タンパク質の一生

永田和宏著、岩波新書、2008年、218頁、740円

タンパク質といえば、一般社会では人間が取る栄養素の一つであり、生物学においては酵素の本体というのが、おおかたの認識だろうか。この本では、そのタンパク質を誕生(合成)から死(分解)までたどるという形で、最新の細胞生物学・生化学的知見が紹介されている。DNAからメッセンジャーRNAを経てタンパク質が合成されるという誕生の部分は、セントラルドグマとして確立されている部分であり、おそらく本書を手にとって読もうと思う読者にはおなじみの部分であろう。しかし、合成されたポリペプチドが機能的な形となるために折りたたまれる過程、そして、機能する場所に輸送される過程、そして最後に機能を終えて分解される過程については、最近になって明らかになった部分も多く、一般向けに解説された例はあまりないのではないだろうか。語り口こそソフトだが、本書は、そのような点について、大学の学部の分厚い生化学の教科書並みの知識が最新の知見も織りまぜながら紹介されるので読み応えがある。破綻すれば病気になり生死に関わるタンパク質の品質管理が、二重三重の安全装置に守られて生物の体の中で機能している様子は、きちんと管理されている人間社会のシステムに良く似ている。このことは、ある意味で当然とも言えようが、生物と人間社会の管理システムのの段階の対応が一つ一つ具体的に示されるのを見ると、「なるほど」と改めて納得する。タンパク質の職場での働き、つまり、一般的には脚光を浴びやすいタンパク質の機能そのものについての記述をばっさり省略したことにより、その背後にある動的なタンパク質管理システムが浮かび上がっている点が、本書の一番の特徴であろう。

書き下ろし 2009年2月