バイオインフォマティクスの数理とアルゴリズム
阿久津達也著、共立出版、2007年、223頁、3,000円
これは、アルゴリズムサイエンスシリーズという情報科学の教科書で、バイオインフォマティクスといういわば応用問題において、どのような、もしくはどのようにアルゴリズムが使われているのかを解説しています。ですから、本当は生物の本とは言えないのですが、情報屋さんが何に興味を持っているのかを知りたくて読んでみました。最初に16ページの簡単なセントラルドグマなどの紹介があって、情報学分野の人が生物の基礎的な仕組みに触れることができるようになっています。残りの章は、配列のアラインメントや解析、系統樹や構造予測、ネットワーク解析などについて、問題が定式化され、アルゴリズムが紹介されます。生物学者としては、もはや誰もが使うようになった配列のアラインメントのアルゴリズムが多少改善されても面白くない気がするので、むしろネットワーク解析の部分などに興味があったのですが、残念ながら、このあたりは、まだアルゴリズムが確立されていないようです。ただ、やはり読んで感じるのは、情報屋さんから見たバイオインフォマティクスの面白みというのが、生物屋から見た面白みと全く異なるということです。おそらく、情報学から見ると、生物という何となく曖昧模糊としたものに数学的な基盤を与えることができる、という事実に面白みがあるのではないかと想像します。17世紀あたりで物理学が数学と結びついて発展したのと同じような感覚でしょうか。しかし、生物学から見ると、得られた数学的な基盤に基づいて、今度はその「意味」を生物学的に解釈し直さなくてはならないように思うのですが、残念ながら、その解釈をきちんとできるレベルまではいっていない印象を受けました。アルゴリズムを理解したとは言えませんが、雰囲気を感じるだけでも読む価値がありました。