HSPと分子シャペロン

水島徹著、講談社ブルーバックス、2012年、270頁、940円

昔は単に生き物を高い温度にさらすと量が増えるというだけで、何をやっているのかよくわからないタンパク質であった熱ショックタンパク質(Heat Shock Protein, HSP)は、実は他のタンパク質の構造を維持・修復する機能を持っていることがわかってきました。この本では、そのあたりの経緯をタンパク質の折り畳まり構造がどのようになっているかという基礎的な部分から解説しています。同じアミノ酸の配列を持っているタンパク質でも、その折り畳まり構造が変わってしまうとその機能が失われる場合があること、さらにそのような構造変化をHSPが防いだり、修復したりし、場合によっては変化したタンパク質の分解を促進することは、静的に捉えがちなタンパク質機能のイメージに修正を迫ります。特に、正常な場合でも作られた量の75%が品質管理システムに合格せずに分解されてしまうタンパク質が存在するという話は印象的です。前半は基礎的な研究の話をきちんと紹介し、後半は医薬品・化粧品への応用研究を紹介するというバランスがよいため、全体として色々な面からHSPのことが分かった、という印象を与えることに成功しています。また、実際の研究データを含む図を90枚も載せていて、これも読者の理解の役に立っています。医薬品を開発するに当たっては、様々な制度や法規制も考慮しなければならないこともよくわかります。ただ、応用研究の部分は、基本的に著者が関与している製品の紹介になっているので、宣伝の一種という側面も持っています。医薬品については、マウスの実験ではありますが、きちんと薬が効くデータを示したうえで紹介しているので、問題ないと思いますが、化粧品の方でそのようなデータが全く示されないので、どうしても眉に唾をつけてしまいます。肌などによい作用を示す物質を探してそれを化粧品に配合するという方向性はよいのですが、実際にその化粧品が有効かどうかは、どのぐらいの濃度にその物質を入れたかにもよるでしょう。宣伝をするのであれば、実際の化粧品に効果が認められたかどうかのデータを示して欲しかったと感じました。

書き下ろし 2012年8月