植物代謝工学ハンドブック

新名惇彦・吉田和哉監修、エヌ・ティー・エス、2002年、780頁、55,000円

本書は箱入りで中身の厚さ5.1 cm、索引を入れると800頁をこす大部である。値段も5万円を超すということで、身構えて本を開くと、一段組の大きな活字が現れて拍子抜けする。老眼には優しいだろうが、二段組にしてもう少し活字を小さくすれば半分のページ数と価格ですむだろう。活字が大きいぶん、ページ数が多い割には読むのは楽である。それでも大部なので、とりあえず、評者の専門に近い、「光エネルギー変換機構」、「温度ストレスに対する応答と温度ストレス耐性植物」、「光・酸素毒耐性植物」の3節を読んでみた。「光エネルギー変換機構」の節は、代謝工学上の基礎知識として光合成光化学反応系を一般的に解説しているが、残念ながら、「シトクロムb6/f複合体は...光化学系Iと光化学系IIに結合している」などといった、基本的な知識の誤りや図の間違い、誤解を招く記述などが散見され、教科書としては不適切と言わざるを得ない。「温度ストレスに対する応答と温度ストレス耐性植物」の節は、シグナル伝達と遺伝子発現制御を解説した部分は詳しいが、最初の低温ストレスの生理応答に関しては、凍結ストレス(freezing stress)と氷点下以上の低温ストレス(chilling stress)、また低温耐性植物と低温感受性植物を明確に区別せずに現象を列記しているので、整理されていない印象を受ける。また、温度ストレスに重要な影響を与える光条件に関しても記述がない。代謝工学によって育種などを行うにあたっては、実際の生育条件下で、代謝系のどの部分が阻害を受けているのかが重要なはずなので、そのような観点からの記載が望まれる。「光・酸素毒耐性植物」の節は、活性酸素消去系の基礎知識から始まって、すでに作製された形質転換植物の評価までデータが整理された形できちんと載っており、何かの際にリファレンスとして使えそうで、他の節が全てこのような内容であればまさに「ハンドブック」として役立つと思う。他の節は斜め読みしただけなのだが、全体としては5万円以上出して買う気はしない。ちなみに、この本は出版社から、試読用として送られてきたものですでに返送したが、他の先生にもだいぶ送られてきているようである。郵送・返送の宅急便代なども定価に上乗せされているのだろう。

書き下ろし 2002年9月