光と植物 光合成のエネルギーとエントロピー

柴田和雄著、培風館、1982年、153頁、2,300円

光合成を専門としながら、また、著者の流れをひく研究室にポスドクとして在籍していた経験を持ちながら、これまでこの本を読まずに来ていました。一読して、もっと前に読むべき本であったというのが感想です。主題は光合成なのですが、生命の進化、エネルギーとしての光、分光学、生態学など、多様な観点から論じられる語り口は淡々としていながら読む者を引きつけます。一本の木につく葉の光合成全体をシミュレートする計算などは、生理学と生態学が数学によって結びつけられた成果と言え、複合的な視点の重要性を感じさせます。さまざまな現象を定量化して考える態度は、おそらく人によっては難解に感じるかもしれませんが、生理現象の理解を表面的な観察にとどめずに、その背景にあるロジックを知りたいと願うものにとっては、切れ味のよいナイフでスパッと切り取った断面を見せられる気がして小気味よい限りです。意外に思ったのは、本の最後におかれたバイオマスの章で、ここ数年でマスコミに取り上げられることが急に多くなったバイオマス利用に関する議論が、実は30年前からさほど進歩していないことをよく示しています。まあ、これは著者に先見の明があったという見方もできるでしょう。副題にエネルギーとエントロピーとありますが、エントロピーに関する議論は途中にわずかに取り上げられるだけで主題になっていません。

書き下ろし 2010年5月