化石の分子生物学 生命進化の謎を解く
更科功著、講談社現代新書、2012年、236頁、760円
人類の起源という比較的新しい(!)話題から初めて最後は恐竜、そしてカンブリア紀の大爆発と呼ばれる古生代の初期の生命進化までを、化石のDNAやタンパク質による解析によって明らかにしようとする研究の発展を丁寧にたどっていきます。個々の技術、例えばタンパク質などが混ざっている試料からDNAだけをどのように分けるのか、単離したDNAの配列をどのように決定するのか、などをきちんとその原理に基づいて説明しているのが素晴らしいと思います。後半には、適者生存による進化はどのような時に起こるのか、また損にも得にもならない中立的な遺伝子の変化は、どのように集団の中に広がっていくのか、などもきちんと説明されています。ただ、スペースが限られた中での説明ですから、予備知識が全くない人にはちょっと難しいかもしれません。印象に残るのは、現生人類がネアンデルタール人と交配していたのかを明らかにすることなどは現在の技術を持ってすればそれほど難しくないのに対して、恐竜のDNAの解析については、いまだに成功したと確実に認められる例がないという点です。生物の進化において、恐竜に比べたら人類ははるかに新参者であることが実感できます。残念ながら恐竜の化石の分子生物学的な解析が難しいのは、単によい化石がたまたま手に入らないという偶然の要素というよりは、何千万年という時の流れの中で物質が必然的に変化していくことに由来するようです。とすれば、今後も恐竜のDNAを分析することに成功する可能性はほとんどないことになります。とは言え、しばらく前までは「化石からとったDNAを分析することなどできるはずがない」と思われていたのが、現在では可能になっているわけでですから、あきらめるのはまだ早いかもしれません。この本でも、さまざまな成功例の陰に多くの失敗例があることが紹介されています。夢を持って研究し続けることが大切なのでしょう。