植物の成長

西谷和彦著、裳華房、2011年、203頁、2,500円

「新・生命科学シリーズ」として出版されている裳華房の生命科学の叢書の一冊である。この叢書は十数冊企画されている内、本書も含めてまだ4冊が出ただけであるが、「従来の枠組みにとらわれず」と謳う割には刊行予定をみると「動物の系統分類と進化」「植物の系統と進化」「動物の生態」「植物の生態」といった感じで、オーソドックスなタイトルが並んでいる。もちろん、奇をてらったタイトルの方がよいと言いたいわけではなく、従来の枠組みが有効なのであれば、それを変える必然性はないだろう。ストレートに「植物の成長」と銘打たれた本書も、ここ数年で劇的に情報量が増えた植物ホルモンのシグナル伝達系をめぐる話題など、最新の知見が丁寧に紹介されている。植物生理学を学ぶ際に知っておいてほしいことがきちんと解説されている点が素晴らしい。このような教科書においては、著者の専門分野に近い部分が難解になりがちであるが、どの章も必要な内容がコンパクトにまとめられており、著者の平易な語り口もあってすらすらと読み進めることができる。基礎的な事項から説明がされているので、学部の1,2年生でも自分で読んで学ぶことができるように思う。第2章「植物の遺伝子と細胞」は、以後の内容のためのいわば導入として用意された部分と思われるが、23ページの中に、遺伝子とその発現から始まって、エピジェネティックな制御、細胞周期と細胞分裂そして細胞分化までが短くまとめられているのには感心させられる。おそらく、どの内容を書くかではなく、どの内容を書かないか、に苦心してまとめられた本なのではないだろうか。ただ、その淡々とした語り口が、一方では、著者の思い入れ、こだわりといったものを若い読者に伝わりづらくしている可能性はあるかもしれない。バックグラウンドの知識がある者にとっては、著者のさりげない一言に「面白み」を見つけることができるが、知識のないものにとっては、そのような個所も表現がさらりとしているだけに読み過ごしてしまうかもしれない。贅沢を言えば、どこか一か所でよいので、著者の熱い思いがストレートにあふれ出るようなところが欲しかったように思う。

書き下ろし 2011年7月