光と生命 光生物学入門
L. O. ビョルン著、理工学社、1976年、202頁、1,800円
原著の発行は1973年ですから、今から40年近く前に出版された本ですが、光と生命のかかわりを非常に幅広く扱っている労作です。光の物理化学的な性質から初めて、植物の光合成、動物の視覚、生物発光、体内時計、日焼け、光源の種類、空間の定位、DNAの変化、さらには当時問題になりつつあった光化学スモッグまで、光の関わる様々な現象が丁寧に説明されます。これだけの幅広い分野をカバーする場合には、自分の専門分野以外の部分については事実の羅列になりがちですが、本書では、それぞれの事実の背後にある生物学的・進化学的な意味までを常に探ろうとする姿勢が感じられます。いくつかの細かい事項についてはさすがに今では古く感じられる議論もありますが、生命の起源における分子の対称性を巡る議論など、基本的な考え方については今でもほとんどそのまま通用するでしょう。原著の初版はスウェーデン語ですが、すぐに英語版、ドイツ語版が出たというのもうなづけます。監訳を宮地先生がなさっていて、一部を訳者の責任において改変したり、ストックホルムのデータを東京のデータに差し替えたり、参考文献に日本語の著作を加えたりなどしてあり、日本の読者の利便性が考慮されています。この本の改定新版が出たら真っ先に買いたいところですが、現在ではこれだけの幅広い知識を持って一般向けの本をかける研究者は見つからないかもしれません。