巨大ウイルスと第4のドメイン
武村政春著、講談社ブルーバックス、2015年、221頁、860円
「細胞からなる」という「生物」の一般的な定義からすると、ウイルスは明らかに生物ではないのですが、1990年代以降に次々に発見された巨大なウイルスの一群は、細胞からなる生物よりもサイズが大きい場合があります。そのような巨大ウイルスを、本書では、細菌、古細菌、真核生物に次いで、生物の第4のグループとして考えてみようとしています。生物の定義や、進化、ウイルスの構造など、ストーリーの理解に必要な基礎知識を、その必要になった場所で過不足なく説明していて、一般向けの啓蒙書として申し分ありません。巨大ウイルスが第4のグループとして認められるか、という肝心の点に関しては、まだデータが不足しているというのが現状でしょう。少なくとも普通のウイルスを含めて考える場合には、第4のドメインという考え方には無理がありそうです。巨大ウイルスだけ取り出して考えれば、まだ可能性はあるように思いますが、その場合には、ではウイルスと巨大ウイルスになぜ本質的な差異を認めなければならないのか、という点が問題として生じます。このような議論を聞いて改めて感じるのは、遺伝子の水平伝播が原核生物などにおいていかに一般的かという点です。親子関係にない生物の間で遺伝子が大量にやり取りされてしまう時に、生物の系統関係を追いかけるのはなかなか大変です。ウイルスの場合は、ウイルス自体が遺伝子の水平伝播に一役買っているわけですからなおさらです。とは言え、巨大ウイルスの場合、まだ発見例が限られますから、その中で確実なことを言うことは難しいでしょうけれども、これからいろいろな例が見つかってくれば、案外生物の定義がひっくりかえるような発見につながるかもしれないという期待を抱かせる本でした。