トコトンやさしい発酵の本
協和発酵工業(株)編、日刊工業新聞社、2008年、159頁、1,400円
見開きごとに1項目、左ページに説明、右ページにイラストという体裁の「今日からモノ知りシリーズ」の一冊です。説明が1項目ずつまとまっているので、全体に読んでいてリズムがあります。また会社で実際に発酵を役立てている人々が著者となっているために、さすがに応用例が豊富です。「発酵の仕組み」という章もあるのですが、そんほとんどは産業に使われている様々な発酵の「作業手順」が述べられていて、代謝の経路としてどのようになっているかという仕組みについて説明されているのは全67項目の中で1項目だけです。面白いのはその一方で、ゲノムと遺伝子、酵素の生化学、遺伝子の発現制御の仕組み、遺伝子組み換えといった部分については、発酵に特有ではない部分についても、かなり詳しく解説されています。このあたりは発酵を産業に利用するときに必ず必要となる部分なので、説明が詳しくなっているのでしょう。生物学の立場から発酵を講義していると、どうしても発酵を好気呼吸と対比させたり、酸素濃度による代謝系の切り替えという生き物の精妙なメカニズムに焦点を当てたくなりますが、農学的・工学的な視点からみるとまるで異なるということでしょう。発酵という言葉自体が、定義として「人間の役に立つ」という人間中心主義的なものですから、その解説が人間が発酵をどのように役立てるか、という視点から構成されるのは当然のことなのかもしれません。文章は非常にきちんと推敲されているようで非常に読みやすく、一般向けの書籍として文句なしだと思います。ただ、イラストの方は、文章との対応が悪かったり、説明不足で知識がないと意味がわからないところもあるのがやや残念です。