のマル秘大作戦
多田多恵子著、株式会社SCC、2002年、238頁、2,200円
おそらく、この本を読み終わった後、著者の多田多恵子さんの姿を想像したときに思い浮かぶのは、膝を付き、場合によっては腹ばいになって野草に近づいて観察し、あるいはカメラを構えている姿ではないでしょうか。この本で扱われるのは、植物のさまざまな生存戦略ですが、その生存戦略は、単に頭で考えられた繁殖メカニズムや成長の仕組みから予想される知識としての戦略ではなく、あくまで自分の目で観察して考察した戦略です。そして、その観察も、単にある時点でのスナップショットではなく、おそらくは春夏秋冬を通しての継続的な観察によっていることがうかがわれます。ページ数の3倍ぐらいの枚数はあるであろう植物のカラー写真も、その多くは多田さんが撮影されたものなのでしょう。現場の植物学という雰囲気が色濃く漂う本です。とは言いつつ、さすがは植物生態学で理学博士になっただけあって、その記述はきちんとしたサイエンスに裏付けられていますし、そのことは、付録につけられた用語解説を見れば一目瞭然です。この本は、ガーデナーズ・コレクションというシリーズの一冊ですが、園芸家向けの本で、赤の女王仮説はともかく、アセチルコリン、種沈、スラム、ペデロシドなどといった言葉が出てくるものは、他に無いのではないでしょうか。それでも、語り口は、この著者独特のユーモアにより楽しく読み進むことができます。写真とイラストとユーモアに満ち溢れた植物好きのための一冊です。