新しい発生生物学

木下圭、浅島誠著、講談社ブルーバックス、2003年、256頁、940円

シュペーマンの誘導の実験などから始まる胚発生の研究を最先端の部分まで紹介した本です。語り口は極めてやさしく丁寧なのですが、内容はかなり歯ごたえがあります。教科書というよりは、研究の紹介であって、研究のバックグラウンドとして必要な部分が教科書的に紹介される、という程度です。発生生物学という学問分野が紹介されるわけですが、その面白みが伝わるかどうか、という点では微妙なところでしょう。著者が研究を面白いと思ってやっていることは十分に伝わってきますし、シュペーマンの古典的な実験や、特定の誘導によって形態が大きく変化した写真などは、なるほど、と感じさせます。一方で、誘導のメカニズムは、多くの因子が複雑に絡み合って引き起こされることがわかり、1つの誘導因子が特定の組織を誘導する、といった古典的な考え方では追いつかなくなっていることがわかります。どうしても、多くの遺伝子の名前が羅列的に紹介することになりますから、なかなか興味を維持するのが難しいところも出てきます。全体として、誘導という極めて面白い現象から出発したことはわかりますが、研究が深まるにつれて、それが複雑な遺伝子発現の連鎖によって引き起こされることがわかると、それ以降は、例えば、ある組織の誘導の場合は、AからBからCからDという遺伝子にシグナルが伝わり、別の組織の誘導の場合は、EからFからCからGという遺伝子にシグナルが伝わる、といった個別の遺伝子名との対応関係の解明になってしまうような気がします。いわば一種の神経衰弱のような感じで、カードを次々めくってどこに何があるかを見つけていくだけ、という気がします。評者は専門ではないので、実際のところはわかりませんが。

書き下ろし 2006年8月