「地球システム」を科学する
伊勢武史著、ベレ出版、2013年、263頁、1,700円
これが生物学関係の本なのか、と言われると難しいのですが、地球環境は、光合成によって大きく変化していて、光合成と生命のはたらきを語らずして地球の歴史を語ることはできません。実際にこの本でも、生命の誕生や光合成の影響について3つの章で触れられていますから、まあ、生物関連の本といっても間違いではないでしょう。第1章と第2章は、地球システムについてのイントロダクションに充てられているのですが、この部分はネガティブフィードバックとポジティブフィードバックの解説が中心で、特に地球システムに特化した話でもありませんから、理系の人間にとってはやや退屈です。第3章からようやく本題に入り、第4章から生命が登場します。地球環境の歴史と生命の関わりを解説した部分は、それほど新しい情報があるわけではありませんが、丁寧に解説されています。面白いのは、むしろそのあとで、話が科学と宗教の違いなどに飛んで、そこから地球温暖化に関する論争の検証に移ります。ここでも、目から鱗という新しい情報はあまりありませんが、一つ一つの疑問に対して、冷静に、できれば定量的に考える必要が強調されていて説得力があります。全体として地球環境変動に関する背景を理解するためにはなかなかよくまとまった本といえるでしょう。光合成に関して驚いたのは、シアノバクテリアの一部に、電子供与体として水と硫化水素を使い分けるものがある、という記述です。細菌型の光合成と酸素発生型の光合成を使い分けているのなら大発見だと思って、シアノバクテリアの専門家の池内さんに伺ったら、細菌型の光合成とは違って、むしろ化学合成に近いシステムのようですね。勉強になりました。