エッセンシャル生化学

Charlotte Pratt, Kathleen Cornely著、東京化学同人、2006年、555頁、6,500円

近年、エッセンシャルと銘打つ教科書が次々出版されているが、学問分野のエッセンスを簡潔に解説したものかと思うとたいてい大違いで、この本も、その内容はきわめて高度かつ広範囲である。編集方針はかなり明確で、個々の事実をなるべく医学的な応用例と結びつけることにより読者に生化学を身近に感じさせることを目指している。評者の専門である光合成も載ってはいるが、「哺乳類と植物の生化学を比較」するためというスタンスが保たれる。植物を専門とするものにとってはやや違和感があるが、面白みを伝える一つの方法としては充分成功している。内容的には、概論と化学の基礎知識から始まり、タンパク質から酵素を経て代謝に進み、最後に遺伝情報が扱われる。タンパク質自体を扱う3つの章は、対象を代表的ないくつかの例に絞ることによって簡潔で明快な記述となっている。また、代謝については、解糖からクエン酸回路を経て酸化的リン酸化にいたる呼吸について、その個々のステップの意義までもがきちんと説明されており、きわめてわかりやすい。ただ、脂質代謝、窒素代謝に入るとやや羅列的になるのが惜しまれる。付録にCD-ROMがついていて練習問題や教師用のリソースが収録されているが、この部分は翻訳されておらず、日本語版では教師用の扱いだろう。全体として、きわめてすぐれた教科書と言えよう。出版が2006年12月であるにもかかわらず、今頃書評が出るのは、評者が本格的な教科書に手こずったこともさることながら、1年近く書評希望者が現れず店ざらしになっていたことが大きい。これが、生化学を「面倒な」もしくは「古い」分野として敬遠する風潮を反映したものだとすると今後が心配である。

生物科学ニュース 2008年4月号(No. 436) p.4