生命とは?物質か! サイエンスを知れば百考して危うからず
和田昭允著、オーム社、2008年、283頁、1,800円
著者は物理化学の分野からゲノム研究に入ったというバックグラウンドを持つ人で、この本の前半では生命というものの科学における位置づけと、物質に対する生命の特徴が明確に分析されます。その分析自体が面白いのはもちろんのこと、その背景にある著者の信念というか、哲学が、ざっくばらんな口調で展開され、読んでいて飽きません。読んでいくうちに、物質として生命を考える際には何が重要で何は枝葉末節なのか、ということが頭の中で自然に整理されていく感じです。後半は、研究者として生きていくために何が必要かが説かれます。そのうちの一部は、人間として生きていくためにも必要でしょうし、研究者に特有の問題もあります。ここでも感じるのは、著者が若い人に向けてメッセージを発信したいという強い思いです。サイエンスにおいての思考回路、アイデアが生まれる様子、判断の仕方などが、実例を挙げて解説され、その例の中の重要なポイントがきちんとまとめられ、そこらの自己啓発本などにはおよびもつかない人生の指針となっています。若い研究者に是非読ませたい本ですね。一つだけ、引っかかったのは、繰り返し強調されている物理学分野と生物学分野の間の閉鎖性です。おそらく、これは物理から生物へと越境した著者が受けた抵抗の実体験に基づいているのだと思いますが、もともと物理、化学、生物、そして最近は地球環境などを通して地学にもまたがる光合成という現象を研究している人間には、今ひとつ分野間の断絶が身近に感じられませんでした。現在の光合成研究会の会長は物理学科の教授ですしねえ。