生命の星の条件を探る

阿部豊著、文藝春秋、2015年、238頁、1,400円

昔は、生物学者は、生物の複雑な仕組みから考えると、地球のように生命に満ちた星は他にはないだろうと言い、宇宙物理学者は、宇宙の広大さを考えると、生命を育む星は、宇宙の中にたくさんあるだろうと言う、とされていたものです。しかし、現在は、生物学者であっても、条件さえ整えば生命は発生する、と考えている人の方が圧倒的に多いのではないでしょうか。とすれば、地球が奇跡の星かどうかは、その「条件」に依存することになります。この本では、さまざまな面から生命が存在できる惑星の条件を一つ一つ考察していきます。そして、著者が主要な研究手法としてシミュレーションを用いているため、考察が定量的であるという点が、非常に大きな特徴となっています。惑星が液体の水を持っていることが重要であることには疑いありませんが、では実際にどれだけの水があれば、生命の存在する条件を満たすのかについては、必ずしも自明ではありません。そして著者らによるシミュレーションによれば、地球に生命が存在できる期間は、地球上の水の量が十分の一に減れば、ぐっと伸びるのです。水が少ないほうが生命にとって有利であるというこの結果は、定性的な直感を裏切るものであって、まさに定量的な研究の醍醐味でもあるでしょう。医学や農学といった技術の分野では、予想を立てて、そのとおりの結果が得られれば、それによって病気が治ったり、収量が増加したりするわけですから、大成功です。しかし、宇宙物理学のような、少なくとも一見役には立たない純粋科学の分野では、予想や直感を裏切る思いがけない結果こそがむしろ重要でしょう。そのような意味で、この本は、純粋な知的好奇心に基づく科学の面白さを実感させてくれる書物となっています。ハードカバーのしっかりした本で、値段が1,400円というのもお買い得感がありますし。

書き下ろし 2015年10月