光合成の世界

岩波洋造著、講談社ブルーバックス、1970年、248頁、480円

今度、ブルーバックスから光合成の本を出すことになったので、同じブルーバックスで今から40年近く前に出た光合成の本を読んでみることにしました。40年前というと、まだ、光合成の詳しいメカニズムは確定していなかった時代ですが、一般向けの啓蒙書として読む限りにおいてはそれほど古い印象を与えません。著者は光合成の専門家ではないようですが、それが幸いしているのかも知れません。もし、専門家が当時わかりかけていた細かいメカニズムまで書き込んでいたら、おそらく、現在の目から見ると修正しなくてはならないことがたくさん出てきていたでしょう。著者は写真を趣味にしていたそうで、光化学反応と酵素反応の温度依存性の違いを、写真の感光の反応と現像の反応にたとえて説明するところなどは、なるほどと感心しました。内容自体はかなり多岐にわたり、光合成を縦軸に、植物の生き方をさまざまに切り取っているような感じを受けます。光合成のさまざまな面がバラバラに現れるので、その全体像をつかみたい人には返ってわかりづらく感じるかも知れませんが、一方で、光合成が植物の代謝の単なる一つではなく、植物の生き方全体に関わっていることを感じさせる、という意味では成功しているのではないかと思います。

書き下ろし 2008年8月