植物の生存戦略 「じっとしているという知恵」に学ぶ

「植物の軸と情報」特定領域研究班編、朝日新聞社、2007年、234頁、1,200円

科学の研究には、分野にもよりますが、測定装置の購入や維持、あるいは試薬の購入などに、どうしてもお金がかかります。多くの大学においては、日常的な研究室の維持に最低限必要な費用を大学が負担してくれればまだよい方ですから、何か新しい研究を始めようと思ったら、大学以外の機関から研究費をもらわなくてはなりません。文部科学省の科学研究費補助金は、そのような研究費の代表的なもので、この本は、研究費を受け取ったグループの研究者が、その研究成果を一般向けに発信するために出版したものです。具体的には10名の研究者をサイエンスライターが取材をして書いた原稿を取材元がチェックをする、という形をとったとのことです、文章はこなれていて平易な表記となっていながら、最先端の研究の雰囲気が伝わるようなものに仕上がっています。内容も、葉の形づくり、花の形づくり、花を咲かせる時期を決める仕組み、受精の仕組み、根の働き、茎の働き、植物ホルモンの働き、そして育種の話と、主に形態に関わる植物生理学の内容が多岐にわたって紹介されています。植物生理学を学ぶきっかけとして読むのにも、ふさわしいのではないでしょうか。宇宙科学などの研究の分野では、研究成果が経済的メリットとして還元される可能性が少ないため、研究の推進に対する国民の理解を得るために常に努力がなされていますが、植物生理学の場合、なまじ農業的な応用の可能性があるため、一般向けの広報活動は軽視される傾向がありました。この本が、そのような傾向を覆す一つのきっかけになれば素晴らしいことだと思います。ただ、この本を読みたいと思って購入しようとしたら、既に絶版のようでした。アマゾンを通して古本で購入しましたが、このような本が、出版から数年で既に絶版というのは、さびしいですね。いくら、広報活動をしても、それが世間に受け入れられなければ何にもならないというのが難しいところです。

書き下ろし 2013年9月