光と緑の葉の秘密-光合成-
ヴェ・エム・クチューリン著、科学普及新書(東京図書)、1964年、109頁、250円
この本の原著の出版は1961年、やはりソ連の著者による「光合成の謎」の初版と同じ年ですが、こちらは専門家が書いていることもあって、光合成のメカニズムの記述がまともです。特に同位体の専門家らしく、光合成の炭素同化経路の解明に関する部分や、酸素が水から生じることが明らかになった経緯などは詳しく説明されています。日本語訳の題名は一般的な印象を与えますが、原書の題名の直訳は「めじるし原子と光合成」だそうで、そちらの方が内容を反映しています。めじるし原子というのは、いわゆる放射性同位元素によるトレーサーですが、難解になりがちな点も、丁寧に説明されています。全体としても、研究の歴史、光合成のメカニズム、生態系における重要性、未来の人工光合成への期待などがバランスよく紹介されていて好感が持てます。訳者も植物の専門家であり、著者の記述の曖昧な点などはきちんと注で補われていて感心しました。ただ、著者は光化学反応はどちらかというと専門外のようで、それに関する記述は1961年という時代を考えてもやや古いかなと感じました。この本を読んで一つ感じたのは、この本の時代から半世紀を経て、光合成のメカニズムについて今や何と多くのことがわかったのだろうかという点です。その一方で、生態系における光合成の重要性や、人工光合成に対する期待などについての記述は、ほとんどそのまま現在でも使えそうです。もしかしたら、科学は進歩しても人間は進歩しないということなのかもしれません。